第12話 消えた伯爵令嬢
「期日は余裕をもって設定しておりましたが、その分我々の作業が圧迫されます。手分けして未申請のグループをまわり、直接受け取ってきてください」
トビアス様が指揮し、申請書の提出がされていないグループへ直に回収に回ることになった。
「幸い予定していたグループの半数ほどはすでに提出されていますからね。非現実的な数字ではありません。皆が手分けすれば今日中にも完了するでしょう」
でも、回収後は集計して、検討会議に上げるための資料にしなければならない。
仮申請時のリストを元に、生徒会メンバーに振り分ける。
私以外で。
「皆さん、お手間をとらせて申し訳ありません」
留守番として、生徒会室に残ることになった私は、アンリ王子殿下まで動員されていることに心苦しくなり頭を下げる。
「エルナ嬢、気にすることないよ。これは君一人の仕事ってわけじゃないんだからさ」
「そうそう。さくっと回収してきちゃうよ〜」
アンリ殿下が気休めの言葉を掛けてくれるが、申し訳ないけれど私の心は晴れない。
カール様の軽口も辛さが募るだけだ。
こんな時に限って、クリストフ殿下は抜けられない会議があると言って王城に戻ってしまっている。
私はひとり生徒会室で回収された書類をまとめる準備をしていた。
いつもは人が多くにぎやかな生徒会室に、私だけ。
窓際の大きなデスクを中心に、応接セットとデスクが並ぶ。
ひとりの沈黙が重くのしかかる中、書類に目を通していると扉をノックする音が聞こえた。
誰か戻ってきた?
でも、だとしたらノックしてから入ってくると思うはず。
誰かが訪ねてきたのだろうか、と扉を開けるとそこには廊下いっぱいの生徒たちがいた。
「それで、彼女は辞めると言ったんだな」
私、ヴァレッタ・ローゼンベルクは神妙に頷くしかできません。
王城から急ぎ戻ったクリストフ殿下は生徒会のメンバーから事態の聞き取りをされました。
私たちが申請書を回収し戻った時、生徒会の前には人が溢れていました。
そのすべてにエルナがひとりで応対しているところでした。
「なに?」
初めは何が起きているのかわからず、私は思わず立ち止まってしまいました。
生徒会のメンバーが戻ったにも関わらず、彼ら彼女らはエルナに対して強く詰め寄っているようでした。
事態が掴めず立ち止まったままの私の横にカール様が近づいてきました。
「ヴァレッタ様〜なになに?どうかしました?」
「それが、人が……」
カール様だけでなく、ひとり、ふたりと戻ってくる生徒会メンバー。
なぜ期日までに提出されなかったのがわからないくらい、すんなり回収ができたのです。
(おかしい。完成している申請書を提出しないままでいることも)
近寄ってみると、話している内容が聞き取れましたが、それはエルナ個人を糾弾するものでした。
「なぜモブなんかが生徒会をやっている」
「モブはモブらしく大人しくしていろ」
「求婚されていい気になっているんじゃないか」
「なんでモブがファーストダンスなんて踊ってる」
「王太子色のドレスを着るなんて、恥を知れ」
正直、聞いていて気持ちの良いものなどありませんでした。
そして意味のわからない誹りを大勢から浴びせかけられていたエルナは、苦しげに顔を歪ませると謝罪をして生徒会を辞めると宣言してしまったのです。
「自分は辞めるから、それでなんとかおさめてほしい、と」
そう言って、エルナは生徒会を辞めてしまいました。
私たちが申請書の回収にまわっている間に、詰めかけた生徒たちの言葉で。
「わかった」
一度ゆっくり目を閉じると、ひとつ息を吐いてクリストフ殿下は顔を上げられました。
「まずは目の前の業務を済ませよう。明日の会議の準備を」
その声に、私たちは手分けして回収した申請書の確認を始めることにしました。
確認作業の人員からあぶれたアンリ殿下がクリストフ殿下に近づいて何やら小声でやりとりをしています。
「クリストフ」
「アンリ、すまないな。生徒会に来て早々、巻き込んでしまった」
「いや、気にしないでくれ。集団というのは思いもよらない動きをするものだ。私たちのような人間はそのことをよく知らなければならない」
為政者側の人間だからこその冷静な言葉ではありましたが、エルナを大切にしたいクリストフ殿下にはどのように届いたのでしょうか。
私はエルナが責任を感じてしまわないよう、なんとしてでも今日中に作業をすませ、明日の会議を滞りなく終えようと心に誓ったのでした。
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次のお話もぜひ、お楽しみに♪




