Shall we ダンス?
「卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。本日より本物の紳士、淑女となられた皆様はこれからが社交の本番です。貴族の社会に出れば庶民の見本となる行動を心がけ、失敗も許されないような厳しい時も待っているでしょう。ですがその前に、今宵はこの場で学生としての最後で気軽なひと時を過ごしましょう。さあ、最高の思い出作りのためにまずはパートナーとダンスを、手を取り合いダンスホールにお集まりください」
学園長の軽やかな挨拶のお陰で、ジークハルトたちはシャーロットから意識がそれ、ダンスホールへ向かって行った。
シャーロットの横を通り過ぎる際、ジークハルトは鼻で笑い「フフッ」と馬鹿にしたような笑みを作っていて、本当に王子なのか育ちを疑ってしまう。
マリーもマリーで、エリックのあの決別宣言は彼女の中では無かったことになっているのか、「エリック、またあとでねー」と気軽に声を掛けその上手まで振って来て、耳と目を疑いたくなる始末。
(本当に何なんだあの二人は……)
呆れるエリックのことなど関係なく、軽快な音楽が流れだし、ダンスをするため生徒たちはダンスホールへ向かって行く。
マリーはまず恋人のジークハルトと踊るようで、自分こそが主役だと言うかのようにジークハルトの手を取り会場中央へ進んで行き、ジークハルトと笑顔で向かい合い手を取り合った。
「何故あの二人が?」
「シャーロット様が婚約者でしょう?」
「あんなのいつものことだろう、学園でさんざん見てきた」
「王家もあの令嬢を愛人として受け入れたんじゃないか?」
会場内、二人を見てざわざわと色々な声が広がっていく。
会場中のほとんどが本物の婚約者であるシャーロットの味方のようで、ジークハルトとマリーには厳しい声が多い。
それも当然だ、貴族と貴族の婚姻は家と家との契約と言える。
ジークハルトとシャーロット場合、それは国と国との契約ともいえた。
なので当然シャーロットと婚約中だと思っている周りがジークハルトの行動を認めるはずがない。
こんな勝手が通るのも、ジークハルトの我儘でマリーを愛人にすると王家が認めたからだろうと、そんな勘違いをする者も多いようだった。
何故ならジークハルトの本来の相手であるシャーロットが余裕のある微笑みを浮かべ、ジークハルトとマリーの仲を許容しているからだ。
シャーロット的にはもう婚約も解消したし、どうぞご自由にという考えだろうが、まだ婚約解消が王家から発表されていない状態では、周りが勘違いしてしまうのも仕方がないことだった。
今日の夜会後にはきっと何かしら王城から発表されると思うが、その時は皆「だからだったのか」と納得するはずだ。
「シャーロット様、あの、良かったら僕と踊っていただけますか?」
「ええ、勿論よ、エリック、お相手を宜しくね」
「はい、有難うございます」
ドキドキしながらシャーロットをダンスに誘い、差し出された手を取ると、ジークハルトたちから出来るだけ離れた場所へ向かう。
最初はマリーが「いつか王城の夜会でダンスを踊ってみたいなぁ」と夢見がちな未来を描いたから力を入れ出したダンス。
商家生まれで、男爵家の息子であるエリックには、ダンスの能力などさほど必要ないだろうと思っていたけれど、あまり踊れないであろうマリーをちゃんとエスコート出来るようにしなければと頑張ったおかげで、今シャーロットのダンスパートナーも務めることが出来ている。
「エリックはダンスも上手なのね」
「本当ですか、有難うございます。シャーロット様にそう言ってもらえて嬉しいです」
シャーロットをちゃんとリード出来ているようで、シャーロットに笑顔が浮かぶ。
マリーに合わせてゆっくり踊っているジークハルトたちとは違い、会場内でも人目を引くようなダンスを踊れば、シャーロットも楽しそうに合わせてくれる。
「シャーロット様は流石ですね、ダンスも完璧で凄いです」
