第15話 あるべき場所へ還るために
愛するエルナへ
王都から商人から話を聞きました。
建国劇では大活躍をしたそうだね。
王城の宴では王太子殿下にエスコートをされ、ファーストダンスを踊ったとか。
未来の王太子妃ですねと言われたよ。
君の夢は、ここに帰ってくることではなかったかい?
領民に混じって、同じように遊び笑うのが好きなのだと思っていたけれど違ったかな?
エルナ、君は私たちの可愛い娘だ。
領民を大事に考える君を誇りに思っているよ。
けれど、君に王太子妃が務まるだろうか。
王太子妃ということは、ゆくゆくは王妃になることだろう。
私たちはとても心配しているのだ。
もしつらいのなら、早めにマリエンベルクに帰ってきなさい。
学園は卒業試験をパスすれば、所定の期間を通わなくても卒業資格を得られる。
賢い君ならきっとできるだろう。
南の海で君を待つ
父より
空気が薄いのかな。
吸っても吸っても、苦しいよ。
腕は動かせるけど、力が入らないよ。
「あ……、メリア様からの手紙」
気が動転したまま開けば、最近顔を見せにこないことへの軽い非難というか催促だった。
メリア様らしい文面に笑みが溢れる。
ヴァレッタ様も交えて、3人でお菓子作りをしたこと、前世のお菓子を再現しようとして失敗したこと、共通点をもつ3人だからこそできるおしゃべりが楽しかった。
「へへ、楽しかったな〜……」
引き出しからレターセットを取り出す。
(もう、いいよね)
紙の上をすべる筆先は、どこかなめらかで、心は凪いでいた。
「クリストフ殿下」
王城に滞在中のアンリ王子と学園へ向かおうとした矢先、離宮に配置していたスタッフから呼び止められた。
「これを」
馬車の中で書面を改めた。
向かい側に座るアンリ王子が怪訝な顔をして伺ってくる。
「今日も会議かい?」
学園祭が近づく中、生徒会はその準備に忙殺されている。
それは留学生として滞在しているアンリ王子も然りだ。
本人のたっての希望ではあるものの、迷惑をかけている認識はある。
ただでさえ人数を絞った生徒会メンバーに欠員が出たせいもあって。
「いや、会議ではないよ」
会議の出席要請ではない。
しかし、これは、看過できないものだった。
「待たせてすまない。それで、なんの話だったか」
途中まで話していた話題を振り直す。
アンリは少し不思議そうな顔をしたものの、すぐに話題に戻って話し始めた。
学園までの道すがら、私たちはこうして互いの国の話やさまざまな情報を共有している。
表情に出さないまま会話を続けるも、頭の隅で書面で伝えられた情報に専有されていた。
『エルナが領地に戻ると連絡をしてきましたーーメリア』
エルナが生徒会を辞めてしまったと聞いたのは、欠席できない会議から戻ってきてからのことだった。
数日前から様子がおかしかった。
エルナの様子も、生徒たちの様子も。
トビアスに業務を指示して王城に戻ったものの、私が出なければならないほどの内容ではなかった。
要請だけが、王太子の出席必須となっていた。
自分がいることで生徒会の業務が滞ることになるなら、と退任したエルナを無理やり引き止めることはできなかった。
彼女にも時間が必要だと考えた。
そのうちに、会う時間をとることも、彼女を探す時間も取れなくて、ああ見えて事務処理能力の高いメンバーの抜けた穴の大きさを呪った。
学園に着くと、アンリ王子の対応を任せたクラウスとカールが待っていた。
ふたりにアンリを預け、私は急ぎ職員室を目指す。
たった数日離れただけだ。
顔を合わせない日だって、これまでもあった。
でも、これはダメだ。
君の領地が遠すぎるからじゃない。
ひとりにしてしまったことを悔いながら、私は先を急いだ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
次のお話もぜひ、お楽しみに♪




