第14話 元通りの日常
朝、寮を出て学園に向かう。
午前中の授業に出て、食堂で昼食をとる。
学園祭準備期間中は、午後は授業が休みとなる。
生徒たちはそれぞれが所属するグループの活動場所へ移動していった。
そして今、私は教室にひとり残っている。
いつもなら、ヴァレッタ様の行列の後ろをついていっていた。
いつもなら、取り巻き令嬢のおしゃべりを右から左に流しながら会話に参加しているような感覚を味わっていた。
いつもなら、ヴァレッタ様に手を引かれ、あっちへ連れてかれ、こっちへ巻き込まれしていた。
今、私のまわりは静かだ。
「どうしようかな」
生徒会にいたから、出展グループに所属していない。
気配を消して後列にいたモブだから、頼る友人もいない。
「今頃は会議してるんだろうな〜」
学園祭への出展の内容を審査する。
そのための正式な申請書だった。
期日までに提出されなかったため、生徒会のメンバーで手分けして回収してまわってくれた。
回収しても、そこで終わりじゃない。
内容を確認し、共有のための資料を作成し、教職員を交えて審査を行う。
その後も終わりじゃない。
予算を割り当て、配布し、物品の購入の審査や許可や、細々と口を出すのは生徒会での活動が王族のための教育を兼ねているからだそうだ。
もう、私には関係ないけど。
ふと、誰もいないであろう場所を思いついた。
「そうだ、図書室ならきっと」
みんな出展グループに割り当てられた教室で作業をしている。
必ずどこかのグループに所属しているから、図書室に来るような暇もないだろう。
私は所定の時刻が来るまで、図書室で時間を潰すことにした。
そろりと中を伺いながら入室する。
案の定、カウンターの司書先生以外は誰もいなかった。
軽く会釈をしてカウンター前を通り過ぎ、なんとなく端から本棚を眺めて歩く。
思えばこうやって自分の時間を持つのも久しぶりだ。
いつも誰かの後ろについて歩いて、目立たないようにどこかの影に隠れて、ちょっと引き摺り回されたりしたけど、あれは何かの間違いだ。
今私は、視線に晒されることもなく、何かをなすことも要求されず、静かな時間を手に入れた。
私が、望んでいたことだった。
気になる本を見つけて、本棚から抜き出し、図書室の奥まった位置にあったテーブルに座る。
静かで、隠れられて、穏やかな日差しが入り込む窓辺だった。
そうやって時間を過ごして、あっという間に数日が経った。
誰とも喋らない日々。
誰とも目を合わせない日々。
誰かの視線に映ることもなく、ひとりでただ時間を過ごすだけの日々だった。
慌ただしくて、煩わしくて、賑やかで、クスリと笑えてーー
どこか遠い日々は、もう自分のものではないような気がしていた
これが私の変わらぬ日常なんだ。
今日も下校時間を迎え、そそくさと帰り支度をする。
学園の隣にある寮に着くのはすぐだ。
いつもは寮母さんの横をなんとなく頭を下げて通り過ぎるだけだったが、今日は私の姿を見かけるや声をかけられた。
「お手紙が来ていますよ」
2通渡されたその手紙の差出人は、メリア様と領地のお父様からだった。
そういえば最近メリア様に会いに行けてない。
それもそうだ。
あれはヴァレッタ様の馬車に便乗させてもらっていたから行けていたにすぎない。
顔を出せていない申し訳なさを感じつつ、部屋へ戻る。
それにしても、お父様からだなんて。
こういうことをする人ではないのだ。
目の前の楽しいことを楽しむのが第一の、貴族らしからぬ人だ。
わざわざ手紙を送ってくるなんて、なにか緊急か、大事な知らせなのだろうか。
私はメリア様からの手紙は一旦机の上に置いて、先にお父様からの手紙を開くことにした。
開いて、読み始めて。
もう一度読んで。
その文字だけど、もう一度読んで。
何度読んでも、文字の上澄をさらうような感覚で、言葉の意味が入ってこなかった。
ーー帰ってきなさい。
ちがう。
意味を、理解したくなかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
次のお話もぜひ、お楽しみに♪




