第7話 芸術大国ベルフォールの王子
あぁ、秋風が気持ちいい。
すっかり暑さの引いた大気は空をさらに高く深く見せて、その深い青がさらに気持ちを爽やかにしてくれる。
学園祭を前に授業は午前中のみとなり、一日の中でも開放感のある午後の風を感じていたーー
はずなんだが〜
私は今、生徒会のメンバーと共に学園の正面玄関に集合させられていた。
なんでも、ついに今日隣国の王子が留学してくるらしい。
中央にクリストフ殿下、その両隣をトビアス様と護衛役のディートリッヒ様が固め、さらにその両サイドにクラウス様とカール様、ヴァレッタ様が取り囲む。
私?
私はもちろん、いちばん安心する場所にいますよ。
そう、後列!
ヴァレッタ様の後方にこっそり佇んで、アンリ王子を見ることも、相手から見られることもない死角に位置取りしている。
ああ〜〜〜安心する〜〜〜
すごく嫌だけど、ここならなんとか居られる〜〜〜
勝手知ったる後列の心地よさに身を委ねていると、学園の門を一つの馬車が通り抜けてきた。
正面玄関のスロープをゆっくりとまわり横付けすると、中から降りてきた人物がアンリ王子だろう。
クリストフ殿下が進み出て、アンリ王子を歓迎した。
「ようこそアンリ王子殿下。お待ちしていました」
「やあ、クリストフ殿下。久しぶりだね、しばらくよろしく頼むよ」
スラリとした長身で、ややゆるくウェーブした金色を帯びたバタースコッチヘア。
馬車から降りたアンリ殿下は、穏やかに微笑み長い腕をゆったり前に差し出した。
握手を交わし合うと、並んだ生徒会メンバーを紹介し始める。
私は下を向いたまま小さく頭を下げてやり過ごした。
「学園生活ではこちらのクラウスとカールがアンリ王子殿下の身の回りをケアします」
「「よろしくおねがいします」」
「ああ、世話をかけるね。同じ学生同士、もっと砕けてくれていいよ」
「じゃあそうしまーす」
アンリ王子の申し出にさっそく乗ったカール様はやはり軽い。
「ハハハ、いいね。僕もそうさせてもらおう」
さすがは芸術と享楽の国、ベルフォールの王子。
軽いカール様と通じ合うところがあったのか、連れ立って学園内へ入っていく。
それを見届け、私たちも後に続く。
これ幸いと離れようとしたが、あれ?前に進まない?
見るとヴァレッタ様に服の裾を捕まれ、行くわよと微笑まれた。
いやーーん
すでに今日の授業は終了しているためもあり、学生たちはそれぞれの学園祭グループの活動場所へ移動している。
人気のない教室を順に案内しつつ、アンリ王子とカール様の会話は弾む。
一通り校内を案内し終えると生徒会へ移動し、ティータイムとなった。
口を潤して和やかな交流を、と思いきや、突拍子もなくアンリ王子が爆弾を投下した。
「そういえば、公開プロポーズしたんだって?」
ずがーーーーーん!
忘れていたのに!忘れようとしているところなのに!
生徒会室の端っこで気配を消していたつもりの私は、突然の緊急事態にこっそりカップを置いて退散しようとした、のだけど。
「ああ、ちょうど良かった」
もんのすごい笑顔でクリストフが近づいてくると、後少しで扉にたどり着くと言う直前に確保された。
「彼女がその相手、エルナだ。手を出さないでくれたまえよ」
ぬおおおお!
口を閉じんしゃい〜〜〜!!
「へえ、君が。なんというか、うん。素朴で安心感がありそうだね」
ぐぬ、素朴で安心感?
地味でダサいゆーてるんですか?
そんなん自分がいちばんわかってますよ!
「アンリ、彼女を外見で評価するのはやめてくれないか。私が必死でアプローチしているところなんだから」
「おっとこれは失敬。もちろん応援しているよ」
「ありがとう」
やめれ〜
外堀埋めるのやめれ〜
「私、出展グループまわりしてきます!」
「おや」
居心地の悪くなってきた私は仕事を言い訳にクリストフ殿下の腕をすり抜け、生徒会室を後にした。
先日書類を配布した先を回りながら、提出期限の案内や困ったことがないか聞いて回る。
「特にありません」と言うので、そういうものだろうと疑いもしなかったが、その時の私は翻弄された頭のままで深く考えることができなかった。
まさかあんなことになるなんて。
この時ちゃんと気づいていたら、違う結果になっていたかもしれないのにーー
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
次のお話もぜひ、お楽しみに♪




