番外編 お嬢様の喜びを全力で下支えしたい
「今週末、友人を招きたいのだけど……」
ああっなんということでしょう。
ヴァレッタお嬢様がご友人を招きに!!!
ハッ、いけません。
私は全身で喜びを表したいのをぐっとこらえ、つとめて笑顔でお嬢様を向き直ります。
学園からお帰りになり、お部屋に入られたお嬢様が恐る恐る告げられたあの光景を、私ウルリケは生涯忘れることはないでしょう。
チラチラと私の反応を伺うお嬢様に、私は表情を大きく変えることなくおこたえします。
「今度の週末に、ご友人をお招きになるのですね」
『招きたい』という希望系でお告げになりましたが、私はここで招くことを確定事項として受け取ります。
愚かにも私がここで驚いたり、意思を確認するような真似をしてお嬢様気が変わってしまうなんてこと、あってはなりません。
あくまでもいつもどおりに、平常運転で、しかしこの緊急事態を知らせるべく扉の近くに視線を移すと、ハンナと目が合います。
あなた、いつもはそこにいませんよね。
扉を開ければ一歩で廊下に出られる位置にいたハンナを認めるも、何一つ表情を変えてはなりません。
じっ、と視線だけを送るとハンナは心得たとでも言うように小さく頷き、物音ひとつ立てず退出していきます。
これでよし。
おそらくハンナは、使用人が休憩所として利用している厨房へ向かうことでしょう。
本来であれば旦那様にご報告する重大事項ではありますが、私共が気軽に声をかけてよいお方ではありません。
そのため家令のコンラート様か執事のルドルフ様にお伝えすることになりますが、厨房へ行けばルドルフ様の居場所を聞くこともできるでしょう。
さて、こうして使用人全体がご友人とのお茶会開催に向けて動き始めれば、さすがのお嬢様も途中でおやめになることなどできないでしょう。
お招きになるご友人は何人でしょう。
どのお部屋にしましょうか、あまりテーブルに遠いとお声が聞こえませんから、ほどよくお話の聞こえるところがいいですね。
お嬢様がお招きになるほどのご友人ですもの、どんなお話をなさるのか気になります。
というか!
私が聞きたいのです!
ご友人と親しくされるお嬢様のお声を!
思えば、初めてお嬢様とお会いしたのはまだ話し方も拙い頃でございました。
「ゔぁれってゃです」
愛称でお呼びしないという方針の旦那様と奥様は、幼いお嬢様に対しても「ヴァレッタさん」と敬称付きで呼ばれていたため、わたくしどもが勝手に愛称でお呼びすることは敵わず、ずっとヴァレッタ様とお呼びしておりました。
ああああっ
でもでも!
ご両親すらも呼ばせない愛称をいつかどなたかにお許しになるのかと思うと!
言いようのない感情ともどかしさを全身で表現したのを忍耐で押さえつけていると、お嬢様が口を開いた。
「ないしょでお話のできる場所を用意してちょうだい」
……なあああぁぁぁぁんっ!
お嬢様は!
はじめてのご友人をお招きになるばかりか!
ないしょで!ないしょでお話ししたいと!
そうおっしゃるのですか!
つまりは誰にも話を聞かれないようにしたいと、そうご所望ということは、
声が聞こえない距離で!お話が聴かれないように!そのご友人と内緒話がしたいと!!
荒れ狂う私の内側を知ってか知らずか、いえ知られたら私はもう生きていけませんが、お嬢様はお天気がよろしければお庭でのお茶会を希望されました。
もし雨でも降れば、屋内に変更するとおっしゃいましたが、おそらくそうであったとしたらお部屋の中にすら入れてもらえないことが予想されます。
もじもじとお招きになるご友人について教えてくださるお嬢様に、私が心の中で悶絶しながら、情報を聞き出し、使用人らで情報共有できた頃には、私は息も絶え絶えでございました。
私同様、お嬢様のはじめてのご友人とのお茶会に共に喜びを享受できないことをしった使用人らの絶望はあまりありましたが、お早めに招きしてご友人様について観察する時間を設けようと提案すると、みな一様に生気を取り戻したようでした。
お茶会当日までお嬢様が夜を徹して書き物をされたりと、ご健康に差し障るのではないかとヤキモキしたものの、無事当日を迎えることができました。
さあ、お嬢様のご友人をお迎えに参りますよ。
お嬢様の初めてのお願いを、わたくしどもは全力ですばらしい思い出にしてさしあげますからね!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
ローゼンベルク家の使用人たちにフォーカスを当てると、勝手に暴走するので困ります(汗)
次はどんな番外編がいいやら……
2章は現在鋭意執筆中につき、
もうしばらく番外編にお付き合いいただければ幸いです
次のお話もぜひ、お楽しみに♪




