シャーロットの願い
「さて、シャーロット、愚息がそなたを責め立て悪人に仕立て上げようと画策したこと、謝って済むものではないが、アレの父として謝罪させてほしい……済まなかった……」
ジークハルトたちが連行され、会場内に静けさが戻ると、国王陛下がシャーロットに向け頭を下げ謝罪をした。
ジークハルトの父親として、そしてシャーロットの名誉のため。
一国の王が爵位も何もない令嬢に頭を下げる。
この場にいる者皆が息を飲んで見守った。
「陛下、どうぞ頭を上げて下さい、ジークハルト様のことはジークハルト様本人だけではなく、あの方を支える周りの者皆にも責任があること、それは婚約者だった私も同罪、ジークハルト様を良き方向へ導くことが出来なかった私にも責任がございます。婚約者としてお力になれなかったこと、この場にて謝罪させていただきます」
シャーロットに合わせ公爵も一緒に頭を下げた。
ジークハルトの婚約者になったシャーロットには多くの期待が掛けられていた。
それはジークハルトが容姿以外平凡で、また勤勉で無かったという理由が大きい。
だからこそ頭がよく品行方正で努力家なシャーロットが婚約者に選ばれたのだろうが、それが却ってジークハルトだけでなく周りも慢心させてしまった。
シャーロット様がいるから大丈夫。
ジークハルトの教育係や、側近誰もが一度は思ったことはある感情。
それはジークハルトの嫉妬心を煽り、シャーロットを敵視することに繋がり、二人の仲を険悪なものに変えてしまった。
「いいや、シャーロット、そなたは良くやってくれた……今回のことはジークハルトの心構えを王族らしく育てられなかった我々の罪。シャーロットが憂いを感じる必要はどこにもないのだぞ」
「陛下……有難うございます……そう言っていただけると、心が軽くなります」
「ああ……本心からの言葉だ、そなたは良くやってくれた」
本当ならば親子になるはずだった二人。
国王陛下も幼いころから知っているシャーロットに愛情があるように、シャーロットも陛下に対し父親へ向けるような想いがあるのだろう。
見つめあう二人はどこか寂しそうな表情で笑っている。
「さて、シャーロット、この場で簡単にそなたの願いを聞いておこうか、婚約解消の賠償は当然契約通りに支払うが、今夜の事件に関しての埋め合わせを私にさせて欲しい」
「陛下、有難うございます」
「うむ、シャーロット、そなたが望むものは何だ? 出来る限りの願いをこの国の王として叶えることをこの場で誓おう」
ジークハルトとの婚約解消はともかく、今宵の出来事をこの場限りで終わらせたいのか、国王陛下がシャーロットの望みを叶えると言い出した。
無実のシャーロットを断罪したジークハルトは当然悪いけれど、そそのかしたマリーを始め、側近子息たちにも、城の側近たちにも当然罪はある。
けれどここは貴族学園の中。
学園で起こした事件は世間一般の扱いとは違う。
きっと彼らの罪はエリックが想像する以上に軽いものになるだろう。
下手をしたら無罪になり、無かったことにされる可能性もある。
だからこそ、陛下はシャーロットに今問いかけたのかもしれない。
ジークハルトたちを擁護する者たちから余計な邪魔が入らないように、ここで被害者であるシャーロットの願いを聞く。
『出来る限りの願いを叶える』
この国の代表である国王陛下に出来ないことは少ない。
つまりジークハルトにもマリーにも、シャーロットが望めば極刑も叶う可能性がある。
シャーロットが何を願うのか、皆の注目が集まる中、シャーロットは陛下に答えた。
「では、陛下、一つだけ宜しいでしょうか?」
「ああ、シャーロット、何なりと言ってみよ」
「はい、私の願いは一つ、結婚相手を自分で決めることです」
「結婚相手……?」
「はい」
シャーロットの言葉を聞いて、国王陛下は驚いた顔をした後、何故かエリックに視線を送ってきた。
陛下に直答を許されていないのに視線が合っては不敬になると、慌てて頭を下げたエリックは、陛下が楽し気に笑っているようなそんな顔を一瞬見た気がした。
「シャーロット、そんなことで良いのか? もっと違うことも願えるが」
「はい、十分にございます。私は貴族の娘として生まれ、家のための婚姻がどれ程大切なものかは十分に分かっているつもりです。ですのでこれまでジークハルト様に尽くし、少しでも良き関係になれるようにと努力してまいりました。この国のため、そして多くの国民のため、愛されることのないジークハルト様との結婚を受け入れておりましたが、それがなくなった今、結婚相手は自分で見つけたいとそう思っております」
「ふむ、そうか……」
「私はこの先、父の跡を継ぎソラリス公爵になる予定でございます。女性公爵はこの国初、大変な重圧があるため、父や母が安心できる婿殿を私のために探そうとしてくれるでしょう。ですが私は自分の目でソラリス公爵家のためになる方を見つけ、自分自身が幸せになる道を、その方と協力し作って参りたいと、そう思っております」
「ふむ……」
貴族に生まれたものにとって政略結婚は当然の義務。
特に高位貴族のご令嬢は恋も愛も知らず、親が決めた相手に嫁ぎ、またその家のために尽くすことが責務であり幸せだと思われている。
シャーロットはその重要性を理解したうえで、自身の希望で結婚相手を決めたいと言っている。
女性公爵となるシャーロットは今以上に注目され、きっと国内外の多くの男性から婚姻を望まれるだろう。
まだ若いシャーロットにどれ程の人間観察力があるかは分からないが、騙そうとする者は必ずいる。
それを分かっていてのシャーロットの願いに、陛下はうんと頷いた。
「相分かった、シャーロットの婚姻に関しては誰も口を挟むことを許さない、たとえそれが公爵であってもオリビアであっても、口出しをさせないとをこの国の王として約束をしよう」
「陛下、有難うございます」
礼を取った後、シャーロットとエリックの視線が合う。
ニコッと可愛く微笑んだシャーロットの頬が何となく赤い気がして、エリックは(もしかして……)と希望を浮かべてしまう。
(シャーロット様の結婚がシャーロット様自身の望む相手と出来るってことは……もしかして僕にもチャンスがある?!)
