第10話 不穏の始まり
「というわけで、アンリ王子殿下は生徒会として参加されることになりました」
「よろしく頼むよ」
嘘やろ。
歓迎の宴が明けて翌日の放課後。
生徒会室に現れたアンリ王子は、悪びれることもなく朗らかな笑顔で登場した。
学園祭のいずれかの出展グループに参加するのかと思いきや、ヴァレッタ様が生徒会にいると知るやいなや、「では生徒会を手伝えないだろうか」と希望されたのだそうだ。
チラリとヴァレッタ様を見ると、表情はいつもと変わらないが目の奥に光が見えない、気がする。
「学園祭当日までまだ日はあるが、申請や承認会議など、生徒会では細々とした業務が多い。アンリ王子にもご協力をいただきつつ、今年の学園祭を成功させましょう」
「はい」
トビアス様の激励を受け、私たちはまず自分の担当の業務に取り掛かった。
「申請書はどのくらい集まっていますか?」
クラウス様が出展グループの申請書の集まりを確認しに来た。
「え〜と、あれ?まだ半分も集まっていません」
「期日は明日でしたよね?」
「ええ、あれが無いと予算や備品の購入ができませんから」
「では先にこちらを済ませた方がいいようですね」
「わかりました」
私はグループ活動のために提出してもらった事前申請のリストをクラウス様と共有する。
「手分けをして提出を促していきましょう。私はこちらの校舎で活動しているグループをあたります」
「では、私はこっちを行きますね」
アンリ王子付きと支持されてはいるものの、生徒会業務では別行動もするらしい。
いや、たぶんアンリ王子はヴァレッタ様のいるところにいたいのだろう。
クラウス様を手を振り見送っていた。
私もリストを手に出展グループをまわることにした。
コンコン
「すみません。生徒会ですが、申請書の方はいかがですか?」
開け放たれた扉をノックしつつ、顔を突き合わせ談笑するグループへ声を掛けると、いくつもの顔が一斉にこちらを向いた。
なんだろう、なんか異様なーー
テーブル散乱した中には、申請書があるように見えた。
もう十分に記入しているように見える。
「なんですか?」
グループの中からひとりの令嬢が立ち上がり、近づいてきた。
その顔に笑顔はない。
「先日お渡しした申請書なんですが、提出期限が明日になっています。もう記入は済んでいますか?」
「まだです」
「そ、そうですか。では明日までに記入を済ませて提出してくださいね」
そう言い終わらないうちに扉を閉められた。
は?
一瞬何をされたのか分からなかった。
閉められた扉の前で呆然としていると、中から話し声が聞こえてくる。
「あいつだよ、モブのくせに最近やたら目立ってる」
「私昨日王城で見たわ、王太子殿下と踊ってたのよ」
「マジかよ」
「しかもファーストダンスよ」
「ドレスだってあの色。どういうつもりかしら」
「生徒会だってよ」
「モブがなにでしゃばってんだよ」
息が詰まった。
音を立てないように扉を離れ、やや早足で次の目的地へ向かった。
「はいはい、わかりましたー」
バタン
「ちょっと今忙しんで、また今度にしてください」
バタン
「……」
バタン
どのグループへ行っても、態度は同じだった。
ろくに話も聞いてもらえず、なかば門前払いで生徒会室に戻ることになった。
「戻りました」
「あぁ、エルナさん。どうでした?こっちはほとんど集まりましたよ」
「それがーー」
途中まで言いかけて、私は言葉を詰まらせた。
(なんて言えばいいの?)
話を聞いてもらえませんでした。
出してもらえませんでした。
ーー記入は済んでそうだったけど。
(もしかして、私だからダメだった?)
扉を閉めた後に聞こえてきた言葉が頭をぐるぐるとまわる。
急に息苦しさを感じて、立ち上がり窓を開ける。
流れ込む風に、少し落ち着けそうな、気がする。
「エルナさん?」
クラウス様が不思議そうに声を掛ける。
そこへクリストフ殿下が戻ってきた。
「どうした?」
「それが、エルナさんの様子がちょっと」
「エルナ」
こういう時、なんで来ちゃうかな。
窓ガラスに映る自分の顔が目に入る。
ひどい顔。
こんな顔、見せたくない。
「エルナ、どうした?」
いつのまにか呼び捨てにするし、無理やり手を引くし。
クラウスの訴えに、クリストフ殿下が窓辺へやってきて、無理やり体を向けさせられた。
「エルナ」
へらっ
なんか、顔に力がはいんない。
「申請書、一枚も出してもらえなくって。ごめんなさい」
「……」
クリストフ殿下の影になって、運良く私の顔は向こうから見えない。
「期日は明日だ。大丈夫だから」
「はい」
けれど、締切日になっても、私の赴いた先のグループからは申請書の提出はなかった。
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次のお話もぜひ、お楽しみに♪




