第5話 不運は急を告げる
カツカツカツカツ
コツコツコツコツ
手を掴まれたまま、私は学園の廊下を歩かされている。
書類の配布はあと5箇所ちょっと。
説明をしつつ配ったところで、そう時間はかからない。
なのに、だ。
仕方なしに巻き込まれた生徒会の仕事で学園祭の書類を配布中、ヴァレッタ様の2列目取り巻き令嬢のおふたりに絡まれた。
どうしたもんかと困っていたが、お助けマンの登場でなんとか脱出できた。
できたけど、新たな問題が勃発した。
なんでかって、何を隠そう現れたお助けマンその人がまさしく問題の元凶の人物だったから。
救出されたのはいいものの、それがクリストフ殿下だった私の気持ちを10文字以内で答えなさい。
答えは……
頼んでない!
確かに、どうしたもんかねと困っていたけど、争いの元凶っぽい人に助けられたら事態が悪化する予感しかしないんよ。
しかも未だに手を離してくれない。
この手だってそうだ。
救出だけしてくれればよかったのに、微妙に手に触れない距離で誤魔化そうとしてたのに、ガシッと掴まれた。
そろそろ取り巻き様たちからも離れたし、手を離して欲しい。
イライラが募ってきて、思わず前世のノリのままつっかかった。
「何しにきたんですか?」
大人しく手を引かれていた私が口を開いたのがそんなにおかしいのか?
驚いたような表情をしたあとに、殿下はにやりと微笑んだ。
「手伝いに来た」
「私だけでできます」
っていうか、あーたがいるとめんどいねん。
「いつも隣にいてくれるのだろう?」
「あれはお芝居です!」
いたずらっ子のように覗き込んでくる殿下から逃れるように体ごと逸らして、全身で拒否をする。
建国劇で演じられたプロポーズのくだりをいつまでも持ち出してくるから、うんざり。
しつこいねんも〜
「急いでるのは本当だ」
揶揄うような表情のままにそう告げると、早く戻れと言って解放してくれた。
流れるように半分くらい書類を受け取って去っていく姿が憎たらしい。
「オウジサマがやるような仕事じゃないのに〜」
ありがたいとは思うけど、かっこいいなんて思わない。
後列モブはこんなことにキュンとしちゃいかん!
それこそ殿下のガチ恋勢に敵認定案件だ。
きっと前世持ち仲間として親近感がわいてるだけだ。
学園にいるうちだけの我慢と言い聞かせて、生徒会の仕事に戻る。
残り半分以下となった書類配布はサクッと済んで、クリストフ殿下の指示通りに早く生徒会室に戻ることになった。
「戻りました」
癪に障るものの、すんなり仕事の済んだ私はとりあえず素直に生徒会室に戻ると、室内がなんだか狭い。
(え?人多くない?)
「戻ったな。じゃあ始めよう」
私の戻りを認めたクリストフ殿下は、まるで先ほどのやりとりがなかったように話を進めた。
「みんな、集まってくれ。改めてこれからの生徒会メンバーの顔合わせをする」
各々自己紹介をするように言われ、殿下の隣のご令息が一歩前に出た。
「トビアス・グルーバーです。クリストフ殿下の側近を務めています。よろしくお願いいたします」
学生でありながら、殿下の側近として公務を支えているらしいトビアス様が先陣を切った。
その後は側近候補となる人物をトビアス様が指名し、自己紹介が続く。
護衛騎士に内定の、ディートリッヒ・ヴァルナー様。
政務補佐に内定の、クラウス・リヒター様。
側近補佐の、カール・リント様。
3名も増えていたのだ。
そりゃ狭くもなるわ。
王太子となったことで、側近を増やすこととなったクリストフ殿下が今後ともに仕事をする仲間として側近候補を紹介してくれたというわけだ。
そして、すでに婚約解消は公然となっているものの、生徒会を手伝う女生徒として、ヴァレッタ様と私も紹介されることになった。
うう、あらがえぬ流れ。
これからの王国の中枢となっていく人物と顔合わせなんて予定、私の人生計画にはなかった。
なるべく記憶に残らないように、当たり障りのない挨拶に終始する。
一通り顔合わせが済んだところで、クリストフ殿下が「早速だが」と続けたのは、またしても予定にない情報だった。
「隣国のベルフォール王国から、留学生が来る。」
んん?
そんなイベントあったっけ??
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
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