第20話 おわりよければすべてよし
「今日も行きます?」
「ええ、もちろん。ご一緒いただけるかしら?」
「おまかせを!」
「くすっ」
「ふふふっ」
建国祭は恙無く終わった。
日常の戻った学園内を、私とヴァレッタ様は連れ立って歩いていた。
「今日はお菓子作りをしようと思うのよ」
「いいですね!もう何を作るか決めてるんですか?」
「いくつか用意はあるのだけど、先に届けてもらっているの」
「わあ、楽しみです♪」
最近では授業が終わり次第、私たちはあるところへ急行している。
「もうそろそろ大丈夫そうですけど」
「気が急いてしまうのはわかるわ。
でも、そろそろというところからが長いこともあるのよ」
「まあ、そうですよね」
あたりまえのように連れ立ってローゼンベルク家の馬車に乗り込む。
ふいに窓から金木犀の香りが漂ってきた。
ここにもあるんだな〜なんて思いながら、季節が変わったことを感じる。
あれから、メリア嬢は殿下の用意した離宮に滞在し、不本意にもクーデター阻止に巻き込まれた心を癒している。
王城の奥まったところにあるその離宮は、近くに沢が流れていたり、小動物のいる森があるようで、専門のスタッフとともに日々リハビリに勤しんでいるらしい。
まさかの全員前世持ちだったことが判明して、メリア嬢は何か思うところがあったようだ。
少しずつ感情を整理しつつ、これからのことを考えようとしている。
離宮にはクリストフ殿下が手配した心の専門家がチームで滞在していて、メリア嬢に柔軟に対応しているらしい。
ご両親が面会しにきて、帰ろうと説得したらしいけど、メリア嬢は断った。
「人は易きに流れる生き物だから」
とか。
なんでも専門スタッフと日々心について学んでいるらしい。
あの頃のメリア嬢はもういない。
そりゃそうだ。
私たちは一分一秒新しく生まれ変わってる。
いつまでも昨日のままの自分でいるのはダサすぎる。
ほっといて腐った魚のようになるのはごめんだ。
ちょっとだけ、違うことをしてみる。
できたことを、ちゃんと自分を褒めてあげる。
そんな大したことのない積み重ねが、未来の理想の自分につながっているのだ。
それなら、今から理想の自分になって生きてしまえばいい。
変わることを受け入れたメリア嬢は、すっごくカッコいい。
それもこれも、時間をかけて部署を新設し、スタッフを育ててきた王子の手腕によるもの、とか。
メンタルケアスタッフ?なにその前世知識ムーブ。
まさか、私たちだけでなく殿下まで前世持ちとは思わなかったよ。
「冷たいのにチョロな鉄板勘違い王子だと思ってたのに」
「そんな風に思っていたの?」
ぼんやり車外を眺めていたら、思わず口に出していたらしい。
この前もうっかり本人の前でもポロリしてしまい、冷めた目で「普通に考えてナシだろう」と、多くの創作物を敵に回すメタ発言を披露されてしまった。
一瞬驚いた顔をしたヴァレッタ様だが、その時の殿下の顔を思い出したのか、ふたりして吹き出してしまう。
ひとしきり笑った後、今日も一つ、何か新しいことをしたくなった。
「ねえ、前世のスイーツ再現してみるのはどう?」
「面白そうね、メリア様とも相談してみましょう」
「やった!楽しみ♪」
何を作ろうか、頭は前世のスイーツでいっぱいになる。
この世界にある食材で、器材で、どこまで作り出せるだろう。
そもそもレシピなんてあんまり覚えていないけれど、ふとヴァレッタ様を見ると、不思議そうに頭を傾げられてしまった。
まあいいか、みんなで試行錯誤するのも面白いかもしれない。
「それより、殿下とのことはどうなってるの?」
「あ〜、それね〜」
ヴァレッタ様が詰め寄ってくる。
突然痛いところを突かれて目が泳ぐ。
陸は、陸はどこですか〜?
「変われるのがカッコいいんでしょ?」
「うう、わかってる!ちゃんと返事するってば!」
正式に婚約の解消が成ったヴァレッタ様は、最近じゃ私におせっかいを焼こうとしてくるので困っている。
友人としても気の置けない間柄になって口調が崩れてきたせいか、容赦がない。
絶対よ、とヴァレッタ様に念を押されつつ馬車が王城の門をくぐる。
ある日前世を思い出した。
役は後列モブだった。
と思ったら、悪役令嬢も前世持ちで、王子殿下も前世持ちで、原作ヒロインちゃんも前世持ちだった。
クーデターを阻止して、婚約解消の協力をしてたら、世紀の公開プロポーズとかで一躍時の人になっちゃった、らしい。
世間では、王子とモブ女のドラマティックゴールインを求める機運が高まっている。
娯楽に飢えた民衆は、すっかり飽きていた建国劇のロマンスシナリオにくいついた。
あれ?ロマンスクーデターは阻止するはずじゃなかったっけ?
ロマンス逆利用されてるんですけど?
解せぬ。
悪役令嬢の殿をあっためてたのに、後列モブを全うして、田舎領地で魚釣りして暮らそうと思ってたのに、いつのまにか国の真ん中に引き摺り出されそうになってるなんて
どこまでが王子の計画のうちだったのか、やっぱり腹黒なんじゃない?
でも、ふたりの心の通う友人を得て、私の毎日は今めちゃくちゃ楽しい
当初の希望とは着地がちがうけど、
これって、ゆるくてぬるい毎日と言えなくもない
「これはこれで、かな?」
「なあに?突然」
「ううん、そろそろ着くね!」
これからも私たちの毎日は続くのだとしたら、
やはり私は願うのだ。
どうか今世は、あわよくば、ゆるくてぬるい毎日を。
第1章 完
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第1章はひとまずここまで。
このあといくつか番外編を追加していこうと思います。
次のお話もぜひ、お楽しみに♪




