第6話 安心は自分で買わせて欲しい
ベルフォールはグランツフェルト王国の隣に位置する芸術立国だ。
絵画、音楽、舞台など、幅広い芸術が発達し、芸術家を目指すなら一度は訪れたい国と言われているらしい。
美しいものに目がない国民性は同時に享楽的でもあり、経済の衰退にさえつながりそうなところだが、他国から迎え入れる優秀な人材と知識が夢のような王国を継続せしめているのだとか。
全部クリストフ殿下の受け売りだけど。
その国から留学生が来る?
このタイミングで?
そんなん原作にあったかなあ??
「まもなく到着すると報告があったところです。学園全体への通達はこれからになりますが、学園祭前のこの時期でもありますので、みなさんには先にお伝えしておきます」
クリストフ殿下の言葉を引き継いで、トビアス様が説明を続ける。
「まったく、このクソ忙しい時期に」
トビアス様は口が悪い。
きっと腹黒殿下にこき使われているせいだ。
真顔で言うから、聞き違いかな?と勘違いしそうになるが、本当に言っている。
「どなたがいらっしゃるのですか?」
トビアス様の毒舌を意に介さず、ヴァレッタ様が問いかけた。
初めの頃は面食らっていたヴァレッタ様だが、もう慣れたらしい。
「来るのは第3王子だ。本当に、なぜこの時期なんだろうな」
クリストフ殿下も面倒そうに椅子にもたれかかった。
「なんでも第3王子のアンリ殿下が『建国来の伝統を守りながら先進的な取り組みをするグランツフェルトに学びたい』とおっしゃっているそうですよ。年齢的には私たちと変わらないので、学生として留学することになったのです」
黒縁の眼鏡の位置を整えながら、書類を確認すると、側近候補として任命されたばかりのクラウス様とカール様にアンリ王子の対応を任じた。
「どんな人なのかな?そのアンリ王子って」
長いブロンドを揺らして、カール様は尋ねる。
どこか中性的な雰囲気のあるカール様は殿下の前だっているのに、割とくだけてる。
てか、美人すぎん?
私も一応女の子なのに、私よりドレスが似合いそうだよ。
「何度か挨拶をしたことはあるが、常に穏やかに微笑んではいるが、目の奥に何かを感じさせる男だったな。底を見せない不気味さがあった」
「へえ。じゃあそういうとこもチェックしながらおもてなししろってことね」
面白そうに答えるカール様の隣で、クラウス様はしきりにメモを走らせる。
「それから、アンリ王子が到着後には王宮で歓迎の宴が開かれる。生徒会は全員参加だ」
へ〜。
王宮でパーティかあ。
ん?全員参加?
「あのお、それってドレスコードは?」
おずおず手を挙げて質問をすると、トビアス様が答えた。
「もちろんドレスでご出席ください」
マジか。
そんなん持ってまへんけど!
魚獲ってなんぼか儲ける我が領地から、義務のため仕方なしに王都に来た貧乏令嬢ですよ?
王宮のパーティに着ていけるようなドレス持ってるわけないじゃーん!
顔を引き攣らせながらも平静を装って、かしこまりました〜となんとか答える。
「エルナ、良かったら私のドレスを試してみない?」
様子のおかしい私に気づいたヴァレッタ様が声をかけてくれたのだがーー
「それには及ばない。私が用意しよう」
と、クリストフ殿下がバッサリ断ってしまった。
なんでやねん!
「当日までに届けさせるから、安心していい」
安心できませんけどーー!
とはいえ、自分で用意するような経済力があるわけでもなく、泣く泣く殿下のお世話になることが決まってしまったのだった。
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