第9話 新生徒会の発足(2)
そこにいたのは、マナーの授業で以前同じグループに組み分けされた女生徒のひとりでした。
「クラーラさん?」
「ヴァレッタ様、先日はありがとうございました。実は……」
視線をずらした先を追うと、彼女の横からひとりの男性が進み出てきました。
「お初にお目にかかります。クラーラの婚約者のヨナス・ゲントナーと申します」
「まあ」
生徒会の新メンバーに顔見知りの姿をみつけ、多少の驚きを隠せません。
「おや、もう自己紹介を始めてしまいましたか?メンバーも揃ったことですし、いいでしょう。まずは新メンバーを紹介します」
ヨナス様はクリストフ殿下の弟君の側近のおひとりなのだそう。
その婚約者であるクラーラ様も合わせてお支えするということで、生徒会の声がかかったそうです。
お仕えする弟殿下のご入学までの一年で生徒会の業務に慣れ、ご入学された暁には弟殿下が生徒会長に就任されるのでしょう。
クラーラさんと同学年だそうなので、次は2年生になるのですね。
ヨナス様に続いてクラーラさんが自己紹介をされると、クラウス様の横にいらしたご令息が前に進みでられました。
「私の友人のオットマーです」
「オットマー・バルテルです。よろしくお願いします」
次期生徒会長となられるクラウス様は、ご自身の気のおけないご友人を誘われたとのこと。
クラウス様に似て、真面目そうなご令息です。
そして、ディートリッヒ様の横にいらしゃるご令嬢が口を開きました。
「レオニー・ドルンです。姫様、よろしくお願いします」
「レオニー嬢、あなたはまず生徒会メンバーとして仕事をしていただきますからね」
「はい!もちろんです」
エルナへ向かって挨拶をしていたレオニー様を、トビアス様が嗜めています。
生徒会メンバーとしての召集のはずが、まるで新人の護衛騎士の挨拶のようでしたものね。
騎士希望のディートリッヒ様の婚約者様は、同じく騎士を希望されているそう。
受け答えを聞くぶんには、どうやら、とても一本気の方のようです。
(一度、手合わせしていただけないかしら)
なんて。
私も生徒会メンバーの挨拶中であることを忘れて声をかけそうになってしまいました。
ここはぐっと堪えて、あとでお声がけすることにします。
姫様と呼ばれた当のエルナはというと、こっそり脱走しようとしたところをクリストフ殿下にみつかり、引きずられるように連行されていました。
妃教育が進んではいても、苦手なものは苦手なままのようです。
それも今のうちでしょうが。
新メンバーに続き、既存メンバーの自己紹介を終えると、トビアス様がこれからのことをご説明されました。
まずは日程の迫ったお別れの宴でのお仕事のことでしょう。
微笑ましく見ていると、いつのまにかアンリ王子殿下が横に来ていました。
「ヴァレッタ嬢、少しいいかな」
(そうなりますよね)
小さく囁かれた声に、私も小さく頷きを返します。
賑やかな生徒会室を静かに退室し向かった先は、人の訪れることが少ない奥庭でした。
屋外に設置されたお茶会施設の中でも、奥庭は行き来に時間がかかることもあり、あまり利用されていません。
その代わり、手入れの行き届いた薔薇の垣根が美しく、開花の季節になれば一面に薔薇の香りを漂わせる様が人気の場所でした。
「私は来週、国に帰る」
「はい」
花の季節を過ぎた垣根は、艶やかな濃い緑の葉を茂らせています。
その垣根を背に、アンリ王子は口を開きました。
「君からの返事を聞きたいんだ」
ええ。わかっておりました。
けれど、今は。
「お返事はいたします」
「では!」
「ただ……、宴の日までお待ちいただけないでしょうか?」
じっとその瞳を見つめれば、彼はいつものように柔らかく微笑み了承を返してくれました。
「ああ、いいとも。よい返事を期待しているよ」
良い返事、とはどのような返事でしょうか。
それは、アンリ王子にとってですか?
それとも、私にとってでしょうか?
どこか機嫌をよくされたアンリ王子が、帰国の土産にグランツフェルトの産物をいくつか持ち帰るのだと話し始めました。
その中に、ヴァインハルト産のワインがあることを知り、私は得心がいきました。
「ヴァインハルトのワインは絶品と聞いてね。我が国はワイン好きが多いんだ」
ヴァインハルトは、ルーファス様のご実家。
国内のワインの中でもとりわけ人気の銘柄を産出している領地です。
そのためにかなりの量を手配したのだそう。
どおりで、彼の姿がどこにもないと思いました。
アンリ殿下のお願いを叶えるためだったのですね。
上機嫌に話されるアンリ殿下に相槌を打ちながら、生徒会室へ足を向けます。
宴でのエスコートを願い出られるも、主役の隣で視線を奪うような真似はできないと丁重にお断りし、私はアンリ王子の御前を辞去しました。
その日、学園から戻ると私は父上の執務室に直行しました。
「お父様、お時間をいただけますか?」
アンリ殿下をお送りする宴まで、あと一週間。
私には、やることがあるのです。
心なしか慌てているヴァレッタさん……。
次のお話もお楽しみに。




