「なんなの、この家」
夕方。
森の奥深くにある、石造りの家。
外から見る限り、ただの静かな森の住処だ。
本当に普通の家――中身を知らなければ。
「お邪魔します……」
リュナは最大限に警戒しながら、半歩ずつ中へ入った。
いつでも逃げられる体勢を崩さない。かなり本気だった。
「ただいまー」
トワがのんきに声を上げた。
「騒がしいのが帰ってきたな……」
クロウがため息混じりに言う。
「いやあなたも一緒に来てましたよね!?」
リュナが即座に突っ込んだ。
「今日ちょっと賑やかだな」
「誰のせいよ!?」
トワは靴を脱ぎながら振り返り、笑顔で言った。
「まあまあ。ご飯食べたら落ち着くって」
「知らない人の家で!?」
「知らない人じゃないじゃん」
「今日会ったばかりでしょ!!」
クロウが口元を押さえ、小さく笑いを堪えた。
(テンポが合うな……)
トワは迷いなく家の中を進む。
当然、自分の家だからだ。
「じゃ、飯作るかー」
リュナが少し不安げに聞いた。
「……あなた、料理できるの?」
「そこそこ?」
「嘘だ」
クロウが即答した。
「えぇ!?」
「三日前、鍋を爆発させた」
「事故!!」
「台所の壁が焦げた」
「火力調整ミスだってば!」
リュナが一歩後ずさる。
(怖い……)
「今日は普通に作るから!」
「信用ゼロなんだけど」
その時だった。
リュナの視界に、半開きの扉が映る。
地下へ続く階段だ。
そして、その奥から見えた光景――
木箱。金属。絡まった線。
見たこともない道具が雑多に積まれている。
薄暗い地下で、何かが淡く光っていた。
「……何あれ」
トワがぴたりと動きを止めた。
振り向いた顔が、ぱっと明るくなる。
リュナの中に嫌な予感が走った。
すごく嫌な予感が。
「見る!?」
「え?」
「やめておけ」
クロウが即答した。
「なんで!?」
「長いぞ」
「いやいや! 今回の新型かなり面白くて!」
トワはもう止まらない。
地下への扉を勢いよく開け放つ。
「ほらこれ! 前のやつは低音は良かったんだけど、中域がちょっと――」
「始まったな」
「……ちゅういき?」
リュナが首を傾げる。
そこは工房というより、明らかに怪しい研究施設だった。
床を線が這い回り、木箱や見たことのない器具が壁際に積み上がっている。
淡く光る魔法陣、意味不明な部品。
そして中央には――
明らかに危険そうな巨大装置が鎮座していた。
「…………」
「どう!? すごくない!?」
トワの目がキラキラと輝いていた。
「怖い」
リュナは即答した。
クロウが小さく頷く。
「正常な感想だ」
「えぇぇ……」
その時。
リュナの視線が、棚の上の一点で止まった。
他の物とは明らかに違う。
小さめで、綺麗な木箱。
丁寧に置かれている。
「あ、それ――」
「触るな」
クロウが珍しく早口で言った。
トワがにやっと笑う。
「あー」
ニヤニヤが止まらない。
「師匠の――」
「言うな」
クロウが少し焦った様子で即答した。
「?」
リュナが首を傾げる。
トワは笑いを堪えながら、
「へぇ〜」
と意味深に伸ばした。
クロウの眉がぴくっと動く。
「……飯を作れ」
低い声だった。
「はーい」
トワは素直に台所へ向かった。
だが、リュナは見逃さなかった。
さっきの一瞬――
クロウが、あの木箱を気にしたことを。




