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【完結】捨てる神あれば拾う神あり~踏み台令息は失恋を得て成長する~  作者: 夢子


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マリーの夢と現実

「あのぉ! どういうことですか? 悪いのはシャーロットさんですよねぇ? なんでジーク様が責められるんですか? 可笑しいでしょう?! 私はこの物語のヒロインで、ジーク様はメインヒーローなのに!」


 項垂れるジークハルトの横に立ち、大きな声で喚き出したマリーに対し会場中の視線が集まる。


 国王陛下の前、普通なら許されない不敬だが、公爵を始め護衛で付いてきたであろう騎士団長でさえマリーの行動を止めることはない。


 もしかしたらジークハルトにマリーの本性を見せる為か、それともマリーの考えを吐き出させるためなのか。


 笑顔ながらも冷たい視線をマリーに向ける大人たちの様子が恐ろしすぎて、背中にひんやりとするものを感じ、ゾッとしたエリックだった。


「宰相、アレの言っている言葉が分かるか?」

「……陛下、私の予想でしかありませんが……どうやらあの者は何かの物語の主人公が自分であると思っているようです。そしてこの場もその物語の一場面だと、そう思い込んでいる状態……なのかもしれません」


「ふむ……なるほど……それで自身の恋人であるジークハルトをメインヒーローと呼んだのか……?」

「はい、そうですね、そしてその他の令息がメインではないヒーローなのだと予想されますね」

「ふむ……」


 フーフーと荒い息を吐き、「なんでなのよ!」と怒り続けるマリーを見ながら、国王陛下は宰相と何かを話し合っている。


 けれどその視線はマリーから離すことは無く、危険物でも見るような目で見つめ、何かあったらいつでも対処できるように見守っている。


 一番鋭い視線は当然騎士団長のものだ。

 国王陛下のパーソナルエリアに入り次第、(マリー)を切りつける。

 エリックにはそう見えていた。


「マリアンヌ・アレース、その物語とはなんだ、何故自分が主人公であると思う? 確証はあるのか?」


「そんなの簡単よ、私は転生者なのよ! だったらヒロインに決まっているじゃない!」


「てんせい、しゃ……?」


「そうよ、だから私はこの世界の中心! 私の望み通りに物語が進まないと可笑しいの!」


「世界の中心……」


「そう! それに私は見た目だってチョー可愛いし、男の子たちはみーんな私に夢中になるし、貴族になって学園に入学したらちゃんと悪役令嬢だっていたし、私以外がヒロインだなんてありえないのよっ!」


「……」


 マリーの言っていることは言葉としては分かるのだが、エリックには意味が分からない。


 男の子たちはみんな自分に夢中になる。

 それも微妙だ。


 他にも見た目が可愛い子は沢山いるし、料理上手や、裁縫上手、気が優しいという理由でモテる女の子たちも知っている。


 確かにマリーは孤児院の中では見た目が一番可愛かったし、多くの男の子たちが好意を抱いてたと言える。

 それはエリックも同じで、マリーの可愛さに心奪われたのは確かだった。


 でもだからと言って彼女がこの世界の中心であるとは思えない。


 国王陛下だってこの国の王ではあっても自分が世界の中心だとは思わないだろう。




「マリアンヌ・アレースさん、もしかして学園で出会った悪役令嬢というのは私の事かしら?」


 マリーの恋人ジークハルトや、側近たち、そして大人もドン引きしてマリーを見つめる中で、シャーロットが一歩前に出てマリーに話しかけた。


 茫然としていたエリックだったけれど、シャーロットの声を聞きハッとする。

 パートナーとしていつでもシャーロットを守れる態勢でいなければならない。


 今のマリーは危険思想を思い描く危険人物。

 何をしでかすか分からない怖さがあった。


(シャーロット様は絶対に守らなきゃ!)


 いつでも動ける心構えをし、エリックは手に力を入れ直した。


「そうよ! あんたはジーク様の婚約者だったんだから、悪役令嬢に決まっているでしょう!」


「そうなのですか? つまり貴女の物語の中では、殿下の婚約者であれば悪役令嬢になるのですか?」


「そうよ! でもそれだけじゃないわ! 私たちの恋を邪魔するから悪役令嬢なのよ! それに見た目もあんたのビジュは悪役その者じゃない! それにジーク様だってあんたのことを高慢ちきで嫌な女だって言ってたんだからね!」


