第10話 恋する悪役令嬢
「そんなつもりはなかったんです」
「ふむ」
「ただ、繰り返しお会いしているうちに、なんとなく」
「続けて」
「ううう、もうこのくらいで勘弁してくださいませ!」
顔を真っ赤に震えるヴァレッタ様の可愛らしいこと。
事情聴取よろしく、聞き出してみるとお相手はやっぱりあの方──
訓練場で互いに大輪の笑顔を咲かせながら訓練刀で打ち合っていた騎士様。
「ルーファス様はわたくしをとても尊重してくださるのです」
若いご令嬢がたに人気の騎士様は猛烈アタックを受けることも多い。
なかでもルーファス様は騎士団長のおぼえもめでたく、副長の補佐もしていることで、出世頭。
お家は子爵家とのことだけれど、武門のお家柄で政治に興味がなく誠実な人柄が多いと有名で、安定志向のご令嬢に人気らしい。
ルーファス様もワイルドながら甘く微笑む様子にご令嬢のハートを射止めることも一度や二度ではなく……とお顔を曇らせるヴァレッタ様。
「でも、どんなに好条件を出されてもお断りをされていらっしゃるんですの!」
両手をぐーにして、熱弁するヴァレッタ様。
「それに、嫌がりもせず私の鍛錬にお付き合いくださるのが、申し訳なくもありがたくって……」
嬉しいのね。
ハイ、わかりんした。
「原作にも登場されるようですね」
そもそも、国外追放のヴァレッタ様について共に冒険者となり、崩壊した王国を救う助力として大活躍するのがルーファス様なのだ。
逆境に挫けそうになるヴァレッタ様の隣でいつも彼女を励まし、支え、ピンチに駆けつけ、一途に彼女を愛する誠実男子。
なにそれ、最高じゃん。
もはや彼がヒーローでは?
なんで悪役令嬢コースにいるの?
と考えた直後、この話が恋愛ものではなく戦記ものだったことを思い出す。
つまり、そもそもがざまあ系恋愛物語ではなく、悪役令嬢の下剋上物語なのだ。
原作でおふたりが最後どうなるのか、あの分厚い紙束に書かれていなかったのは──ヴァレッタ様が”書けなかった”だけかもしれない。
「原作では確かに王国を救ったようですが、その道のりは平坦なものではありませんでした。とうていわたくしにできるとは思いません。何度読んでも、感心こそすれ、同じことをやれと言われると……」
救国英雄エンドはお望みじゃないらしい。
なにせ一旦崩壊するんだ。
被害を受ける人が半端ないし、あまり嬉しいものじゃない。
フィクションとしては面白いかもしれないけど、現実問題困るのは民草がほとんどだし、市場も混乱する。
けど、婚約は解消したい。
王国崩壊も回避したい。
「ということは、やることが見えてきましたね」
まずはヴァレッタ様いちばんの希望、穏便な婚約解消だ。
殿下とのご関係を聞くと、「可もなく不可もなく」だとか。
一応婚約者として定期的に交流日が設けられるけれど、冷遇されることもなければ、強い関心も向けられない。
ただ、近況報告は求められるとのことで、面会時間はそれなりに過ごしているらしい。
なんじゃそりゃ。
「殿下の行動は、原作と少し違う気がしますわ」
原作では、ヒロインちゃん(ヒロインじゃなかったことが判明したけど、便宜上このまま継続)に恋をした殿下は、ヴァレッタ様を冷遇し、大衆の面前で婚約破棄を宣言。
ヒロインちゃんとゴールインするも、ヒロインちゃんに骨抜きになった殿下は王国崩壊を許してしまうポンコツ王子──のはずなんだけど。
「ポンコツ感ないですよね」
転生者がふたりもいるせいでバグったんか?
そもそも原作では冷静沈着氷結王子なんて呼ばれていなかったみたいだし、こっちじゃ欠片もヒロインちゃんとのロマンスが聞こえてこない。
知らんけど。
原作通りなのは、ヒロインちゃんと取り巻き令嬢たちの衝突くらい。
不本意な階段落ちを思い出して、苦いものが広がる。
「あの時、たまたま殿下が階下にいらしたので、あなたを保健室へお連れするよう頼んでも嫌な顔せず承諾してくださったのよ」
なんで頼んじゃったんですかあ、ヴァレッタ様〜。
そういえばあのあとなんやかんやで御礼も言えてないし。
むしろ、ぶっちゃけお近づきになりとうない〜
後列モブに押し寄せる不釣り合いなイベントの嵐に、もう涙目。
私の穏便ゆるぬるライフがどんどん崩れていくのを感じますよ。
ガラガラ ガラガラ ……
ほら、ガラガラ聞こえるでしょ?
ん? ガラガラ?
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
次のお話もぜひ、お楽しみください♪




