第16話 暗躍するのは敵だけとは限らない
その後、あれよあれよと流されるまま、今に至るってわけ。
うぐぐ。
ヴァレッタ様のお手々に夢見心地になって抵抗しなかった自分を呪いたい。
そしたら、こんな思い鎧を引きずって、へっぽこ演技なんか晒すこともなかったのに!
受け入れ難い現実に意識を飛ばしかけていると、
歌唱隊の歌声で開幕した恋愛解釈建国劇は、架橋に差し掛かっていた。
ここから当分は、祖グランツフェルトと祖ブランシュフォードのいちゃいちゃタイムだ。
芝居の練習中、ここぞとばかりにクリストフ殿下へアタックしていたメリア嬢の姿には「やっと原作ヒロインムーブ発揮できたねえ」と、微笑ましい気分にすらなった。
暖簾に腕押しだったけど。
敵を欺きたいなら、もっと乗ってあげればいいのに。
殿下も意外と融通効かんなあ〜。
なんかもう色々どうでもいいけど。
さて、私は私でやることがあるんですよ〜と、舞台から離れた。
「ブルノーもエリアスも、本当によくやってくれている。だというのに、僕は・・・」
「そんなことはないわ!あなたの知識が毎日の糧をもたらし、皆を育み安寧の礎となった。私もブルノーも、あなたがいたからこそ、安心して力を発揮することができたのよ」
「エリアス……」
舞台中央のふたりにスポットライトがあたり、クリストフ殿下とメリア嬢を照らし出す。
熱く見つめ合うふたり。
観客席からは、何やらため息が聞こえてくる。
そりゃそーだ。
いつものクーーールな王子殿下のあんな表情、誰も見たことないよね。
それに、芝居がいいっていうか……真に迫ってる。そりゃあ片方は本気だもんね。
ちなみに建国記にこんなシーンはない。
伝記によると、むしろローゼンベルクとブランシュフォードの仲違いを仲裁したグランツフェルトが王として立つことこそが王国の始まりと言ってもいい。
「これこそ間違った建国記が広まっちゃいそうだけどね〜」
それでも、解釈違い上演を許したのはクリストフ殿下だ。
『クーデターを未然に防ぐのは、王家のためではない』
ふと、作戦会議中の殿下の言葉が頭をよぎる。
あれは、どういう意味だったんだろう。
クーデターを防いだら嬉しい人が、他にもいるってこと?
派手な捕物はしない。
首謀者を確保もしない。
血の一滴も流さず、すべてを未然に防ぎ、後世に禍根を残さない。
クリストフ殿下は甘すぎるんじゃないの?
確かに、前世で将来犯罪を犯す人物を先に捕まえる、なんて映画もあったけど・・・
どこか腑に落ちないまま、私は作戦にあたる。
暗がりでふたり頷き合った。
「エリアス、ここにいたのか」
「ユリウス、どうかした?」
「実は大切な話があるんだ。いいかい?」
柔らかく微笑んだクリストフ殿下は、メリア嬢の手をとった。
「きゃああ」
「まああッ」
「はあっ……」
おうおう、盛り上がってるな〜椅子のある観客席で良かったねえ。
無かったら今頃、バッタンバッタンうるさかったでしょうよ。
どうやら劇自体は楽しんでもらえてるようだし、国民人気回復って筋書きはあながち間違ってもなかったんだろうな。
さあて、そろそろ劇もクライマックス。
私は舞台袖に移動して、出番を待つ。
「ユリウス、大事な話って?」
「僕たちはずいぶん大きくなった」
「ええ」
「仲間も増えた。一族も毎日楽しそうにしてる」
「そうね」
「そろそろ、いいかなって思うんだ。どうかな?」
「ユリウス!」
台本ではこのあと、ユリウスがエリアスにプロポーズし、それを陰から見守っていた民たちがサプライズで出てきてふたりを祝うって流れだ。
私の手にはエリアスに渡すブーケがある。
メリア嬢、顔から色々ダダ漏れだよ〜
殿下、そういう顔できるんだったら普段からしてれば、王家はもっと国民人気あったんじゃないですか?
こんなことしなくても!
無理やり巻きこれたせいか、殿下に対して悪感情がむくむくと湧いてくる。
「エリアス……」
「ユリウス……」
手を取り合うふたり。
メリア嬢がそっと瞳をとじた。
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