第19話 ヴァレッタ様を囲む会
「コーデリア様、このお茶もお出しになるの?」
「ええ、華やかな香りがいたしますでしょう?ヴァレッタ様の感想もお聞きしたいですわ」
「甘ったるくないところが気に入りました。お菓子はどのようなものをお出しになるの?」
私は今、ヴァレッタ様にまたもや引きずられて、お茶会室に顔を出している。
「それにしても、皆様には感謝しかございませんわ。ね、エルナ」
「いいえ、むしろ人手が足りなかったらどうしようかと思っていたところでしたの。ご参加いただけて良かったわ」
「本当に、ありがとうございます」
私は同じテーブルを囲むこのグループの代表、コーデリア様に頭を下げた。
ヴァレッタ様の取り巻き令嬢たちは、この学園祭でティールームを開催するらしい。
学園の中でもいちばん広いお茶会室を会場に、来場者に休憩やお菓子を振る舞うそうだ。
当日の練習も兼ねて、私たちをお客様役にご令嬢たちが動きを確認したりと忙しない。
学園に残ることは決まったものの、いまさら生徒会に戻るのはどうにも恥ずかしいとゴネるとヴァレッタ様がこのグループを紹介してくれたのだった。
コーデリア様はヴァレッタ様の取り巻きの中でも両隣、つまり一列目令嬢のお方だ。
「エルナ様も意見を聞かせてくださいまし」
「そうですね、私はこのフルーティなものがいいなと思います」
「まあ!さすが見所がございますのね!これはスライスしたフルーツといっしょにいれたものなんですよ」
「ああ、それで。ということは、どんなフルーツを使っているかメニュー表に書いた方がいいと思いますよ」
差し出口だったかな?と思いつつも、ちょっと頑張って意見をしてみる。
「あら、どうして?」
「場合によってはアレルギーをお持ちの方がいらっしゃるかもしれません。興味を引くこともできますし、念の為ということで」
「そうなのね、ではそうしましょう。当日用のレシピにも書いておいた方がいいわね」
コーデリア様は手元の可愛らしいメモ帳にどんどん書き込んでいく。
思っていたよりすんなり受け入れてもらえた。
「当日はエルナ様にも何か動いていただきたいのだけど、ご希望はございます?」
希望、ということは”表”の仕事か”裏方”か、ということだ。
そう遅くないうちに、表に出なければいけない時がやってくるだろう。
けれど、今すぐ前にでろと言われると、それはまだ慣れない。
「それはもちろん、裏方で!」
「あらあら、エルナったら」
迷わず目立たない方を選んだ私を、ヴァレッタ様は困った子ねとでも言いたげに笑う。
「まだ、慣れなくって」
「よろしいではないですか。少しずつ慣れれば良いのです。ひとつずつ、小さいことから、絶対できるというものからやっていけばいいのです」
コーデリア様の好意的な反応に、暖かいものが広がった。
もし次、少しでもやれそうな気がしたら、試してもいいかなとは思えた。
でも。
「ええ、そうね。ね、未来の王妃様」
あの日、多くの学生にクリストフ殿下と抱き合う姿を目撃されてしまった。
ヴァレッタ様も生徒会室から見ていたというから、恥ずかしすぎる。
「とても情熱的でしたわ」
「ええ、本当に。羨ましくなってしまいました」
口々に伝えられる感想を、私はどう処理したらいいのか今だにわからない。
曖昧な顔でありがとうと答えるのが精一杯。
そんな私をみて、ヴァレッタ様が励ましてくれる。
「大丈夫よ、わたくしが教えてさしあげます。お任せになって」
公爵令嬢としても、王子の元婚約者としても、レベルの高い教育を受けてきたヴァレッタ様はなにか新しい目的をみつけたように生き生きとしている。
その時、入口の方からノックをする音がして振り返ると金と銀の麗人が立っていた。
「やあ、お邪魔するよ。ヴァレッタ嬢、そろそろ生徒会の方にお戻りいただきたいかな」
留学生の身ながら、生徒会を手伝うアンリ王子殿下はすっかり戦力として活躍しているらしい。
私を紹介するために一旦抜けてきたヴァレッタを呼び戻しにきたようだ。
そしてーー
「私の可愛い子がご厄介になると聞いてね。私からもご挨拶に伺った次第だよ」
うう、あなたそういうキャラでしたっけ?
あたりまえのように私の横へやってくると、なぜか頭を撫でてくる。
この前もそうしていたけど、私としてはどう反応したらいいかわからず、されるがままだ。
「あら、クリストフ王太子殿下までお越しになるなんて、生徒会がガラ空きになってしまいますわよ」
「おや、それは大変だ。ほら、ヴァレッタ嬢」
コーデリア様が茶化すと、これ幸いとアンリ王子が話に乗り、ヴァレッタ様を急かした。
「仕方がないですね。クリストフ殿下を追い払うわけにいきませんもの、失礼させていただきますわ」
渋々といった体でアンリ殿下にエスコートされて、ヴァレッタ様はお茶会室を退室して行った。
「それで、打ち合わせの方はまだかかるのかな?」
「いいえ、十分ですわ。グループメンバーも固まったし、エルナさんからアイディアもいただきましたからこれを当日までに用意するだけですもの。あとはお好きにどうぞ」
「えっ」
「ではエルナを預かっていくよ」
「どうぞご随意に」
「はわっ」
ああああ〜
私まだコーデリア様と話したかったかも〜、と思いつつその手を振り払えない。
以前より優しく掴まれているのに、磁石でくっついているのかな、離れないの。
取り巻き令嬢様方に見送られてお茶会室を退室すると、私たちも打ち合わせの必要があるんだよと王城へ連れて行かれた。
そしてついに対面してしまったこの国の王様と王妃様。
あまりとやかく言う両親じゃないから大丈夫だよ、と言われていたけれど、それと緊張とは別物なのよ〜。
遠くからしか拝見したことのないおふたりを前に私はカチコチに固まってしまった。
満足な挨拶すらできたか記憶があやふやなほどだったというのに、
彼の言う通り、特に王妃様からは好意的に受け入れてもらい、私たちの婚約はあっさり認められたのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
覚悟を決めると、案外拍子抜けするくらいうまくいく?
次のお話もぜひ、お楽しみに♪




