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【完結】捨てる神あれば拾う神あり~踏み台令息は失恋を得て成長する~  作者: 夢子


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ジークハルトとラインハルト

 ここのところジークハルトの周りは()()()穏やかだった。


 卒業間近だからか、それとも城の側近たちが気を回しているのか、ここ数か月シャーロットとの婚約者同士のお茶会は一度も開催されていない。


 いつもは勝手に予定を組まれ、シャーロットが時間通りに城に足を運び、ジークハルトがわざと遅れてお茶会の会場に向かう、それが当たり前で最も煩わしい()()だった。


 けれどいつからか、ジークハルトの予定にシャーロットの名が記されていることが無くなった。


 それにシャーロットからの小言ばかりの手紙も届くことは無くなり、王妃教育の一環で城へ足を運んだ際、婚約者であるジークハルトへ挨拶をすることも無くなっていた。


 その上有難いことに、ジークハルトを心配する両親(両陛下)から、学園のことやシャーロットのことで注意を受けることも無くなり、今はまるで子供のころのように何も考えず、自分の好きなように行動出来ていて、やっと自由を手に入れられたような嬉しい気持ちになれてもいた。


(ふむ、そういえば試験の結果もあれから何も聞かれていないな……)


 シャーロットとラインハルトが婚約するかもしれないと、そんな話を聞かされたから両親の態度はあからさまに変わったともいえる。


 シャーロットを大事にしろと言われなくなったし、学園での行動も王族らしくしなさいと言われなくなった。


 学園での小テストの成績などは必ず両親に報告されていると思うが、どんな点数であっても両親はシャーロットと比べることも無くなった。

 以前は「シャーロットはこんなに頑張っているんだから、貴方も努力しなさい」と母の方が特に口煩かったが、最近は全くそれもなく不思議なぐらいだ。


 それに、学園内でマリーと堂々と過ごすようになっても、両親から注意されることは無かった。

 きっとシャーロットをどうするのだ? と、他国の王族の血を引くシャーロットを大事にしろと、そんな注意を受けると思っていたが、それは嬉しいほうにあてが外れたともいえる。


(父上も、母上も、学園でのシャーロットの愚行に気付いたのだろうか……? いや、マリーの素晴らしさに両親も気が付いたのかもしれないな……)


 ジークハルトは当然そう考える。

 マリーのように可愛らしい女性ならば両親が気に入るのも当然。


 だからこそシャーロットの顔を最近城では見ないのだろうと、そんな考えに行きついた。


 常に自分の都合よく物事を判断する癖があるジークハルトは、両親が自分を見限ったなど考えつかない。

 いつも甘やかされ、何でも一番に与えられていたジークハルトは、自分自身を特別な存在だとそう考える。だから答えが目の前にあるのに正解には行きつかない。どんなに疑問を浮かべても、正しく判断できないと言える。


 ジークハルトの中では、常に悪いのはシャーロットであり、シャーロットの行動や態度の悪さや、ジークハルトを敬うことが出来ない口五月蠅さに両親もやっと気づいてくれた、そう行きつくだけだった。


「ハハハッ、シャーロットめ、いい気味だ。きっと今頃惨めな思いで涙を流しているのだろうな……ハハハッ、これではラインハルトとの婚約も難しいだろう、公爵令嬢も落ちたものだ……」


