第13話 知っていること知らないこと(アンリ視点)
「想像以上だったな」
グランツフェルトの手配してくれた使用人が部屋を退出し、残していったティーセットに口をつける。
留学を申し入れてみたところ存外すんなりと話が通り、こうして王城に一室用意もしてくれた。
今代のグランツフェルト王は無為の君主と聞いていたが、噂通りの御仁だった。
請われるままに許し、言われるままに了承し、まるでそれが上に立つもののあるべき姿とでもいうように玉座に安座している。
判断を避けるだけの丸投げは権限委譲でもなければ裁量でもない。
基準を示し、方向を示し、責任を分かち合わなければ組織の未来はない。
クーデターも国家の崩壊につながるのも当然だ、と思っていたがーー
(あの王太子)
父王と同様に、環境に不満を漏らし、責任を他に押し付け、癇癪を起こした子どものように覚悟も能力もない男爵令嬢と結ばれたかと思いきや国家転覆の一因となったポンコツだったはずだが。
密かに送り込んだ密偵からもたらされた、想定より早い婚約解消。
しかし我が国に逃れてこない公爵令嬢を想い、自ら乗り込んでみれば、解消したはずの元婚約者とは友好的な関係を保ちつつその隣には男爵令嬢ではない女。
特段目を引くわけでもなく、能力が高そうにも見えない。
数日いるだけでわかる。
建国祭で前例にない上演を行い、舞台上で求婚したのだとか。
ずいぶん情熱的じゃないか。
お芝居だったといえばそれまでだが、国民の熱気はたがか芝居と言い切れないほどの興奮を感じた。
さすがは娯楽の少ない国だ。
国民は刺激を求めている。
国家の運営者の思いとは裏腹に。
「貴族らしからぬ自然体にでも惹かれた、か?」
それこそ王国崩壊の序曲ではないか?
しかも生徒会の仕事すら満足にこなせず、問題を起こし自ら退任した。
それを心に病んでいるのは王太子と公爵令嬢だけの様子だったが。
「さて、どうなるかな」
学園がどうなろうと、グランツフェルトがどうなろうと、
ヴァレッタ嬢を娶れるのであれば、なんでもいい。
幼い頃、国家間の交流のため両親に伴ってグランツフェルトを訪れた。
王城に足を踏み入れると、なぜか流れてくる懐かしさを感じた。
「ここもしってるー、ここもしってるー」
幼いとはある意味パワーだ。
付けられた使用人を引きずりながら、王城を探検しては記憶と照合していた。
「そちらへ行ってはなりません」
自由にしていいと王様は言ったのに。
むくれながら来た道を戻りつつ振り返った先には、庭園の中にふたりの人物。
ふたりとも幼く、向かい合っていた。
その瞬間に思い出した。
(そうだ。私は知っている。ここにいたのだから)
我が国に逃れてきた公爵令嬢を支援し、母国の奪還に協力し、成功したのちにふたりでこの国を治めることになった。
(彼女は私の伴侶だ)
だから迎えにきた。
記憶とは少し違うが、婚約は解消された。
記憶とは少し違って、凛々しいはずの彼女にはどこか柔らかい雰囲気が漂っていた。
国家追放と王国奪取なんて憂き目に遭わなければ、あのように穏やかに微笑む人だったのか。
記憶とは異なる彼女に、実際に会って惚れ直した。
あの笑顔を守る者になりたい。
彼女は今つらい思いをしている。
あのご令嬢は、彼女が生徒会に引き入れたのだと聞いた。
心を許している友人が糾弾されたのは自分のせいでもあると語っていた。
このタイミングで留学できたことはある意味幸いだ。
彼女の心に寄り添おう。
あの時と同じだ。
傷ついた彼女を支え、彼女のやりたいことを支援しよう。
留学先の生徒会に参加し、彼女のそばで時を過ごそう。
記憶のままの未来を取り戻すために。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
えっ?アンリ王子も?
そうなんですよ〜
次のお話もぜひ、お楽しみに♪




