第3話 やりがいと充実の日々
「というわけで、しばらく貸してね」
「なにが、『というわけ』よ!」
メリアの小気味よいリアクションが本当の拒否ではないと知る私は、ぷりぷり怒りつつも後ろをついてくるのを確認しながら、ちょうどいい場所を探した。
今、私はメリアの離宮に突撃しにきている。
メリアの滞在している離宮は、王城からは見えない位置に造られた、いわゆる隠れ家だった。
元はなんらかの事情がある時、例えば一時的に身を隠す必要があった際などに使われていたらしい。
知らんけど。
今回の離宮使用は、建国祭でのクーデター阻止の後、心をすり減らしたメリアのため寮から住まいを移し心身の回復に務めるためと、クリストフ殿下が組織した心療スタッフの実践への協力という形をとり実現したものらしい。
「自分の部屋でやればいいじゃない」
「なるべく秘密で作業がしたいの〜!」
ベストポジション探しにうろつく私の後ろをついてきつつ、メリアの小言はまだやまない。
王城から見えないということ、王城のメイドとは指揮系統の異なる使用人が管理しているため、王妃様への贈り物作りにはもってこいだと思い立ったのが、さっき。
ここにいるのはクリストフ殿下が新設した部署のスタッフが常駐している。
王城関係者というより、お役人という方が合っている。
しかも上司がクリストフ殿下なのだから、安心というものだ。
そんなわけで、おねがい〜おねがい〜とメリアにまとわりつきつつ、すでに秘密の作業場所を探しているのが今。
「私もそろそろ寮へ戻るのよ。いつまでもここにいるわけじゃないの」
「いつからだっけ?」
「今年の新入生とタイミングを合わせるわ。もう一度一年生からやりなおすの」
「メリア……。平気?」
たとえタイミングを合わせるといっても、3つも歳の離れた世代ともう一度同じ授業をやり直すなんて、嫌じゃなかっただろうか?
メリアがまた無理をしているんじゃないかと心配になっていると、メリアに軽く笑い飛ばされた。
「むしろありがたいくらいよ。同じ場所に戻る方がちょっとキツイかな。私、『王子様と結婚すればなんとでもなる〜』と思って、真面目にやってこなかったから、ついていけないと思うし。それに、何も知らない子たちとやり直せるチャンスをもらえて、よかったな〜って思ってる」
「ーーそっか」
メリアが納得しているならよかった。
育つ過程で何も問題がない人なんて、きっといない。
ましてや親というのは子供にとって世界のすべてだったりする。
その中で育まれた歪さが、歪であることも、自分にはもっと開けた世界があることも、感じる感情が何を知らせてくれるかも、周りの大人が示してくれて初めてわかることだって多い。
けど、メリアはそれを自分の中で消化する方法を知らなかったから、人より遅かっただけだ。
この半年ぐらいの間に、メリアはめきめきと成長を遂げた。
最近じゃ私の方が教わることが多いくらいに。
「エルナは先輩になるわね」
「そういうのいらないから〜」
「そういうわけには行かないわよ。曲がりなりにもこの世界には身分制度があるの。ましてやあなたは王太子の婚約者なんだから、不敬な態度はとれないのよ。ホントは」
「ホントは、ね」
ぷっ ふふ、ぷははは!
互いにたくらみ顔をすれば、堪えきれず吹き出してしまう。
「それで、何を作るの?」
ひとしきり笑ったあと、メリアは私が持ち込んだ素材と工具に話題を移した。
両手で持てるくらいの箱の中には、田舎から送ってもらった夜光貝とヤスリや器などがまとめて入れてあった。
「夜光貝って知ってる?」
「うーん、どうだろ。見てみてもいい?」
「いいよ。まだ削ったり磨いたりするから、完成品ではないけど」
整形と軽い削りまで施された夜光貝を見せる。
磨いていないため、やや曇ったテクスチャーだが、特徴的な青緑色が見える状態だ。
「この色はすごく好き!前世でも宝飾品は好きだったけど、見た覚えはないかも」
「実は私も。でも、うちの領地の特産品なんだ。作業はめっちゃ粉出るから、そこの屋根のある外でやりたいの」
「そうなのね。まあ、私は勝手に寮に戻る準備してるから、ご自由にどうぞ」
「やったー!!」
よ〜し!秘密の作業場ゲット!
そんなこんなで、クリストフ殿下には十中八九バレるんでしょうけど、王妃様の生誕祭にむけて特別な贈り物作りができる環境を手に入れた。
ゴーグルをして、マスクをして、風の通る軒先でこっそり作業を繰り返す。
夜光貝は硬い。めちゃくちゃ硬い。
残りの削りと磨きといっても、学業と生徒会と妃教育を同時進行でこなす身には、あまり作業に割ける時間はなかった。
しかも週末しか王城の部屋には滞在していないのだ。
だが、おあつらえ向きに卒業生を送り出したあとに長期休みに入ったため、頑張ればまとまって作業に没頭する時間がとれた。
こっそり作業する私、新学期に合わせて離宮を出る準備をすすめるメリア、たまにお茶をしにくるヴァレッタと様子を観にくるクリストフ殿下に見守られながら、目の前のことだけに集中できる環境にやりがいと充実感を覚える数日はとても満たされた日々だった。
あっという間に日々は流れ、メリアは寮に戻り、離宮には人影が消えた。
私の作業も完了し、納得のいく贈り物が仕上がった。
私も新学期からはひとつ上級生に繰り上がる。
最上級生よりひとつ下の学年だ。
残り少なくなった学園生活に、妙な緊張を感じる。
(卒業したら……)
クリストフに言われた言葉を思い出し、一人で勝手に焦る私。
卒業したらすぐにでも、け、け、結婚したいとか??
んぎゃあ〜〜〜
学園へ向かう馬車に揺られながら、誰にも観られていないのをいいことにのたうち回る。
同じ王城にいても、実はいうほど会えはしないのだ。
向こうは学園を卒業し、正式に王太子としての公務をこなしている。
それなりに忙しく、私は私で忙しい(秘密の作業もあったし!)。
国王様と王妃様もご一緒の晩餐に何度も招かれているうちに、おふたりとのおしゃべりはだんだん慣れてきた。
田舎の両親とはまた違った、娘扱いにくすぐったさを感じるも、義両親との関係が密になるにつれ、いずれはここが私の居場所になるのだという自覚が湧いてきたところだ。
「がんばろ」
窓越しに見えてきた学園の建物を見ながら、やる気を胸に私はひとつ頷いた。
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次のお話もぜひ、お楽しみに♪




