王都全域劇場計画(設計会議編)
王都技術局の一室。
石造りの壁に囲まれた広い部屋の中央には、王都の立体地図が広げられていた。
建物一つ一つが精密に再現され、街そのものが机の上に縮小されている。
その前で、トワは目を輝かせていた。
「これ、全部王都?」
リゼルは静かに頷く。
「はい。都市構造をそのまま模型化したものです」
クロウが横でため息をつく。
「無駄に精密だな」
リュナが小さく呟く。
「これ、もう設計図じゃない?」
レオンハルトは少し離れた椅子に腰掛け、興味深そうに眺めていた。
「悪くない光景だな」
リゼルが地図の中央を指す。
「今回の計画は、王都全域に音を届ける実験です」
クロウの眉が動く。
「まだ“実験”扱いなのか」
リゼルは淡々と続ける。
「都市規模での音響伝播の検証です」
トワは即座に身を乗り出した。
「それってさ」
「王都全部で音が鳴るってこと?」
リゼルは一瞬考えたあと、頷く。
「結果的にはそうなります」
トワの目が輝いた。
「めっちゃ劇場じゃんそれ」
その一言で、部屋の空気が一瞬止まる。
クロウが小さく呟く。
「嫌な表現するな」
レオンハルトは笑った。
「面白い発想だ」
リゼルは地図を見ながら、静かに言葉を続ける。
「都市全体を“音響空間”として再設計する必要があります」
リゼルは机の上に複数の図を広げる。
「必要な要素は三つです」
「音源の統合」
「伝播の制御」
「出力の均一化」
クロウが即座に言う。
「全部都市改造だな」
リゼルは否定しない。
「はい。都市設計になります」
トワは地図を覗き込みながら呟く。
「ここ響きよさそう」
「ここ遅れそう」
リゼルが反応する。
「遅延を見ていますか?」
トワは適当に頷く。
「なんとなく」
クロウは頭を押さえた。
「なんとなくで都市いじるな」
リゼルは地図の中央に視線を戻す。
「問題は中枢です」
「全ての音を一度集約し、再分配する必要があります」
クロウが眉をひそめる。
「集約?」
「音を?」
リゼルも少し考え込む。
「複数の出力を……一箇所にまとめる構造です」
クロウの表情が曇る。
「それもう制御装置だろ」
リゼルは静かに頷いた。
「そうなります」
トワがぽつりと言う。
「なんかさ」
「音をまとめて調整するやつ欲しくない?」
リゼルが顔を上げる。
「調整?」
トワは言葉を探すように続ける。
「全部バラバラに鳴るとぐちゃぐちゃになるから」
「いい感じにまとめるというか」
「一回集めてから出す感じ?」
沈黙。
リゼルがゆっくり復唱する。
「一度……集めてから、出す」
クロウが即答する。
「意味が分からん」
リゼルは視線を落とし、考え始める。
「複数の魔石の出力を統合し……」
「再分配する構造……」
小さく息を吐く。
「新しい制御方式ですね」
クロウがすぐに言う。
「危険なやつだろそれ」
リゼルは否定しなかった。
その時、トワがぽんと手を叩いた。
「じゃあさ」
全員の視線が集まる。
「名前つけよう」
「名前?」
クロウが嫌そうに言う。
「また変なの出す気か」
トワは少し考えてから、あっさり言った。
「魔導ミキサー」
沈黙。
クロウが即座に反応する。
「意味は?」
「なんかかっこいいじゃん」
リュナが小さく呟く。
「雑すぎる」
リゼルは少しだけ目を細める。
「魔導……ミキサー」
言葉を反芻する。
「意味は不明ですが、機能としては理解できます」
クロウがため息をつく。
「理解するな」
レオンハルトは笑った。
「分かりやすくていい」
リゼルは最後に地図の中心を指差した。
「これが魔導ミキサーの設置点になります」
クロウが固まる。
「都市の心臓じゃないかそれ」
リゼルは静かに答える。
「その通りです」
リュナが呟く。
「ほんとに心臓になってる……」
レオンハルトは立ち上がり、地図を見下ろす。
「王都そのものを劇場にするか」
トワが即答する。
「うん」
「それが一番面白い」
クロウが即座に言う。
「やめろ」
リュナはため息をつく。
「もう止まらないやつだこれ」
リゼルは静かに目を閉じる。
(都市が変わる)
その確信だけが、そこにあった。




