第8話 モテ期の悪役令嬢(1)
煌びやかな装飾とシャンデリア。
豪華で美しいドレスアップした貴族が談笑しながら王城の一角を彩っている。
日の落ちる頃の始まった宴は、隣国からの王太子を歓迎するものだ。
我が国にはない高い芸術への見識と人を育てることに長けた組織構造には学ぶものが多いと言う。
留学生という形式を取ってはいるものの、他国の王族を招いたのだ。
我が国の貴族との顔つなぎも兼ねて、アンリ王子を歓迎するパーティは王城を挙げて催された。
そこへ全員参加必須とされた生徒会メンバーも、歓迎を表す華やかな衣装を纏っていた。
もちろん、柱の影に隠れる私もーー
「エルナ。いつまでそうしてるの?」
「だってえ、こんな姿誰にも見られたくない〜〜」
なけなしの抵抗を見せるも、ヴァレッタ様の鍛え抜かれた腕に両手を剥がされ、全身を晒してしまった。
「それにしても……うん」
チガウチガウチガウチガウ
灰や緑の混じったようなニュアンスのあるブルーのサテン地にたっぷりとドレープを揺らす豪奢なドレス。
誰かを思い出しそうになるが、絶対違うと頭の中が拒否をする。
「ハッハッハ、愉快なご令嬢だな。ヴァレッタ」
どう見ても令嬢らしからぬ態度をとる私に鷹揚に笑いかけるのは、ヴァレッタ様のお父上ローゼンベルク公爵だ。
お母上もニコニコと私をしかる雰囲気すらない。
むしろ私とじゃれあうヴァレッタ様を見て楽しんでいる様子だ。
必須参加の生徒会も、アンリ王子殿下に張り付いているのはクラウス様とカール様だけ。
そのほかのメンバーはクリストフ殿下のそばか、それぞれの家族とともにいる。
私もできれば家族と一緒にいたかったのだけどーー
田舎大好き我が家族は王都に来るにもただじゃない、と言うことで不参加。
必然ぼっちになる私はヴァレッタ様家族と一緒にいるというわけだ。
おかげでローゼンベルク公爵に挨拶に来る貴族の面々に、ヴァレッタ様のついでに紹介をされてげっそりしてきた。
やがてざわりと空気が変わる。
黄色い歓声も聞こえてきた皆の視線の先を辿ってみると、クリストフ殿下とアンリ王子殿下が入場してきたところだった。
王国中の貴族(たぶんうち以外)の視線が集まる中、見目麗しいふたりの王子がゆったりと階段を下がってくる。
(あんなところにいられるわけないよ〜〜)
数人のメイドと共に届けられたドレスと装飾品一式。
お迎えにあがります、ご一緒にご入場くださいと頼まれるも「絶対無理!」と固辞したおかげで、なんとかローゼンベルク家を壁にできている。
体格の大変良いローゼンベルク公爵の後ろから顔を出して伺っていると、会場を見渡していたクリストフ殿下と目が合った。
しまった!
クリストフ殿下は小さく口の端を持ち上げると、アンリ王子殿下に何かを告げ、まっすぐこちらへ向かってきた。
に、逃げなければ!
野生動物から逃げる時は背中を見せてはいけない。
目線を逸らさず後退りしようとしたら、何かにぶつかってそれ以上後ろへ進めなかった?
柱にでもあたったかと思って振り返れば、すごい笑顔のヴァレッタ様だった。
「エルナ。ここにいらしてね」
「ひいいいいい〜〜!見逃してえええ」
「あら、ダメよ。逃げないって約束したじゃない」
今じゃないよね、その約束守るの、たぶん今じゃないよねー!
そうこうしているうちに、クリストフ殿下が群衆をかき分けてたどりついてしまった。
ローゼンベルク公爵との挨拶を済ませる余裕まであるとか、スムーズすぎる〜
「やあ、エルナ。うん、やはりよく似合っているよ」
振り返ればドレスと似たブルーの瞳が私を射抜いてくる。
うう。
華やかな宴も初めてなら、豪華なドレスを着るのも初めて。
それがまさか、王城で、他国の王子様を歓迎するような国家行事に、王太子殿下に送られたドレスで出席する日が来るなんて、魚臭い貧乏令嬢は思いもしませんでしたよ。
いろんな感情がないまぜになり、涙目でクリストフ殿下をにらみつけると、聞こえ始めた音楽を背に手を差し出された。
「さあ、ダンスを踊っていただけますか?」
「……」
本当はめっちゃ断りたいけど!
断りたいんだけども!
ここで断っても、お受けしても、どちらにしても目立つことに変わり無い。
隣ではアンリ王子殿下がヴァレッタに手を差し出し、連れ立ってホールへ歩き始めた。
この段になって王太子殿下に恥をかかせられるような肝っ玉は持ち合わせて無いんですよ。
しかたなくその手に手を重ねると、微笑む殿下に手を引かれ、会場の中央へ連れて行かれた。
クリストフ殿下とアンリ殿下のふた組によるダンスが披露される。
それなりに踊れるようレッスンしといてよかった!
けど周りの視線が気になりすぎて、生きた心地がしない!
もう一曲と請われるも、まじで無理!と拒否をし、なんとかダンスの輪から抜け出す。
最近のクリストフ殿下は押したらいけるかもしれないと思われているのか、以前より距離を詰めてきた令嬢方に押し付けれた。
よし!
ひい、ひい
同じく戻ってきたヴァレッタ様とアンリ王子殿下は公爵も交えて楽しそうに談笑している。
なんかわかんないけど、そこに混じらせて〜〜
ふらふら近づくと、聞き逃せないセリフが聞こえてきた。
「ヴァレッタ嬢に結婚を申し込みたい」
……はあああああ!?!?
なんと、アンリ王子殿下がローゼンベルク公爵にヴァレッタとの婚姻を申し込んでいたのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
次のお話もぜひ、お楽しみに♪