 シャーロットが笑いものにされる姿を思い描き、ジークハルトは独りほくそ笑む。

 幼いころから常に比較されジークハルトの前で増長していたシャーロットには良い薬になるだろう。


 ジークハルトの計画では、間もなくシャーロットの罪はジークハルトの手によって暴露される。

 そうなった場合、シャーロットの次の婚約が整うのは難しいだろうし、貴族として生きていくのならばジークハルトとマリーに膝をつき謝るしかないだろう。


 それが出来なければソラリス家の領地に送られ、一生公の場に出ることも叶わず、寂しい人生を送る可能性しか残っていない。


「ふん、私やマリーに行ってきた数々の仕打ちを思えば当然のことだ……」


 ジークハルトは幼いころからずっと、横に立つシャーロットと比べられてきた。

 それは自分の力ではどうにもならない()()()のことから始まり。

 学業の成績や公務での様子、その上生活態度など、至るところで「シャーロット様ならば」と言われ続けてきて、嫌な記憶しかない。


 その上最近では、ジークハルトが溺愛するマリーに対し、シャーロットは陰湿な嫌がらせを行うようになった。

 教科書やノートなどが破られたことはまだ可愛い悪戯だ。

 だが制服を汚したり、学園中にマリーの悪い噂を流したりは見逃せない。

 その上この前は弟のジェイドを脅しマリーの命まで取ろうとした。


 流石にそれを見逃せるはずがない。

 今は友人たち皆と証拠を集め、シャーロットを追い込むための準備を進めているところだ。

 証人もいる、絶対に言い逃れなどさせるものか。


「ふんっ、シャーロット、大きな顔をしていられるのも今のうちだぞ」


 ジークハルトは卒業パーティーでシャーロットをパートナーとするつもりはない。

 このままなんの連絡もせず、パーティー当日も馬車で迎えなど行かず無視をする予定だ。


 婚約者向けの予算ではシャーロットにではなく、マリーへのドレスを作り、マリーへ装飾品もプレゼントした。


 きっとシャーロットはジークハルトから贈られてくるはずのドレスを首を長くして待っていることだろう。


 けれど卒業式当日になってやっとドレスが届かないことに気付き、慌てて取り繕ったドレスで卒業パーティーに出ることになれば、シャーロットだって人を貶めることの重大さを学ぶはずだ。


 これまで豪華なドレスで着飾り、自慢してきたシャーロットが既製品のドレスで我慢を強いられる。

 マリーへの嫌がらせを思えば、これぐらいで済ませてやろうとしているジークハルトの優しさに感謝しろと言いたいぐらいだったが、シャーロットの性格を考えればそれは難しいかもしれない。


 それに問題なのは、ソラリス公爵家だ。

 この国の重要な家であるソラリス公爵が後から文句を言ってくる可能性は高い。


 だがシャーロットが起こした事件を伝えればその文句も言えないはずだ。

 最悪、娘の出来の悪さに爵位をジェイドに譲り、そのまま隠居してしまう可能性もあるだろう。


「そうなった場合は夫人との離婚を認め、公爵夫人は本人の希望で国に戻る許可を出してもいいだろうなぁ」


 元王女であるソラリス公爵夫人と公爵は、政略結婚だ。

 夫に深い愛情がある訳ではないだろうし、シャーロットの件が公になってしまえば恥ずかしくてこの国にはいられない、そう考える可能性は高いだろう。


 その場合、本人の望み通りの帰郷を叶えてやれば国家間の問題は丸く収まる。

 シャーロットの籍は公爵家から抜き、最初からいなかったものとして扱えば離婚をしても何の問題もないだろう。


「ハハハッ、我ながら素晴らしい案だな……」


 ジークハルトはどこまで行っても自分の考えが正しいと思い込み、必ず上手くいくと酔っていた。

 他人に話せば稚拙な考えで合っても、注意するものなど誰もいない今、ジークハルトは人生最大の愚行に突っ走ろうとしていた。







「兄上、今宜しいでしょうか?」


「ラインハルトか? ああ、良いぞ、入って来い」


「はい、失礼致します」


 三歳年下の弟、ラインハルトがジークハルトの元を訪ねてきた。

 ジークハルトが学園を卒業後、すぐに貴族学園への入学を迎えるラインハルトは、ここのところ背もぐんと伸びジークハルトに負けないほどの体躯を持つようになってきた。


 そして最近では、卒業前で忙しいジークハルトの公務の手伝いも進んでするようになり、頼もしさも見せるようになってきて、未来の自分の立場を分かって来たのだろうと察していた。


 きっとこのまま成長すればジークハルトが国王になった暁には、ラインハルトは良き相談相手になってくれるだろう。

 兄思いの可愛い弟を前に、ジークハルトの顔も綻んだ。


(父上と母上は、私とシャーロットが婚約を解消したらラインハルトにシャーロットを嫁がせようとしているようだが、あの女にラインハルトは勿体ないな……ラインハルトが嫌がるようならシャーロットは他の者に嫁がせるべきだろう。まあそれもシャーロットがちゃんと罪を認めマリーに謝罪出来たらの話だがな……)


 勝手な想像をしながら、ジークハルトはラインハルトに席を進める。

 自分が王になる未来は安泰だし、ラインハルトが自分の力になるのも当たり前だと、ジークハルトは信じて疑わない。


(ラインハルトは昔から私に似て勤勉で真面目だからな……)


 自分を過大評価するジークハルトは、ラインハルトが幼いころから努力家のシャーロットを尊敬し、怠け癖のあるジークハルトに失望しているなど想像もしない。


 ラインハルトはいつだってシャーロットの努力を認め、その婚約者である兄が自堕落な性格でも呆れを隠し笑顔でジークハルトを立ててきたのだが、それも自分都合に受け止めていた。


 ただそれはラインハルトが兄の短気な部分を良く知っているだけに、正面からジークハルトの相手などして面倒ごとになるのを避けていただけでもある。


 この人には何を言っても無駄。


 幼いころからジークハルトの身勝手さを見ていて(これが本当に自分の兄なのか……)と、ラインハルトが落胆していたともいえた。

 

