第4話 しどろもどろのお茶会
15歳で入学し、19歳で卒業をする、5年制の貴族養成期間がこの学園です。
3年次生となる私たちは、下級生の手ほどきや見本となるべく、共同で授業を行うことがあります。
中でも礼儀作法やダンスは全学年が合同になることの多い授業。
今日はお茶会作法の試験を前に、主催役や来客役を交互に行う実習授業でした。
「まずはそれぞれ相手グループがお客様と仮定して、どのようにおもてなしをするかグループで話し合って計画を立てましょう。ある程度時間を置いてから、ロールプレイをします」
マナーの授業の教師が指示をすれば、エルナが真剣にメモをしています。
まるで新入生のような集中力に、ふっと力が抜けてしまいました。
「今回の計画の主導は3年次が指揮をとってください。4年次生は適宜フォローしてあげるように」
その声を起点に、あらかじめ分けられたグループが集まってきます。
さて、私たちもグループ作業に入ります。
グループの中には1年次生から4年次生までいます。5年次生は卒業が近いこともあり、私たちの試験官役として、試験当日のお客様をしてくださいます。
妃教育を学び始めたばかりのエルナとは別のグループに組み分けをされました。
私はいつも一緒に移動していらっしゃるノーラ様と同じグループです。
ノーラ様を伺えば、微笑んで頷かれました。
(これは、どうぞということかしらね)
声を出さずに主張する仕草に、勉強になるわ、と感心しながら、私はこのグループを主導することにします。
「さて、それでは先生の指示にもありましたように3年次の私がロールプレイの指揮をとらせていただきますね。下級生の皆さんは美しいカップの持ち方や優雅なエスコートのされ方などをこれまで学んでいらしたと思います。今日はそれらを実践しつつ、貴族社会で必須となる社交術を実際に体験しながら学んでいきましょう。先輩方からのご指導がわたくしどもの学びになりますので、どうぞ細かなことでもご指摘いただけるとありがたく存じます」
よろしくお願いします、と互いに軽く頭を下げます。
「では早速ですが、相手グループのお客様についてリサーチしましょう。お客様同士の関係性やお好み、現在の情勢なども考慮することが大切です」
上級生の先輩方は、頷きながらもペンを走らせています。
すると、おそるおそる手をあげる下級生が。
「1年のクラーラ・ディンガーです。あの、相手グループにはエルナ様がいらっしゃるようですが、その……ヴァレッタ様との仲はいかがですか?」
あら。
もしかして、クラーラ嬢は殿下とのことをおっしゃっているのかしら?
私としては遥か昔のように思えていたので、すっかり失念していましたが、何も知らない方からすればわからないものですよね。
「とてもよい質問ですね。そう、こういったことも事前に情報を集めておくことが大切です。日頃からアンテナを張ることはもちろん、詳しい方にお聞きするのもいい方法ですね。ただ、本人に直接お聞きするのは実際には失礼に当たる場合にありますから注意しましょう。でも今日は授業の一環ですので構いません。クラーラさん、良い題材をありがとう存じます」
勇気を出して質問したことが評価されて嬉しかったのか、クラーラ嬢ははにかんだように顔を赤らめました。
ふふ、可愛らしいわ。初々しい仕草に思わず口元を緩めていると、なにやらグループのメンバーが互いに顔を見合わせ、私の方を向き直りました。
「でしたら、お聞きしたいのだけど……」
「え?」
それからなぜか、怒涛の質問責めにあってしまいました。
「エルナ様とご一緒でいることが多いようにお見受けしますが、本当に仲がよろしくていらっしゃるの?」
「クリストフ殿下のことを今でも思っていらっしゃるなんてことはあるのかしら?」
「アンリ殿下に求婚されたと聞いたのだけど、お返事は?」
「ええと〜……」
考えすぎの質問もあれば、まだ考えていない質問もあり、しどろもどろになってしまいます。
これじゃまるで、腹の探り合いのロールプレイだわ。今日の授業の主旨に反する。
けれど私も公爵令嬢。ここで怯んでいては、我が家の沽券に関わります。
「エルナ様とは本当に仲良しよ。彼女が殿下のお相手に決まったことだっていちばんに祝福したもの」
へえ。と言いながら次の答えを促す、我がグループの面々。
なんだか危機迫っているみたい。
「殿下のことだって、我が国の王太子として尊敬してはいるけれど、貴族としての義務以外の感情はないわ。今までも、これからも」
「まあ。じゃあ尚更、アンリ殿下とのことが気になるわ」
先輩方はそちらの方にご興味がおありなんですね。
確かに、クリストフ殿下と同い年でいらっしゃるアンリ王子殿下は先輩方からしたら一つ年上で、歳周り的にも丁度良いのかもしれません。
ただ、ーー滅多なことは言えない。それも貴族としての嗜みのひとつです。
「同じ生徒会のメンバーとして、親しくさせていただいています」
私は当たり障りなく、嘘偽りでもないラインを慎重にお伝えします。
「歓迎の宴には私も出席いたしました。ファーストダンスを踊られた後、求婚されていらっしゃいましたでしょ?」
本来であれば、ここまであけすけに問いただすことは貴族らしからぬ行為。
でも、私がさきほど『構わない』と言ったことを逆手にとっていらっしゃるんだわ。
(なんと答えたら良いやら)
言葉に詰まる私を見て、先輩方はさらに畳み掛けてきます。
「もしかして、まだ言えない何かがおありなの?」
これはズルい。
ある、と答えれば求婚に応えるのような印象を与えるし、ないと答えれば事実の歪曲ともなりかねない。
「私も気になっていたんです。アンリ王子殿下は、この国にお嫁さん探しをしにいらしたとお聞きしたもので」
「え?」
初耳だった。
生徒会メンバーには、留学としか説明されていない。
なぜこの時期だったのかも、何を目的として留学しにきたのかも。
するとそこへ、ノーラ様が口を開いた。
「ヴァレッタ様には本命のお方がいらっしゃるのです。アンリ王子との疑惑はその辺で勘弁してさしあげてくださいな」
え?
私は、思わずノーラ様の顔を凝視してしまいました。
「でも、その本命が知りたいのです」
「ですから、ご勘弁くださいということですわ」
確かに私は以前、私と行動を共にしてくれているクラスメイトにお慕いしている方がいると伝えたことがありました。
当時はクリストフ殿下との婚約が解消され、クラスメイトがいらぬ疑惑に駆られぬように、そして私自身の本心をわかってほしいという思いからのことでしたがーー
こうして公然と明言するためにお伝えしたのではないのです。
想定外の話の流れに呆然としてしまった私は、そこから何を考えれば良いのやら、どうこうどうすればよいのやら、わからなくなってしまいました。
授業後、ノーラ様をお引き止めすれば、「あそこで話を中断するには、他に手がありませんでしたの。なるべく穏便にすませたつもりだったのですけれど、大丈夫だったかしら?」と心配をかけてしまったようでした。
大丈夫?と問われれば、はいとした答えようがないものです。
確かに、どちらともとれる答え方ではありましたが……
貴族としての選択か、私としての選択か、決めきれていない状況を責められているようで、私のこころは重く沈んだままなのでした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
次のお話もぜひ、お楽しみに♪