「まあ、そうなのですか……」


 高慢ちきで嫌な女という言葉に公爵が動きそうになっていたが、どうにか留まり二人の様子を見つめている。


 シャーロットが笑顔を浮かべ余裕ある様子を見せているから、きっと殴りたい気持ちを止めることが出来たのだろう。

 これがマリーの言葉に傷つき悲し気な様子を見せていたら、誰が止めても公爵はマリーをぶった切っていたと思う。


 そんな緊張が走る中、シャーロットは首を傾げマリーを見つめた。


「貴女のお陰で殿下の中で私が嫌な女であることは十分に分かりました……ですが私は貴女と殿下の恋路を邪魔したことは一度もありません、それでも悪役令嬢なのですか?」


「はあ? 何言ってんの? さんざん邪魔してきたくせに!」


「邪魔ですか……ですが貴女の悪い噂が学園で流れ出したのも貴女が婚約者のいる男性と親密になっていたからですし、貴女の持ち物を壊したのも貴女自身、それに階段から落とされたのも貴女がジェイドからの告白を断ったからですわよね……? 私は全く貴女とジークハルト様に関与しておりませんが、それでも私が貴女の物語の中の悪役令嬢なのですか?」


「な、なに、言ってんの……? あんたが悪役令嬢じゃなきゃ可笑しいでしょう……」


 ジークハルトと婚約解消をしたかったシャーロットは、どちらかと言えば二人の恋を見逃し、応援していたと言える。


 男爵令嬢に溺れシャーロットを冷遇すれば、公爵がこの結婚を許すはずはないし、国王夫妻もシャーロットではなく男爵令嬢をジークハルトが選んだ時点で、次期国王に据えることは出来なくなるだろう。


 マリーがこの世界どころか、この国の中心になる未来さえ始めから無かった。

 そんな現実をシャーロットに付きつけられ、マリーの勢いは削がれているようだった。


「もしかして、貴女は()()()()の主人公ではないのではありませんか?」


「はあ、そんなはずないでしょう?! だって私は攻略対象者たちに愛されているし! 転生者だし!」


「攻略対象者……? それが()()にいる貴族子息を示しているのならば、攻略対象とは高位の貴族男子、ということでしょうか?」


「高位っていうか、私好みのカッコいい男の子たちってことよ!」


「そうですか……ですが何をもってカッコいいというかは人によって違いますし、それに彼らには兄弟もおりますし、そちらが攻略対象者? という立場の者かもしれませんし……それに高位貴族の男性は他にもおりますのよ、貴女に夢中になった男性だけを攻略対象者だと貴女が呼んでいるだけで、貴女がこの物語の主人公だとは言えませんわよね?」


「は?」


「それでは貴女が世界の中心だというのも、可笑しいのではないですか?」


 シャーロットの言っていることは事実だ。

 もしエリックがヒロインというものだったら、ジークハルトよりも第二王子のラインハルトを物語のヒーローにするだろうし、パトリックよりもメルソンのほうが兄弟でも紳士的でカッコいいと思う。


 つまりマリーは自分で落とした男を攻略対象者だとみなし、靡かない他の貴族男子はその枠外に置いただけ。


 自分都合で語るマリーの言葉は、ある意味自分都合で物事を考えるジークハルトとそっくりだ。


 お似合いのカップル。


 エリックはこんな時なのに笑いそうになっていた。


「うるさい! うるさい! うるさい! うるさーい!! なんなのあんた! なんで私の邪魔ばっかするの! 悪役令嬢なら消えろ! ほんと、ウザいんですけど!」


「……ですから私は邪魔など一度もーー」


「ああ! 分かった! バグの理由分かっちゃった!」


「はい?」


「あんたも転生者なんでしょう!」


「転生者?」


「しらばっくれるんじゃないわよ! だから私の邪魔が出来るんでしょう! 信じらんない! 泥棒じゃないの!」


「……泥棒ですか……?」


「そうよ! 薄汚いドロボーよ!」


 マリーの言っている意味が分からないシャーロットが首を傾げる。

 かなり失礼な言葉を掛けられているにも関わらず、シャーロットには余裕があり、王妃教育を終えただけの人であると尊敬しかない。


「ズルして、エリックも私から奪って、ジーク様も追い込んで、ジェイドも、パトリックも、アルフレッドも、アンドリューも、みんな、みーんなあんたのせいで追い込まれた! 卒業パーティーがこんなになったのも全部あんたのせいでしょう! ヒロインの邪魔をするだなんて許さないんだから!!」


 急にキレたマリーがシャーロットを罵り、手を大きく振りかぶった。

 その手には会場にあるナイフが握られていて、シャーロットの顔に向けて振り下ろそうとしているのが分かった。


「シャーロット様!」


 エリックはすぐにシャーロットを庇い抱きしめる。

 ジークハルトたちは役には立たず、自分たちの恋する相手のあまりの変わりようについていけず、騎士を目指すアンドリューでさえ座り込んだままマリーを止める様子はない。


(シャーロット様を守れるならば命だって惜しくはない!)


