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後列モブは巻き込まれ体質すぎて悪役令嬢を放っておけない〜実は隠れ溺愛されてたとか受け入れられません!〜  作者: 皆神 わいら
第3章 悪役令嬢は願いを叶えたい

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第13話 知らない笑顔(アンリ視点)

会場に入るなり彼女を探せば、美しい黒髪がすぐに目に入った。

今宵のドレスは甘いミルクチョコレートのようなブラウンをまとい、見たこともない笑顔で微笑んでいる。

まるで私の瞳のようではないか?と心躍った直後、彼女の隣にブラウンのチーフをさした、見知った大男が目に入った。


(なぜ?)


なぜ、お前がそこにいる?

思わず立ち止まるも、後ろからやってきたクリストフに促されて王族席へ向かう。

グランツフェルト国王が入場してくるも、気になって仕方がない。


奴は記憶の中でも、常にヴァレッタの側に仕えていた従者だった。

驕ることも、出しゃばることもなく、ヴァレッタの忠臣でい続けた。


今回の留学では、戦禍で失われたという彼の実家のワインをぜひにでも持ち帰りたかった。


ヴァレッタ嬢らが母国奪還の進行中彼から聞いたのは、今はもう飲めなくなったというワインの話だった。

実家とはなかなか連絡が取りづらいという彼女の代わりに、頻繁にやり取りをしていたのが彼だった。

届く知らせが日に日にきな臭くなり、やがて国内が荒れ始めたことを知るや、彼女の表情に緊張感が漂い、ある日進軍の相談を受け、私が支援を申し出たのだ。


見事国を取り返した彼女と共に再建に乗り出すも、火に焼かれた畑を元通りにするのは困難であった。

であればこそ、まだなにも起きていないのなら、失われていないならばとそのワインを求めたのだ。


(帰っていたんだな)


それにしても。

戻って日が浅いはずなのに、いつのまにここまで話が整ったのか。

つい先日までは、心が定まっていないかのようであった。

ところが、今しがたグランツフェルト国王夫妻の前では『婚約』を報告していた。

もやもやと渦巻く思いが表情にでてしまったのか、クリストフに少し外へ出ようと誘われた。


「アンリ」


クリストフに飲み物を差し出され、一気に煽った。


「愛しの婚約者を放っておいていいのか?」

「わがままを言ってくれるなら嬉しいぐらいだよ」

「フン」


不満のままに軽く冷やかしてやれば、惚気で返された。

これだからコイツは。


「知っていたか?」

「何を?」


私の隣で手すりを背に、品よくグラスを口につける。

失敗したな。一気になど飲むんじゃなかった。


「何を求めるかは、本人でなければ知る由もない」

「それにしては、君は思い通りにことを動かすのが得意だな」

「ふふ」


手に持つことの意味をなくしたグラスが邪魔でしょうがない。


「私はね、誰もが自分の思いを叶えられるのが当たり前の世界を信じているだけだよ」


グラスの飲み物越しに宴の様子を眺める奴の目には、何が映っているのだろうか。


「君が自分の物語を生きるように、彼女も彼女の物語を生きている。それはなにものにも止められない。そうだろう?」

「つまり、彼女の物語を認めろと?」

「君が認めなくても、彼女は自分の物語を選んだ。ただそれだけだ」


選んだ、か。

確かに選んだのだろう。

ここまでのことは、私の知る記憶とはかなり食い違っている。

記憶はあくまで記憶であり、現実ではないということか。


ふと、先のほどの彼女の笑顔が頭をよぎる。

私の物語へ彼女を引き込むことは、彼女の選択を奪うこと。

私に私の望みがあるように、彼女にも彼女の望みがあった。

それが私の望みと同じではなかったということか。


(まさか、これが独りよがりだとは思いもしなかったさ)


彼女の望みを叶えられるのは私なのだと思っていた。

あの笑顔を守れるのは私なのだと思っていた。


いや……。

私が選択をすれば、確かに守れるのだ。


「君が好きなものはなんだい?」

「考えたこともないな」

「では、これからは自分の好きなものを知ることから始めてみてはどうかな」


彼女が好きだった。

……違う。

彼女が私のものであると信じて疑わず、ただそれだけを見ていた。


彼女自身を、見ていなかったのは私か。


「祝いの言葉を伝えにいきたい。付き合ってくれるか」

「もちろん。その前に、私の最愛を誘うのが必須だ」

「いいだろう」


バルコニーから戻れば、近くの使用人にグラスを戻した。

王妃と楽しそうに笑う婚約者を、引き留めようとする王妃から引き剥がして連れてくる奴は、無理を強いているようで、そうでないのだとか。


「もっと勉強させてもらえばよかったな」


ホールへ降りれば、和やかな雰囲気にすでに『家族』であることを感じさせる一団がいた。

そこにいるのは自分だと思っていた。

しかし、私が見ていたのは記憶の彼女であって、目の前の彼女ではなかった。


こんな笑顔の君を、私は知らない。

この笑顔にできるのは、私ではないのだな。

それを、記憶の私も知らなかったのだ。


「今夜は付き合ってくれよ」

「仕方がないな」


宴の後に奴の部屋へ突撃し、持ち帰るはずのワインを一本拝借した。

なんとも味わい深い夜だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

次のお話もぜひ、お楽しみに♪

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