第12話 送別の宴にて
会場に着くと、すでに多くの貴族と子女が入場の列をなしていました。
私は彼のエスコートで馬車を降りると、到着を告げ会場へと入っていきます。
あたたかみのあるブラウンのドレスには黒の縁取り。
隣を歩く彼のタイにも同じ布があしらわれています。
なぜこんなことができたかって?
実は、以前から用意をしていたのです。
いつかこれを着て、彼と歩く日を夢見て。
このドレス以外にもいくつも……
袖を通したのはこれが初めて。
彼のヘーゼルブラウンの瞳に、私が映ります。
ふふ、宴の会場は初めてではないでしょうに。
いつもは警護として会場に張り付いていた彼も、今日は私の横。
だって、私の婚約者様なのだから。
お父様とお母様とも落ち合い、挨拶をしてまわります。
やがて王族の入場を知らせるファンファーレが鳴り響き、奥の重厚な扉が開きました。
先に登場したのは本日の主役、アンリ王子殿下。
にこやかに微笑みながら前へ進むも、途中でわずかに目を見開き立ち止まっています。
そんなアンリ殿下を誘うようにクリストフ王太子殿下とエルナが入場すると、アンリ王子殿下とともに席へ移動していきました。
(エルナ、今日も可愛らしいわ)
輝きを抑えた銀のドレス。
胸元のジュエリーは青い石をあしらっており、殿下の独占欲が透けて見えます。
国王様と王妃様が連れ立って入場され席につかれると、グラスを手にクリストフ殿下が開会を宣言しました。
隣国の王子の留学が期間を終えること、その宴を楽しむようにと言葉を添えて。
「では行くか」
父上が声をかけ、皆でご挨拶へ伺います。
もちろん、ルーファスも一緒に。
父上が代表してご挨拶申し上げれば、国王様からの簡単な応えの後、王妃様からお言葉を賜りました。
「ヴァレッタ。私の言葉があなたに届いたようで嬉しく思います」
「はい。王妃様には重ね重ね、温かいお言葉をいただきーー」
「よい。それより紹介してくれるな、公爵よ」
かしこまれるのを好かない王妃様は私の言葉もそこそこに、早く紹介しろと急かします。
我が家としては慣れた光景のため気にも止めませんが、ルーファスはどこか青ざめています。
(あなたも早く慣れるのですよ)
「は。こたび、我が最愛の娘の婚約がなったことをご報告申し上げます」
「ぬ?」
「うむ」
いつもながら反応の可愛らしい国王様は、大きく目を開かれて驚かれています。
かたや王妃様は心得ているかのように応答されました。
「卒業後には子爵を継ぐことになります。ルーファス、ご挨拶を」
「は、はい!ご紹介にあずかりました!ルーファス・ヴァインハルトでございます!」
(ふふ、この先を話すのは今のルーファスにはきっと酷ね。)
そう思った私は、その先を続けることにしました。
「彼が私の選択でございます。王妃様」
「そうであるか」
王妃様と私の視線が絡み、感謝の気持ちを込めてみつめました。
ふっと緩んだ目元に、伝わったのだと確信をし、彼の腕をきゅっとだきしめます。
「今宵も楽しむが良い」
「は」
ホールへ戻れば、息をつめていたのかルーファスがぷはっと息を吐きました。
「どうした、ルーファスよ。息でも止めておったか」
「まさか誰よりも早く国王様にご挨拶することになるとは思いませんでしたので」
「国内貴族筆頭の我が家がいかなければ、後がつまるではないか」
「そうなのですが」
田舎子爵の三男坊にはハードルが高かったようです。
そうこうしていると、友人の可愛らしい声が聞こえてきました。
「ヴァレッタ。ここにいたのね」
「エルナ」
クリストフ殿下と連れ立って歩いてきたのは、未来の王太子妃で友人のエルナ。
傍にぴったりとつく殿下に、私は最近鬱陶しさすら感じています。
そしてその後ろからついてきたのは、アンリ王子殿下でした。
「ヴァレッタ嬢……」
「アンリ王子殿下。ご紹介します。彼はルーファス・ヴァインハルト。さきほど国王様並びに王妃様にご許可を賜りました、私の婚約者です」
瞬間、苦しそうに顔を歪ませたアンリ殿下もすぐにいつものようなおだやかな表情に戻ると、祝いの言葉をくださいました。
「おめでとう。これが君の返事なんだね」
「はい」
必ず返事はする、とお伝えしました。
きっとあなたの予想とは違う返事であったことでしょう。
申し訳なく思いつつも、原作での功労の感謝も、学園祭での助力の感謝も、私の意思を変えるものではないのだと私は学びました。
(心から、ありがとうございました)
「ヴァインハルト卿、私の要望通りにワインを用意してくれてありがとう。きっと我が国民も喜ぶはずだ。これから忙しくなるだろう、今後もよろしく頼むよ」
「田舎領地のワインなんぞに目をかけてくださり嬉しい限りです。ぜひ皆様にお楽しみいただければ幸いです」
宴の中盤ではトビアスさまから生徒会での尽力のエピソードなど、いかにアンリ王子殿下が我が国での留学で活躍してくれたかをスピーチしていました。
そして、宴もたけなわとなるころ主役の挨拶を求められたアンリ王子殿下は、この国に来れたことを感謝し、クリストフ殿下との変わらぬ友情を誓って終宴となりました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
次のお話もぜひ、お楽しみに♪




