悪役令嬢とは?
「アンドリュー! 一般人の、それもこの学園の生徒に剣を向けるとはどういうことだ! 騎士を目指す者として恥ずかしくないのか! それでは騎士団長である父の名が泣くぞ!」
「は、はい! 陛下、申し訳ございません!!」
この国の王、ルオデルト・ユービテルの登場に、卒業パーティーに集まっていた生徒たちが全員礼を取る。
それはシャーロットとエリックも同じで、エリックは痛む頬の存在など忘れ慌てて頭を下げた。
どうやら国王陛下は最初からこの卒業パーティーを見ていたらしい。
陛下の後ろにはソラリス公爵、そして筆頭侯爵であるデレーラ侯爵、それに大臣のクロノス侯爵、宰相のバッカス伯爵、それと騎士団長のヴェスタ子爵と、この国の重要人物たちが集まっている。
当然それはこの場に自身の子がいるから……という理由もあるだろうが、どう考えても愚行を確認に来た、と言える。
ソラリス公爵も侯爵もそして宰相も、厳しい視線で息子たちを見ていた。
そしてそんな中、主の命令とはいえ武装もしていない一般生徒に暴力を振るったという息子の蛮行を目にした騎士団長は、ただでさえ強面の顔を尚更恐ろしいものに変えていた。
「ジークハルト、これはどういうことだ?」
「ち、父上……あの……」
「確か今宵は卒業を祝う会だったはず……それなのに何故今この場で暴力事件が起きた? それに何故非のない一般人の、それもこの学園に通う生徒に対し、お前の護衛が剣を向けた? ジークハルト、お前は楽しい夜会の場を血で染めるつもりか?」
「いえ、決してそのようなつもりは……」
「……陛下、申し訳ありません、私が出過ぎた真似をいたしました!」
「……」
ジークハルトとアンドリューは陛下に問い掛けられ顔色が悪い。
先ほどまでの勢いはどこに行ったのか、今はしぼんだ花のようだ。
親に怒られ恐怖心を抱くぐらいならば、最初からシャーロットを責める愚行など起こさなければよかったのだ。後ろめたい気持ちがあるからこそ、彼らは沈黙するしかなくなっているのだろう。あまりにも愚かすぎて呆れてしまう。
隣のシャーロットにそんな気持ちで視線を送れば、シャーロットはいつも通り優しく微笑んでいて、こうなることを予想していたと想像できた。
(シャーロット様、陛下たちがいることをもしかして知っていた? だからあんなに煽っていたのかな?)
「さて、ジークハルト、聞かせてもらいたい、私にはシャーロットを責め立てている声が聞こえたが、それは一体どいうことか説明してもらえるかな?」
「……はい、あの、それは……」
まさか父親である国王陛下がこの場に出てくるとはジークハルトも思っていなかったのだろう。
親の目のないところでシャーロットを断罪し、すべてを終わらせたかったのだろうが、思惑が外れ悔しげだ。
父親に言っても無駄。
父親は必ずシャーロットの味方をする。
子供が拗ねているような表情を浮かべるジークハルトは、証拠の品に視線を送る。
だが先ほどのシャーロットの言葉を聞けば、その証拠品が役に立たないことは分かっている。
それに青くなって俯いている証人のアーロン・クランドも、使えないことは気づいているようだった。
「なんだ、ジークハルト、理由があるのならハッキリ言え、先ほどまではあれほど威勢が良かっただろう? どうした」
「……はい、はい……その……」
「それとも私に言えないようなことをこの場でしていたのか? それもソラリス公爵家の令嬢であるシャーロット相手にか? ん?」
「……」
陛下に問い掛けられたジークハルトは、青い顔のまま動揺が浮かんで見える。
普通に考えて貴族令嬢を夜会の場で断罪するなどあり得ない。
それも今宵は卒業パーティー。
普通の夜会とは全く違うお祝いの場だ。
それなのにそんな夜会の場で、それも大勢の生徒が見守る中での愚行。
今宵のことは生徒から親へ伝わるだろうし、会場の使用人から世間へも伝わるだろう。
ハッキリ言ってそれは王族の恥をさらしたも同然。
陛下が怒るのも当たり前、公爵たちが呆れるのも当たり前。
それなりの理由がなければ許される行為ではないはず。
陛下の言う通りこの場でシャーロットを責め立てること自体が場違い。
貴族令嬢の罪を問うのならば、議会や裁判の場でないと可笑しい。
動揺するジークハルトの目は泳ぎ、どう言訳をしようか悩んでいるようだった。
「あの! 王様ぁ、ジーク様は悪くないんです!」
「マリー?!」
「……ほう……どういうことだ?」
「はい、ジーク様は私のために悪女をやっつけてくれようとしただけ! 悪いのはシャーロットさん! そこにいる悪役令嬢なんです!!」
「マリー、喋るな!」
「ふむ、シャーロットが、悪役令嬢か……?」
「はい! その通りなんです!」
この場にいる誰もがマリーの行動に驚き、開いた口が塞がらない。