エリックの胸の中には大きな希望が広がっていた。
「ソラリス様、宜しければ僕と踊っていただけませんか」
「私とも、是非」
「私とは良ければダンスの後お話を……」
「僕とも是非、あちらでゆっくりとお話をいたしましょう」
国王陛下、並びに公爵たち大人組が会場から姿を消すと、シャーロットに向け多くの男子生徒が集まってきた。
これまで公爵令嬢であるシャーロットに直接声を掛けるなど、絶対に出来なかった男たち。
シャーロットは今までジークハルトの婚約者だったため、高根の花過ぎて友人になってもらおうとも望めなかった。
けれど婚約破棄が宣言され、結婚の相手もシャーロットの自由に選べることが決まった。
そうなれば現在フリーのシャーロットに近付こうとする者がいるのは当然で、エリックは今夜のパートナーとして、そしてシャーロットに恋心を抱くものとして、そんな相手の間に入り、シャーロットを守る決意を固めた。
「申し訳ありません、皆さま、シャーロット様の今夜の相手はこの僕です。貴方たちのお気持ちは分かりますが、大変な事件があってお心がお疲れのシャーロット様に気軽に声掛けなどしないで下さい」
「エリック」
「さあ、シャーロット様、少し休みましょうか、あちらのテラスに参りましょう」
「フフフ、ええ、エリック、有難う、助かりますわ」
何だお前は! とか、邪魔をするな! とか騒ぐ男子生徒たちを無視し、疲れているであろうシャーロットを自慢顔でエスコートし、エリックはテラスへと向かう。
そしてベンチにハンカチを広げシャーロットを座らせれば、シャーロットの顔が物凄い近くにあり驚く。
(あれ? これってキスされる?)
そんな期待を持って目をつぶったけれど、シャーロットが触れたのはエリックの頬だった。
「エリック、痛かったでしょう……?」
「えっ?」
どうやらアンドリューに殴られた頬をシャーロットは心配してくれただけらしい。
淡い期待を持ったエリックは恥ずかしくて真っ赤になる。
「エリック、ごめんなさいね、私を庇ってこんな酷い怪我をして……」
「ああ、いいえ、全然大丈夫です。僕は男兄弟の中で育ってますし、荷運びとか、結構乱暴な人足の相手も商会の仕事でしていますからね、これぐらいの怪我は慣れていますよ」
実際殴られることなどめったにないが、それでも人が殴られる姿はかなり見てきているし、それを止めた経験だってエリックにはある。
だから気にしないでと笑顔をシャーロットに向けたのだけど、シャーロットはちょっとだけ泣きそうな顔になった。
「エリックは本当に優しいのね……私はジークハルト様が今日何かをしでかすであろうことは分っていたの……だから父にも話をしてあったし、父もそれを見越して陛下や他の皆さまをこの場に連れていらしたと思うの……私の我儘だけど、ジークハルト様とはジークハルト様の有責で婚約を解消したかった……その為に貴方を利用した形になったのよ、そんな姑息な女を貴方は知らずに庇ってくれたの……本当にごめんなさい、申し訳なかったわ」
シャーロットがエリックの前でシュンとして謝る。
その姿はどこか幼くて、小さな女の子が我儘を言って怒られたかのようで可愛らしく、頬が緩む。
「シャーロット様、僕がシャーロット様を嫌いになるはずがありません」
「エリック?」
「シャーロット様は女性公爵になられるお方、陰謀、策略、当然のことじゃないですか。悪意に立ち向かうために正直に真正面から突っ込むなんてあり得ない。それに相手はこの国の王子様なんですよ。その上宰相の息子とか騎士団長の息子とかも一緒なんです。シャーロット様の行動は間違っていません……というか滅茶苦茶カッコいいです!」
「エリック……」
「シャーロット様、前に相手の有責で婚約解消したいって言ってましたよね、フフフ、シャーロット様、有言実行ですね! そういうとこ、本当にカッコいいと思います」
貴族女性を褒める言葉でカッコイイはあり得ないかもしれないけれど、シャーロットは公爵位になる身、カッコいいも絶対に誉め言葉になるし、これはエリックの本心だった。
「エリック、有難う、あなたにはいつも心を救われているわ」
「いえ、そんな……」
お礼を言って笑ったシャーロットの唇が、そっとエリックの頬に触れる。
いい香りと柔らかい感触が名残惜しそうにエリックから離れていくと、シャーロットの美しすぎる笑顔が間近に合った。
「貴方のお陰で楽しい卒業パーティーになったわ、エリック、有難う」
「ーーっ!」
そう言って微笑んだシャーロットは誰よりも美しく輝いて見えて……
エリックの心を一生縛り付けるほどに魅力的だった。
おはようございます、夢子です。
エリックとシャーロット、ちょっとはイチャイチャさせて仲を進めたいと思ったのですが、どうでしょう。
エリックはまだ一年生、今後に期待って感じですかね。
もう連載終わりそうだけど。w




