第12話 神話を失った民族は滅びるうんぬんの件
ガラガラガラガラ……
穏便ゆるぬるライフの崩れる音がついに現実に聞こえてきた〜!と思いきや
音の正体は、大きな荷物を運ぶ荷車の音だった。
公爵家に不似合いな掛け声と荷車に注目していると、ヴァレッタ様が気づいて経緯を説明してくれた。
「あれは、我が国の建国神話絵図のひとつなの。ほら、うちって建国三英雄の一角じゃない?一応。それで、建国の情景を描いた絵がいくつかあるのだけど、我が家ではあまりそういう絵を飾る風習がなくて、いつも倉庫に保管されているのよ。そろそろ建国祭も近いから、この時期に毎年運び出しては展示先へ貸し出しているの」
本当は差し上げてしまいたいのだけど、辞退されちゃうのよね〜。なんてこぼす建国三英雄の子孫。
ご先祖様を泣かせるんじゃありません。
「そっか〜、そろそろ建国祭だっけ。うちの領地ではいつもお祭り騒ぎだったな〜」
「ふふふ、エルサ様ったらすっかり前世口調に。気が抜けていらしてよ」
「あ、いっけね」
「ほーら」
くすくす笑い合う、秘密を共有するこの空間が心地良い。
「小さい時、建国演劇に出させられたんだけど、私、領民Dだったの」
「え?エルサ様って伯爵令嬢よね?どうしてそんな」
「実は、平民のふりして子供たちに混じって遊んでいたから、気がついたら舞台にあげられてたのよ。といってもうちは貧乏領地だから、舞台といっても地面より少し高く持ち上げた台の上なんだけどね」
「各地で少しずつ変わった建国演劇をされているのかしら」
「う〜ん、たぶん?特にうちは南洋での漁業で魚を採って国民に配ることを命令されたらしいから」
「歴史の古いご家門なのね」
「少しだけね。海までの道を確保してからの話らしいから」
神話、といっても神様は出てこないんだが、建国神話は国民の誰もが知っている常識。
もはや生活の一部みたいなものだ。
建国祭の旅に建国演劇が上演されるのも、王家命令で「絶対」だし。
「12才までに建国神話を学ばなかった民族は例外なく滅ぶ、だっけ?」
「前世での謂れね。そんな感じだったわね。詳しくは覚えていないのだけど」
「私もざっくり記憶なんだけどね」
「エルサ様は、原作記憶もざっくりでいらしたけどね」
ぷふっ
目を見合わせて笑い合う。
笑いの壺が同じってありがたいわあ
なんてしみじみしていたけど、ヴァレッタ様は建国演劇のことで直近の悩みを思い出したらしい。
「わたくし、おそらく王宮上演の建国演劇に参加が強制されると踏んでいますの」
「王都は王宮主催で上演するんですね」
「エルサ様は王都での上演は初めてだものね。そう、王家と貴族子女のみで厳密な建国神話に基づき上演すべしとされているわ」
厳格ぅ〜?
毎年やるのに厳格にやってたらつまんなそ。
練習中も、あれが違うこれがちがうと、やたらうるさい、とヴァレッタ様の言葉を私流に翻訳しておくね。
「顔に出てますわよ」
「いっけね」
「ふふ、でもエルサ様の反応の通りよ。どうせいつもと同じだし、貴族子女に限定されているからなかなか成り手もいなくて、王家の人間だけでなく、婚約者も強制されるの」
婚約者だからといって、どの役になるかは責任者の采配になるらしい。
「今年もそろそろ、建国劇のお話が来る頃だわ」
「穏便な婚約解消もしたいし、クーデターも防ぎたいのに、建国劇にも出演しなくちゃならないなんて、公爵令嬢って大変だな〜」
「口に出てますわよ」
「あわわ。そ、そんなことより、まずはやれることからやりましょうよ〜」
誤魔化すように話題を変え、婚約解消への道を探ることを約束した。
婚約解消も、王国崩壊阻止も、建国劇も全部同時に背負うなんて──つくづく公爵令嬢なんかじゃなくてよかった。
私は、はよ田舎に帰って魚が釣りたいのにな〜。
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