声掛けを許されてもいないのに陛下を「王様」呼びし、勝手に喋り出す。
パートナーであるジークハルトでさえもマリーの突然すぎる不敬に驚いているし、会場中の皆が青い顔になっている。
ただし国王陛下だけはどこか楽し気で、マリーの様子を気にしてもいないようだった。
ただその後ろ、ソラリス公爵たちは、笑顔ながらも額に青筋が浮かんでいて、マリーに対し酷い怒りを感じているようだった。
「シャーロットが悪役令嬢だとその者が言っているが、ジークハルト、お前はどう思う?」
陛下の問いかけにジークハルトがごくりと喉を鳴らす。
ここまで来たら覚悟を決めるしかない、そう決断したようだ。
「……はい、その、シャーロットは……学園内で傲慢な態度を繰り返し……弱きものを虐め、貴族令嬢らしからぬ行動をしており、まさに悪女と言える状態でした……」
「ほう……シャーロットがなぁ……? ふむ、シャーロットは妃教育を終え、王子妃の仕事を王城で受け持っていて、とてもそんな時間は無かったと思うが、一体どんな理由からそんな愚行を犯したというのだ?」
「それは……その……私が、このマリーを妃にと望んだことで、シャーロットが嫉妬し、癇癪をおこしまして……」
「ほう……シャーロットが嫉妬に癇癪? 何故だ? 何故シャーロットほどの令嬢が嫉妬など起こさなければならない?」
「それは……その、シャーロットは私を愛するが故、私の愛を一身に受けるマリーの存在が許せなかったからです……」
「ふむ……だ、そうだが、ソラリス公爵、何か言いたいことはあるかな?」
ジークハルトの言い分を聞き、優しい笑顔を浮かべながらも激しい圧を出すという器用なソラリス公爵に陛下が声を掛ける。
娘のことを目の前で悪女と言われたのだ。
公爵の怒りは恐ろしいものだった。
「そうですね、まず、シャーロットがそこの者に嫉妬をすること自体があり得ないでしょう。何故ならシャーロットは殿下との婚姻を仕方なく受け入れたに過ぎませんから」
「なっ?! ソラリス公爵、不敬だぞ! シャーロットは私と結婚したくて父上に無理を言ったのだ!」
「ジークハルト、黙れ! 今は公爵の話を聞いておる!」
「……っ! はい……申し訳ございません……」
悔し気なジークハルトを黙らせると、陛下は「すまんな」と謝り公爵に話のつづきを促した。
公爵はジークハルトに向けあからさまなため息を吐くと、話の続きを始める。
「……元からこの婚約に乗り気の無かったシャーロットでしたが、実は数か月前からは殿下との婚約解消をどうしてもしたいのだと望んでおりました」
「は? 嘘だ!」
「確かにそうだな……私も聞いておる」
「は?」
公爵の言葉にまた口を挟んだジークハルトを無視し、陛下がそれを正しいと頷き認める。
驚くジークハルトを気にすることも無く、公爵の話は進んでいった。
「それと殿下との婚約は先日既に解消されておりますので、シャーロットがそこの者に嫉妬をする必要もないかと思われます」
「は? 解消だと?!」
「うむ、そうだな。もうとっくに婚約は解消されているからな、どうでもいい相手に対しシャーロットが嫌がらせをする意味はないだろうなぁ」
「は?」
陛下と公爵の話にジークハルトはついていけない。
自分の知らぬところで何故? どうして? 婚約が解消された? と驚いている。
どうやら自分からシャーロットとの婚約を解消するのは許されるが、シャーロットから婚約を解消されることは許されないらしい。
王子とは到底呼べない顔つきでシャーロットを睨んでいる。
「ではシャーロットに聞こうか、シャーロット、そなたはジークハルトとの婚約解消を望み、その通りになった今、アレに思うところは何もないはずだ、違うか?」
「はい、陛下、その通りでございます。私がジークハルト様のお相手に対し嫉妬することも、憎しみを募ることもあり得ません。義務から逃れられ清々しておりますので……」
「うむ、そうだろうなぁ……」
「ーーっ!」
驚くジークハルトに声を掛けるものなどおらず、陛下はまた公爵との会話を始める。
「陛下、当然でしょう、娘があんな子供を相手に嫉妬などするはずがありませんから」
「うむ、そうだろうなぁ……令嬢としての質が余りにも違い過ぎる……」
ジークハルトにしがみ付くマリーと、一人で立つシャーロットを見比べ陛下が納得の様子で頷く。
凛とした様子で貴族令嬢に相応しい態度のシャーロットと、平民でもあり得ない態度のマリー。
シャーロットにマリーが嫉妬する部分がまずはないし、羨ましがる必要はどこにもない。
それにジークハルトへの想いなどなかったことが分かった時点で、シャーロットがマリーを敵視する意味もない。
陛下たちはそんな事実を会場中に示し頷いている。
(良かった、やっと世間にシャーロット様の婚約解消が伝わったよ!)
