「逃げるぞ」
広場の空気が、ピリリと張りつめた。
ざわっ――
広場の端で、騎士たちが慌ただしく動き始める。
「おい、間違いないのか!?」
「特徴が一致してる!! 意味不明な装置まで持ってるぞ!」
「例の爆音魔導士か!?」
ざわめきが一気に広がった。
周囲の騎士たちが距離を取り始める。
明らかに警戒態勢だった。
腰の剣には一切手をかけない。
代わりに、結界魔法を展開し始める。
攻撃ではなく、防御を優先した動きだった。
「距離を取れ!!」
「爆音が来るぞ!!」
「耳を塞げ!!」
トワは目を丸くした。
「なんで!?」
隣の少女も小首を傾げる。
「爆音って何?」
クロウは即答した。
「聞かない方がいい」
その瞬間、騎士の一人が震える手で手配書を掲げた。
「未確認危険魔導士!!」
「平原消失事件の容疑者だ!!」
トワは慌てて手を振った。
「だから事故だって!」
「事故で平原が消えるか!!」
「消えてない!」
クロウがぼそりと呟く。
「禿げた」
「師匠!!」
少女はトワをじっと見つめた。
変人。意味不明。
勝手に楽器に触り、怪しい装置をいじり、そして平原を禿げさせる男。
(……ほんとに危ない人だった)
じりっ、と一歩下がる。
「なんで離れるの!?」
トワが傷ついたように言った。
「いや、普通離れるでしょ!」
少女が初めて感情を露わにする。
「えぇー……」
そのとき、騎士の一人が鋭く叫んだ。
「対象確認! 増援呼べ!!」
クロウの表情が一瞬で変わった。
まずい。本気でまずい状況だ。
(面倒になる。非常に)
低い声でクロウが言った。
「おい」
「ん?」
「逃げるぞ」
「えっ!?」
「えっ、じゃない!」
騎士たちが一斉に魔法陣を展開し始める。
包囲。
完全な捕獲体制。
「待て!! 抵抗するな!!」
「えぇぇ!? 俺何もしてないのに!?」
「平原」
「うっ」
「説明に数時間かかる」
「うっ……」
「そして絶対面倒だ」
「……それは嫌」
即答だった。
「行くぞ」
クロウが風魔法を発動させる。
空気が弾け、身体がふわりと浮く。
「あ、待って」
「何だ」
トワは少女の方を振り向いた。
「君も来る?」
「は?」
「だって装置まだ調整したいし」
「嫌に決まってるでしょ!!」
「えぇー」
「捕らえろ!!」
騎士たちの魔法が放たれる。
地面が爆ぜ、土煙が上がった。
「お前のせいだ!!」
クロウが怒鳴る。
「理不尽!!」
その瞬間、トワは反射的に少女の腕を掴んだ。
「えっ」
「ごめん、今だけ!」
次の瞬間――
ドンッ!!
爆風のような衝撃とともに、三人の姿はその場から消えた。
残された騎士たちは呆然と立ち尽くす。
「……連れて行った?」
「誘拐では?」
「報告案件だな……」
――その頃。
森の上空。
「ぎゃああああああ!?」
少女の悲鳴が響く。
「うわテンション上がるなこれ!」
トワの声。
「黙れ!!」
クロウの怒声が風に散った。




