番外編 ローゼンベルク家使用人は暗躍する(ルドルフ視点)
「おや、ウルスラ。早いですね」
ヴァレッタお嬢様が週末にはじめてのお友達のお招きという情報で沸いた私たち使用人は、一日の仕事を終わるなり誰からともなく厨房に集まって、思いの丈をこぼしておりました。
そこへ、いつもよりも早くウルスラが入ってきたのです。
まさしく今話題の中心である、いえ、中心でなかったことなどないのですが、お嬢様付き侍女であるウルスラがこんなにも早く上がってきたことを疑問に思わない方がおかしいでしょう。
「お嬢様に今夜はもうよいと言われまして……ううっ」
かわいそうに、さぞつらいことでしょう。
一分一秒でもお嬢様のそばについて、そのすべてを浴びていたいと宣うウルスラのことです。
見捨てられた子猫のように、みるからに肩を落とす幻覚すら見えるようです。
しかし、週末にはお客様をお招きになるというのに、なぜ早々に使用人を解放したのでしょう。
「何があったのです?」
少しの見落としもあってはなりません。
私はウルスラの態度はそのままに、詳細を要求しました。
厨房長が差し出した夜食に手をつけようとした動きをキャンセルして、ウルスラは両手で顔を覆ってしまいました。
「これから、やることがある、と!」
あああああ、と嘆くウルスラ。
あなたはそれでなにがしかスッキリするのでしょうが、私どもにはなにひとつ伝わりませんよ。
さっさと詳しく話しなさい。
「どういうことです?」
「やることってなんだ?」
「寝るんじゃないの?」
「我々に秘密で何かやるのか?」
疑問の余地しかないウルスラの言い方に、他の使用人たちが食いついてしまいました。
面倒な。
「それが、たくさんの紙をお求めになったと思ったら、もう下がれと申されて」
「紙?」
「文でも書かれるのか?」
「恋文か?」
「誰宛だ!」
輪をかけてうるさくなってまいりました。
「あなたの落ち込みはどうでもいいので、さっさと順序立てて説明なさい。お嬢様の専属はそんなものですか」
「ハッ」
ヴァレッタお嬢様の専属侍女としての資質を問われた言葉がよっぽど響いたのでしょう。
次の瞬間には崩した姿勢すらも持ち直して、スラスラと順序立てて状況を説明してくれました。
やればできるではないですか。
「つまり、なにか作業をされるから早く下がらされたということですね」
「そのようです」
書き物をされるにしても、お茶をお出しすることだってできるでしょうに。
それでも下がらせるとは、よっぽど誰にも見せたくないことなのでしょう。
……気になります。
ですが、それ以外はお招きになるお客様の情報をしっかりと掴んできたようですね。
「南部のマリエンベルク伯爵家のお嬢様ですか」
「どんな方だ?」
「初めて聞くぞ」
そうですね。
いままでお嬢様のお口から聞いたことのない人物です。
伯爵家とのことですが、マリエンベルク領はこの国の南端。
赴くにも日数がかかりすぎますし、今から密偵を放つには時間がなさすぎます。
「マリエンベルクの魚は美味いぞ」
そこへなけなしの情報をもたらしたのは厨房長です。
「そういえば、海に面していましたね。しかし、マリエンベルクとは。ノーマークでした」
「海産物は結構使っているぞ。まあ、そんくらいしかわからねえが」
う〜んと皆で首を捻っていると、逞しい声が聞こえてまいりました。
「マリエンベルク伯爵なら知っているぞ」
その声に振り返ると、いつ見ても凛々しく逞しい発達した筋肉をふくらませた旦那様が扉のそばに立っていらっしゃいました。
「旦那様!」
ガタガタッ
みなが慌てて立ちあがろうとします。
「よい、そのままで。それより、面白そうな話をしているではないか」
にやにやと厨房へ入ってくる旦那様。
まったく、公爵閣下がこのような使用人の溜まり場に顔を出せば、皆が緊張してしまうではないですか。
あとでコンラートに言っておかなければなりませんね。
しかし、その後マリエンベルク伯爵の為人を聞けたのでよしとしましょう。
コンラートには伝えますが。
「楽しいことが好きなフットワークの軽い男でな。私とおなじく政治の面倒ごとは苦手なようだ。難しい話になるといつのまにか姿を消す」
「なんと」
「夜会で何度か挨拶はしている。あそこの魚は絶品だからな」
「ご存知でしたか」
「もちろんだ。美味い飯を楽しむのが私の唯一の趣味だ」
いえ、旦那様の趣味は筋肉を育てることでございますよ。
と口にはだしません。もちろん。
「しかし、娘がいたとはなあ。聞いたことがない」
「旦那様、つかえませんね」
ウルスラ、その口を閉じなさい。
旦那様に向かってなんたる口の聞き方でしょう。
しかし、そのような些事に目くじらを立てるような旦那様ではございません。
「ハッハッハッ、手厳しいなあ。ウルスラよ」
しかし、いくら私どもで話したところで先に進みません。
週末まであと数日。
その間に、使用人ネットワークを駆使してお嬢様のお招きになるお客様の情報を集めることとなりました。
もちろん、旦那様もその作業をお手伝いいただきます。
なんと言っても、大事なお嬢様の一大事ですからね。
それではまた、情報の集まりました頃に。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
ローゼンベルクの使用人たち、楽しそうですね〜
次のお話もぜひ、お楽しみに♪