「まあ、エリック、有難う。でも褒めても何も出ないわよ」
「フフフ、いいえ、シャーロット様には既に多くの物を頂いておりますから、こうやって夜会のお相手だけでなくダンスのパートナーも務めさせていただけて、それだけで僕は幸せですから」
「もう、エリックったら、今日は少し褒め過ぎよ、なんだか恥ずかしいわ」
「いいえ、想っていたことを素直に口に出しただけです、シャーロット様が素晴らしすぎるんです」
「まあ、ウフフフ」
会場の雰囲気に酔っていないと言えばウソになる。
それよりも今はシャーロットとダンスを踊れて夢心地で、普段だったら遠慮や配慮で言えない言葉も『パートナー』だからということで伝えることが出来て嬉しい。
「シャーロット様、本当に綺麗です」
「まあ、フフフ、有難う。エリック、貴方もとっても素敵よ」
「有難うございます」
シャーロットの美しさが皆にも伝わるように、くるくると回転させ彼女の姿を会場中に見せつける。
勿論パートナーに夢中な者たちは気づかないかもしれないけれど、踊らず見守っている者たちも多くいる中で、大輪の薔薇の花のようなシャーロットは誰よりも輝いていた。
「シャーロット様、もうすぐ曲が終わりますね」
「ええ、残念だけど、終わりのようね」
誰もが知っている、学園でもダンスの授業で使う有名な曲なだけに、エリックにもシャーロットにもダンスの終わりが分かる。
名残惜しい気持ちを隠し、エリックはニヤリと笑いシャーロットに声を掛けた。
「シャーロット様、失礼しますね」
「えっ?」
シャーロットを持ち上げ、二人でくるりと回転をする。
会場中央で大技を繰り出せば、皆の視線が美しいシャーロットに集中する。
(シャーロット様の美しさをみんな見て驚けばいい!)
学園では常に規律を守り、王子の婚約者らしく品行方正に振舞ってきたシャーロット。
だけど今夜はエリックのパートナー。
今夜の夜会が学園生活の中で一番いい想い出。
そう言ってほしくて、笑ってほしくて、楽しんでほしくて、エリックは子供のようにはしゃいでいた。
「アハハハハ、シャーロット様、凄い、合わせてくれた!」
「もう、エリックったら、急に持ち上げるんだもの驚いたわ」
「とっても楽しかったですね、また踊りたいな」
ジャンッ! と曲が終わり、シャーロットとエリックは決めポーズを作った。
今はもう二曲目が始まっていて、本物の婚約者同士は二度目のダンスを踊っている。
シャーロットとエリックは残念ながら友人枠。
まだダンスを踊っていたかったけれど、ここで一度休憩だ。
エリックがはしゃぎ過ぎたのでシャーロットも喉が渇いているだろう。
食べ物のあるエリアに移動し、ドリンクをシャーロットに渡す。
今日は学生イベントということで酒類は提供されておらず、飲み物はジュースだけだ。
だけどダンスを踊った後の二人にはそれがちょうど良く「乾杯」とグラスを鳴らし、同じジュースの味を味わった。
「美味しいわ」
「はい、凄く美味しいですね」
楽し気に微笑むシャーロットは普段よりも少し幼く見えて、ドリンクを美味しいという姿は少女のようで可愛らしい。
「フフフ、こんなに楽しい夜会は初めてよ、エリックってば意外と力があって驚いたわ、私は背が高いし重かったのではなくって?」
「シャーロット様が重いはずがありません、羽のようとは言いませんが、下の弟よりも軽いぐらいでした。それに僕は商家の息子ですからね、意外と力があって当然なんですよ」
「まあ、ウフフフ」
エリックが楽しめば楽しむほど、シャーロットの笑顔も増えていき尚更楽しさが増す。
このままこの幸せな時間がずっと続けばいいのに、とどうしてもそう願ってしまう。
(夜会のパートナーが今夜だけだなんて寂しいな……)
シャーロットの笑顔に見惚れながら、少し感傷に浸っていると後ろから声を掛けられた。
「シャーロット様、先ほどのダンス素敵でしたわ」
「エリザベス様、有難うございます」