 だが、遂に両親はそんなジークハルトを切り、ラインハルトに未来を託した。

 シャーロットと上手くやれない時点で、ジークハルトには王になる資格はない。


 シャーロットとの結婚の重要性に気付かず、彼女を大切に出来なかったジークハルトにはこの国を任せることなど出来ないと、両親はやっとジークハルトを切り捨てる決断をしたようだ。


 まあ、ラインハルトからすると「遅すぎる!」と言いたくもなるがそこは仕方がない。

 ジークハルトを切り捨てると言うことは、シャーロットとの結びつきが無くなると言うこと。


 父と母が中々ジークハルトを切ることが出来なかった理由は、親の愛情云々よりも、シャーロットという宝を失いたくなかったからだろう。


「兄上、卒業前で()()()()ところをお邪魔して申し訳ありません、実はこの書類にサインを頂きたいのですが」


「ああ、サインか、任せておけ」


「はい、宜しくお願い致します」


 ジークハルトの仕事の半分はもうラインハルトが担っている。

 なので()()()()はずはないのだが、あえてその言葉を使ってみた。だが愚かなジークハルトは軽い嫌みにも気づかないようだ。


(これまではシャーロット様が傍で対応してくれたから何とかなったけれど、兄上だけでは一般貴族として生きていくのも難しいだろうなぁ……)


 それにしても、ラインハルトが自分の仕事を肩代わりしていることに対し、ジークハルトは多少は感謝をしていても、危機感も疑問も何も感じていないようだ。


 当然、渡した書類の中身も確認することなく、ただサインをするのみ。

 別に怪しい書類ではないが、ジークハルトの警戒心の無さには流石にため息が出てしまう。


 これでは一般貴族どころか、平民になっても簡単に騙されてしまいそうで、シャーロットのこれまでの大変さを思うと弟として申し訳なさを感じてもいた。


「これで良いか?」


「はい、問題ありません。兄上、()()()()ところ有難うございました」


「いや、気にするな、いつでも私を頼って来い。私はお前の兄なのだからな」


「はい、そうさせて戴きます。兄上、有難うございました」


 ラインハルトは笑顔で書類を受け取った。

 一応忙しいだろうと再度嫌みをぶつけてみたが、全く気が付かないジークハルトには笑いしか出ない。


 シャーロットがジークハルトを見限るのも当然。

 父や母がジークハルトを切り捨てるのも当然。


 とても国政を担うべき王族とは思えない行動ばかりするジークハルト。

 これが未来の王になる予定だったのかと思うと、ある意味ホッとするラインハルトだった。


「では、兄上、失礼致します」


「ああ、ラインハルト、しっかり頑張れよ」


「はい、頑張ります」






 


「ええ、未来の王になるためにしっかり頑張らせていただきますよ、兄上……」


 ジークハルトの部屋を出て、ラインハルトは小さく呟く。

 王族でありながら大した仕事もせず、自分の女のためにだけ知恵を絞ろうとする兄には絶対にこの国を任せられない。


 この先ラインハルトが正式に王太子となれば、第一王子であるジークハルトは邪魔にしかならない。

 その場合、ジークハルトはこの国を出されるか、子を作らない条件でこの国に残るか、どちらかの選択を迫られる時が来るだろうが、王族に生まれたものとして同情はしない。


 何故ならば、そうなるように行動したのはジークハルト本人。

 これはジークハルトが努力を怠った結果でしかない。


「せめてシャーロット様を大切にしていたらね……」


 何を言っても今更だろう。

 シャーロットの心はとっくに兄から離れている。


 兄は可笑しな女に現を抜かす時間があるのならば、もっと自分を磨くべきだった。

 まだ十歳を過ぎたばかりの下の弟の方がよっぽど王族らしいと言える。


(まあ、それが出来ない兄だからこそ、こんな状況に陥っていてもなお気づかないのだろうが……)


「兄上、この国のことは私に任せてどうぞお幸せに……」


 ラインハルトはこの国の為、兄を押し退け、国王になる覚悟を決めたのだった。

  

兄ジークハルトのダメさ加減を見てきたため、下二人の王子は勤勉で真面目です。

その上シャーロットを大事にしない兄を見ていたので、自分たちは婚約者を大事にしようとそう心に誓ってもいます。

また両親に心配ばかりかける兄を見ていたので、自分たちだけでも両親を安心させてあげたいとそうも思っています。

ある意味ジークハルトは良い先生ですね。w

ちなみに第三王子はレオンハルトです。

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