番外編 騎士様は悪役令嬢と打ち合いたい
「チッ またルーファスの野郎だ」
「またかよ」
「いいなあ」
「ずりい」
「おい、次の奴の休みはいつだよ」
俺はファビアン。グランツフェルト王国騎士団の騎士だ。
家は子爵だが、兄貴がふたりいる。
優しい上の兄貴と、しっかり者の下の兄貴とは仲の良い兄妹だ。
でも、三男坊の俺はいずれ家を出なきゃならん。
だから俺は騎士になることにした。
そこで俺は女神に出会ったんだ。
「可愛いなあ」
「いいなあ、俺まだ一回もお相手したことない」
いつもは王城の訓練場で訓練している俺たちだが、週末になるとローゼンベルク邸に集まってしまう。
というのも、ローゼンベルク家の姫様、ヴァレッタ様が朝の鍛錬をされるからだ。
ローゼンベルク家といえば、王国の騎士団長を多く輩出してきた武門の雄。
その家に生まれた者は、女だろうと構わず幼い頃から武家のなんたるかを教え込まれるらしい。
ヴァレッタ様も幼い頃より騎士や候補生に混じって鍛えているのだとか。
なんだそれ。俺も混じりたかった。
もっと早く騎士になろうと決断すればよかった。
そうすりゃ、もっと前から俺も姫様とお近づきになれたかもしれない。
学園に通われている姫様は、週末の休みになると朝の鍛錬をされる。
しかも、すでに相当な実力をお持ちの姫様は、けっこうがっつり体を動かしたい。
そこで俺たち、騎士団だ。
お声のかかった一人だけが、姫様の鍛錬のお相手を務める。
俺が騎士団に入った頃には、もう週末のローゼンベルク出張訓練が当たり前になっていた。
とは言っても、王城を空にするわけにはいかないから、出張組に入れなければ来ることさえできない。
元は有志が姫様の鍛錬相手を始めたらしいが、我も我もと数が増えてしまい、出張ローテーションが組まれることになった。
とはいえ、いくら騎士団長のお屋敷とは言っても、公私混同はできない。
騎士団長のご好意でローゼンベルク邸訓練場を開放していただけているとは言っても、なんでもかんでも自由にとはいかない。
そこで、出張組を統括しているのが、副長補佐を務めるルーファスだ。
自動的に出張組に張り付きになるし、誰よりも早くローゼンベルク邸に来やがる。
必然的に、姫様は鍛錬相手にルーファスを選ばれることが多くなり、俺たちはあぶれるって寸法だ。
ただし、なんらかの理由で不在の時には俺たちにもお鉢がまわってくるから、チャンスを逃すわけにもいかない。
実際、こんな俺でも姫様のお相手を務めたことがあるんだ。
あの時は本当に夢心地だった。
姫様は吊り目で可愛くないと気にしているようだが、その涼しい目元が真剣な眼差しになるのも素敵だし、うまくいったと破顔されるお顔も愛らしい。
長く艶やかな黒髪を馬の尻尾のように揺らしながら剣を振る姫様の凛々しいお姿を間近で、いや目の前で堪能できる、まさに役得ポジション。
むさくるしい男所帯の騎士団に囲まれている中、ここだけがなぜかいい匂いがするんだ。
ちょっといじわるしてみれば、口を尖らせて睨んでくるそのお顔ですら、ただただ可愛い。
仕返しをするように挑んでくる姫様の頭ン中は、きっと俺のことでいっぱいだ。
その後も譲ることなく鍛錬の時間が終わると、「次こそは勝ちます!」と俺に向かって宣言してくれる。
ああ、もう最高。
俺のことを見て、俺に向かってそのお顔を見せてくれて、俺だけがそれを浴びれる、きつい訓練だってこれを楽しみに頑張れる。
一度経験してしまえば、もう一度と思うなという方が無理ってもんだ。
たまにしか選ばれないとわかっていても、あの幸福を再び味わいたくて何度も出張組に手をあげてしまう。
あみだくじ選抜だし。
今週、幸運にも出張組に選ばれた俺だったが、今日はルーファスがいやがるせいで、誰もおこぼれに与れなかったってわけだ。
仕方なく俺は近くにいたニルスと組んで鍛錬を始める。
時折耳に飛び込んでくる姫様の息遣いや声に気もそぞろろになる。
打ち合いの合間に聞こえる短い息に、勝手に姫様の様子を想像しちまう。
いかんいかんと頭を振ると、くやしさを腕に込めた。
「うわっ、ちょ、もう少し加減してくれよ」
「うるさい!いいから付き合え!」
フラストレーションを振り切るかのように撃ち合いに昂じる俺たち騎士の訓練は、ある意味で本気だ。
くっそう、絶対またお相手したい!
俺は頭の中の姫様との鍛錬を夢見て、今日も剣を振るうのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
恋する男子のお話でした。
次のお話もぜひ、お楽しみに♪