 殴られるかナイフで刺されるかと思ったエリックだったけれど、目を開ければ騎士団長の大きな背に守られていて、マリーは騎士団長によって後ろ手に手を回されていた。


「痛い、痛い、痛い! なにすんのよ、この馬鹿力男! 離せ! 離しなさいよ! 私はヒロインなのよ!」


 マリーは足をじたばたとさせ暴れているが、力のある騎士団長の腕から逃れられる訳は無く。

 身動きが取れない、逃げ出せない状況で焦っているようだった。


「この者を引っ立てろ!」

「ハッ!」


 騎士団長の掛け声で、騎士団の騎士らしき人物たちが数名入って来て、暴れ喚くマリーを会場から連れだしていく。


「バカバカバカー! ふざけんなー! 絶対リセットしてやる! モブのくせに私に触んないでよ!」


 どこまでも五月蠅いマリーの声がだんだんと遠くなる。

 するとエリックの腕の中、シャーロットの小さな声が聞こえた。


「あの、エリック……」


「あっ! シャーロット様、すみません! 勝手にお体に触れてしまって!」


「いいえ、大丈夫よ、守ってくれたのは分かっているから……」


 成り行きを見守りながらもエリックはシャーロットをずっと抱きしめていたらしく、シャーロットの可愛らしい声を聞いて現実に戻ってきた。


 女性にしては背の高いシャーロットとまだ成長途中のエリックはさほど身長差がなく、思ったよりも近くにシャーロットの綺麗な顔があって、エリックはこんな時なのに自分の顔に熱がたまるのを感じた。


(間近で見たシャーロット様の破壊力って物凄っい……)


 マリーの事件の後だから……ではなく、違う意味でエリックの胸はドキドキと五月蠅かった。




「さて、ジークハルト……もう一度問う、此度の件で何か言いたいことはあるか?」


 ショックが大きすぎたのかジークハルトは会場入りした時とは違い、別人のようになっており、俯いたまま陛下の言葉に首を振った。


「そうか……では今後のことについては王城で話すとしよう……後ろに控える子息たちも同じだ。城にて事情聴取を行う。ヴェスタ」


「はっ」


 国王陛下が騎士団長に声を掛けると、入場してきた騎士団員に指示を出し、パトリック・クロノス、アルフレッド・バッカス、アンドリュー・ヴェスタ、ジェイド・ソラリスを連れていく。


 マリーのように後ろ手に縛られてはいないが、騎士団員に連れていかれる皆の姿は犯罪者そのもの。


 各自自分の父親に助けを求めるような視線を送るが、それに応えるものはおらず、この先の自分の未来が見えただろう彼らの顔には暗いものが浮かんでいた。


「ジークハルト、お前もだ……だがまずはこの場にいる者たちに謝罪をしろ、折角の祝いの場を乱した詫びをな……」


「……はい……皆さま、記念すべき別れの宴の日に、愚かしい騒ぎを起こしてしまい、大変申し訳ありませんでした……」


(あのジークハルト様が謝った……)


 視線を上げることなくジークハルトは会場中にいる生徒たちに向け謝罪の言葉を発した。


 それが陛下に言われたから絞り出した言葉なのか、本心からの物かは分からないけれど、ジークハルトが物凄いショックを受けていることだけは分かる。


 入学する前、マリーに振られた日をエリックは思いだす。

 あの時のショックは大きなもので、きっとシャーロットと出会わなければ今もまだ囚われていただろう。


 だからジークハルトの気持ちも少しだけ分かった。


 きっと今、彼は何も考えられない状態。


 ジークハルトが復活するには少しの時間と、現実をちゃんと見る力が必要な気がした。


「……シャーロット……」


 会場から連れ出される際、ジークハルトがシャーロットに声を掛けた。


 ジークハルトが向けるシャーロットへの視線には、冀うような、懇願するような、助けて欲しいと、そう訴えているようなものが浮かんでいたけれど、シャーロットがそれに応えることは無く、第一王子を見送るという形で頭を下げたまま視線を合わせることはしなかった。


「ジークハルト様、さようなら……」


 礼を取り俯くシャーロットの呟きは、隣にいるエリックにしか聞こえない、とても小さなものだった。

おはようございます、夢子です。

今日もお読みいただきありがとうございます。


マリーとその仲間たち退場です。

もう少しでゴール。

最後までお付き合いいただけると嬉しいです。


黄砂が酷いようですが皆様大丈夫ですか?

私は朝目が痛い時があります。

三男猫も目ヤニが酷くて、くしゃみもしていました。かわいっ!w

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