シャーロットや国王、公爵が婚約解消を認めたことで会場中がざわざわと騒ぎ出す。
一体いつ? 何故ジークハルト様は知らなかったの? と皆の中には疑問が湧く。
だが答えは簡単だった。
この夜会、シャーロットは二人の仲のいい姿を見せていても何も口を挟まなかった。
それに二人が学園で楽しい時を過ごしていても、シャーロットは我関せず。
ずっと余裕のある行動を貫いていた。
では殿下の言っていた虐めや殺人未遂とはなんなんだ?
シャーロットが犯人だったのではないか?
口々に疑問を浮かべそれを近場の者と話し合う。
では一体この事件の犯人は誰だ?
もしかして……
と、そんな予想を始めていた。
そんな中、シャーロットとの婚約がとっくに解消されていると知ったジークハルトは茫然自失状態だ。
「シャーロット、何故」と呟いているが、理由は簡単、それはジークハルトの行いのせいだ。
だけどマリーだけは別。
こんな状況でありながら何故か嬉しそうで、自分の願いが叶った! とそう思っているような笑顔だった。
「皆、静まってくれ! これから答え合わせする!」
陛下の一声で会場内は静寂を取り戻す。
これからジークハルトが断罪を行った理由が分かる、聞き逃してはならない、そう思ったようだ。
「ではまず、そこのボロボロになった学用品のことだが……バッカス宰相、この件に関しどう報告を受けている?」
「はい。諜報部からの報告ではそこにある学用品は、マリアンヌ・アレースという名の男爵令嬢が自分自身で壊し汚し、大騒ぎしたと報告を受けております」
「えっ? なんで?!」
「は?」
「ふむ、そうか」
何で知っているの? と驚くマリーと、そんなマリーを見つめ目を見張るジークハルトを無視し、話は進んでいく。
自分で汚した? とジークハルトとその仲間たちだけが驚いているようだが、他の皆は納得だ。
マリーをならやりそうだと思っているようだった。
「ふむ、それで? 階段の方は?」
「はい。シャーロット様が行ったと言われている殺人未遂の方は、ジェイド・ソラリス、その者が犯人でございます」
「……っ!」
「ふむ、ジェイドか……」
陛下に頭を下げたままのジェイドの顔色がどんどん悪くなっていく。
姉に犯行を押し付けたことがバレて動揺しているのか、ガタガタと震えているようにも見えた。
「それで、何故ジェイドがそんな真似を?」
「はい、実はソラリス公爵家の元養子であったジェイドは、そこにいるマリアンヌ・アレースに交際を断られ、その腹いせに階段からマリアンヌ・アレースを突き落とし、その上犯人は姉なのだろう? と皆に問い詰められると、卑怯にもそうだと答えたと報告がございました」
「うむ、なるほど、つまりシャーロットは全く関係ないと?」
「はい、その通りでございます」
「……ジェイドがマリーに、告白だと……?」
ジークハルトやパトリック、アルフレッド、アンドリューがジェイドに視線を送る。
裏切者を見るような冷たい視線を仲間からも受け、ジェイドの顔は白くなるが、「元養子」と呼ばれていることにも動揺しているようだった。
「さて、ジークハルト、ここまで王家の諜報部が調べた結果に対し、何か言いたいことはあるかな?」
優し気な陛下の問いかけ。
けれどそこには愛情は見えず、笑顔も消えている。
ジークハルトの親ではなく、国王として王子に問いかけている。
厳しい顔つきの陛下を見て、ジークハルトは喉を鳴らす。
「……へ、陛下、私は……」
マリーの話だけを聞き、良く調べもしないで自分都合に解釈し、シャーロットを追い込もうとしたジークハルト。
その罪は一般人よりも重く、王子としての品位を疑われる行為。
ジークハルトの答えによって、ジークハルトのこの先が決まる。
それは本人にも分かったようで、甘い覚悟だったジークハルトは言葉が何も出ないようだった。
「あのぉ! どういうことですか? 悪いのはシャーロットさんですよねぇ? なんでジーク様が責められるんですか? 可笑しいでしょう?! 私はこの物語のヒロインで、ジーク様はメインヒーローなのに!」
会場の静けさをぶった切るようにマリーの声が響く。
その声はどう見ても不満気で、彼女だけがまだ今の状況が分かっていないようだった。
おはようございます、夢子です。
何か知らんけど、同じ内容が何か所もコピペされてて修正がメッチャ大変でした!
泣いた、ほんと、泣いた。
身に覚えがなさすぎる。
一体何があったんだ?
猫か?猫様ですか?
うちの子が天才過ぎてコピペしてくれたんですか?!
猫様の気遣いに文句は言えません……涙