「エリック先輩、さっきの技、僕にも教えて下さい、次の夜会でエリザベス様と挑戦してみたいです」
「ああ、メルソン君、勿論だよ」
二曲目を踊り終えたエリザベスとメルソンがエリック達の下へやって来た。
ダンスを終えた二人も楽しそうで、落ち着いて大人びた雰囲気のあるメルソンだったけれど、笑顔を浮かべ興奮している姿は年相応だ。
男爵令息でしかないエリックのことを「先輩」呼びしてくれて、それだけでもメルソンの性格の良さが分かる。
だからだろうか、エリザベスがパトリックよりもメルソンを選んだ理由に頷けた。
「あの方たちは三曲目も踊るようですわね……」
エリザベスの呟きに、自然とダンス会場中央へと視線が向かう。
今もまだジークハルトとマリーは手を取り合ってダンスを踊っていて、三曲続けて踊っているのは彼らだけのようだった。
婚約者でもなく、結婚している仲でもなく、ただの先輩と後輩でしかない二人。
三回連続で同じ相手とダンスを踊っていれば、注目を浴び悪目立ちしてしまう。
会場には呆れた雰囲気が漂い、彼らの非常識を責めているようだった。
「私たちはあちらで休憩しましょうか……」
「そうですね、見ている方が辛いですし」
四人とも同意し、夜会会場にあるソファー席へと移動する。
軽い軽食を皿に乗せ、新しいドリンクも持ち、皆で席へと着けば自然と学園での話が弾む。
「一年生の時は学園内で皆一回は迷子になるんだ、僕は地図を覚えるのが得意なんだけど、それでも最初のうちは迷いそうになったよ」
「確かにそうですわね、学園内は広いですし、私きっと行ったことのない教室があったと思いますわ」
「そうね、学年で使う教室はほぼ決まっていますものねぇ。そういえば私、三年間で食堂も数回しか使っていないかもしれませんわ」
「そうなんですか? じゃあ、父や母に聞いて学園内を前もって把握していた方がよさそうですね」
「メルソン様、宜しければ私もお教えしますわよ」
「本当ですか、エリザベス様、有難うございます」
「そうね、エリザベス様に聞けば間違いないわね。それに父たちの時代とは学園も少し変わっていますもの、詳しいことはエリックに聞くのが一番間違いがないかもしれませんわね」
「ええ、是非是非、僕はこの一年で学園の隅々まで把握しましたからね。ああ、でもメルソン君、僕でよければ入学してから学園内を案内するよ、近道とかも色々知ってるし、学園のことは他の生徒より知識は多いって自信があるんだ」
「わあ、凄く頼もしいです。エリック先輩、是非、宜しくお願いします」
「うん、勿論だよ」
流れる音楽を聴きながら話は弾む。
メルソンは高位貴族子息なのに偉ぶったところもなく、ちょっと下の弟のピートに似ていて、エリックは話しやすかった。
この先学園を卒業しても友人として仲良くしてもらえたら良いなぁとそんなことを考えていると、パン! パン! パン! と手を大きく叩く音が会場中に響き、音楽も鳴りやんだ。
「皆、聞いて欲しい!」
ジークハルトの声が会場中に響き、あれだけ賑わっていた卒業パーティー会場がシーンと静まりかえる。
皆が自分に注目していることを確認すると、ジークハルトは大きな声で話し出した。
「私は今日、この場で一人の悪女を断罪する! その相手の名はシャーロット・ソラリス! 私の婚約者であり、か弱き乙女を虐げ続けた学園一の悪女! 犯罪者でもある!」
ジークハルトの言葉にエリックは驚き口が開く。
何を言っているんだあの人は?
正直言ってそう思ってしまったのも仕方がない。
(シャーロット様が悪女で犯罪者?)
そんなあり得ないことを口にするジークハルトに対し、一瞬で怒りが沸いたエリックだった。
おはようございます、夢子です。
月曜が始まりましたね、私も満員電車に揺られに行ってきます。
エリックが学園内をくまなく把握できたのはマリーに出会わないようにと逃げていたお陰もあります。
ダンスもマリーのお陰で踊れるし……
マリーっていい子かもしれませんね。W




