第13話 一回は他人のせいにさせてほしい
「出演者の方々は配置についてください」
「まもなく開演で〜す」
「主役どこですか〜?スタンバイお願いしまーす!」
分厚い緞帳の前で幾人もが行ったり来たりする。
多少ざわつきながらも所定の位置につくのは、古めかしい衣装の役者、もとい貴族子女。
カーテンの隙間や大道具の影で、出番に備えるようだ。
くっそう、この厚みをもってしても観客席のざわめきが伝わってくるよお。
「そろそろ開けますよ〜」
「ほら、エルナ様。お早く!」
ヴァレッタ様に背中を押されながら、渋々舞台の袖まで連行された。
そこにはすでに祖グランツフェルト役のクリストフ殿下と、殿下に猛アピール中の原作ヒロインちゃんがいた。
「フェリシア嬢、そろそろ開演だ」
「メリーですう。ちゃんと名前で呼んでください〜」
語尾伸ばし、やめい(散々伸ばしてきたけど)
こちとら鎧が重いんじゃい
しかも君はメリアであってメリーさんじゃない!
ハニトラはもっとうまくやらなくちゃいかんでしょうが!
「エルナ様、しっかりね!」
「うぐっ」
背中をポンと叩かれ気合いを入れられた勢いで、近づきたくないふたりの間に躍り出てしまう
「来たか」
「は、はい」
「んも〜エルナ様遅いですよ!もう始まっちゃいます!」
「す、スミマセン」
いや、どの口〜!
遅れましたけど!遅れましたけども!
空気読んでくれてありがとうくらいあってもいいよねー!
客席側からひょこっと顔を出したスタッフが、そろそろいいですか〜?とタイミングを確認している。
ステージの照明が消されてほどなくすると、外から楽団の演奏とオープニングの合唱が聞こえてきた。
(ちくちょー、なんでこうなった……)
きっとあれがいけなかった。
全部あの腹黒王子のせいだ!
ゆっくりと持ち上がる重そうな緞帳を見つめながら、あの日の出来事がこの舞台袖につながるなんて、思ってもみなかった。
──数週間前。
相変わらず後列を死守する私には平穏が訪れていた。
あれからヴァレッタ様は取り巻きの皆様に、ご自身の密やかな想いを打ち明けたことで、原作ヒロインちゃんとの衝突もなくなり、万が一のざまあ展開のひとつを潰せたからだ。
穏便な婚約解消をするにしても、瑕疵があっちゃあいけない。
薄々気づいてはいたが、実はヴァレッタ様は原作でもこの現実でも、原作ヒロインちゃんをいじめてなんかないのだ。
生来のお人よしのせいか、アドバイスをしたところ過剰に反応されたらしく、原作ヒロインちゃんに「いじわる」認定されたのだとか。
ヴァレッタ様を心から慕う一列目令嬢はそれが許せなかったらしく、ヴァレッタ様の心を代弁するつもりで色々動いてしまったらしい。勝手に〜
しかし、殿下との関係も、「実は別な想い人」のカミングアウトと、原作ヒロインちゃんへの攻撃は貴族らしくないというつぶやき(要約するとそんな感じだった)から、取り巻き令嬢たちはヒロインちゃんとの接触を避ける方向へ動くようになり、虎視眈々と玉の輿狙いのロールキャベツ令嬢は、ヴァレッタ様のよき恋バナ相手になった。
(よきかな、よきかな)
いい感じに着地しそうな予感に、先頭よりかなり距離のある最後列でうんうんと頷いている日々がしばらく続いていた。
そんなある日のことである。
学園は、建国祭の準備期間がはじまった。
建国劇を義務とする王国である。学園に通う貴族の子女もいくつかのグループに分かれて、建国祭を盛り上げるお役目があるらしい。
(これがやりたいってないしな〜。テキトーに裏方で……)
なんて、掲示板に張り出されたグループ表を見ていた。
グループごとにどんなことをするかが書かれている。
準備期間中は学園の教室がいくつか開放され、グループごとに割り振られるのだ。
グループはそこを拠点に集まって準備や作業をする。
希望するグループを探して、端から順に読み込んでいると、視線を感じて振り返った。
「あれ?ヴァレッタ様?」
取り巻き令嬢を各グループへ送り出し、珍しくひとりになったヴァレッタ様が深刻そうな顔で私を見つめていた。
「どうかされましたか?実は私まだ決めてなくって、どれが楽そうか……」
「エルナ様!お願いがあるの!」
「へ?」
「ついてきていただきたいの!」
「うえ〜〜〜?」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
後ほどもう1話掲載いたします。
次のお話もぜひ、お楽しみくださいませ♪




