第11話 みなさまは踊りがお上手(ノーラ視点)
「ノーラ様ご覧になった?」
ドレス姿のエリス様が駆け寄ってくる。
隣国から第3王子が留学してくるということで、開かれた宴には両親と参加した。
王族用の扉から優雅に入場してくるクリストフ様はいつものごとく輝いている。
隣を歩くベルフォールの王子も背が高く金の髪が美しかったが、やはりクリストフ殿下が一番だ。
銀糸の刺繍がシャンデリアの光をキラキラと返す。
華美なものを好まないと聞くクリストフ殿下は、フリルよりも細かい意匠に凝る方がお好みらしい。
装飾の押さえた衣装が、殿下の美しさをより引き立てているようだった。
階段の途中で会場を見まわし、何かを探すようなそぶりを見せるも、こちらの方向へ顔を向けると僅かに口元を緩めた。
(まさか、私をご覧に?)
よく見ていなければ気づかないほどの小さな変化を読み取れたことが嬉しくて、でも気づかぬふりをして殿下の到来を待つ。
(ああ、間違いない。こちらをご覧になっている)
あと少し、あと少し、そして目の前に殿下がいらした時にドレスの裾をつまみ、頭を下げようとした私の横を、殿下は颯爽と通り抜けていった。
「……」
まだ頭は下げ切っていない。下げようとした動きのままだ。
これなら軽い会釈と言い訳も立つ。
しかし、私は己の愚かしさに腑が煮えくりかえっていた。
つとめて優雅に後ろを伺えば、そこにはローゼンベルク家の面々と、あの貧乏令嬢がいた。
まるでクリストフ殿下の瞳のような青のドレスを着て。
その後ファーストダンスを踊り、ヴァレッタ様と共に退場した女の顔面は蒼白だった。
「ええ、見ていましたよ」
生徒会入りの申し入れを断られて以来、エリス様は少々敏感になっている。
「私にはどうにもできなくって、申し訳ないわ」
「ノーラ様?」
「だって、エリス様の方がよっぽど似合っていらっしゃるもの」
顔を赤らめて気をよくしたエリス様は、ご自身の家族を呼び私たちは挨拶を交わした。
エリス様のご生家ハルトマン家は商業で成功している新興の貴族家だ。
歴史は浅くとも、裕福さでは右に出るものはいない。
ハルトマンの奥様は頻繁にお茶会を開催されていることでも有名だ。
お茶会では新商品の試供し感想を集めたり国内の情報を集めているというがーー
エリス様のご家族も交えて歓談しながら、私はあの女のことを切なげに語った。
「まあ、そんなことが」
エリス様同様、ハルトマン家の方々は素直で正義感が強くていらっしゃる。
「王都での建国劇はご覧になりましたか?」
「残念ながら、建国祭はいつも領地に戻っているのよ」
「ではご覧になっていないのですね、あれを……」
「よく耳にはするのだけど。ノーラさんはご覧になったの?」
「ええ、私会場でヴァレッタ様の勇姿をこの目におさめようと。それなのに」
「まあ、詳しく聞かせて」
多くの領地持ち貴族は建国祭では領地に戻る。
そのため、実際に建国劇を見た貴族はさほど多くはない。
見てはいなくてもまわるのが噂だ。
観劇した数少ない貴族子女、商人、平民らは口々にその感想を言い合う。
それが使用人の耳に入り、娯楽の少ないものたちの格好の餌食になり、話には尾鰭がつき、歯鰭がつき、やがておもしろおかしく、様変わりをする。
生徒会入りを断られて以来、いく先々でため息を吐いては一言二言こぼす。
私がやったのはそれだけだ。
真実か、真実じゃないかはどうだっていい。
人は「自分が気づいた」と思ったことに固執する。
あらゆる言葉に影響をうけるのが人間だ。
気づけば周囲に奥様方が増えていた。
「ヴァレッタ様ならまだしも、貧乏伯爵家では、クリストフ殿下に迷惑がかかりますわ」
頷きあう奥様たちを横目にエリス様に耳打ちをする。
「エリス様とのダンスの方が見たかったですわ」
再び顔を赤らめるエリス嬢。
「ノーラ様、わたし、あなたとお友達でよかったわ」
ええ、私も。
踊りの上手なあなたが大好きですよ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
ノーラ様視点書くの、楽しいです……
次のお話もぜひ、お楽しみに♪




