05:遺屍
降り注ぐ髑髏は時折僕の肩なら頭やらにコツン、と音を立てては黒い床へと二、三回転がり、静止していった。
僕は震える足を往なして——立ち上がった。
何気なく後ろを振り返ると、ぞっとした。数十ほどの頭蓋骨が忽然と山を成していたのだ。それらは明らかに「降ってきた」様子はなかった。程なくして一つの考えが僕の頭を掠めた。
突飛な推論で、信憑性は皆無に近いが、「状況」にのみ際していうと、合致している。
つまり、僕に纏わり付いていた三角形、いや、全ての三角形、詰まる所「球」が髑髏と化したのかもしれないと察したのだ。
では、あの「三角形」は何であったのだろう。最初は色とりどりで、次いで色が抜け白くなり、最後は「球」から骸骨となった。
考え事をしながら辺りを見渡していると、数学の教科書でお馴染みの直方体を具現化した様な建物があった。この建物は先程からあったのだろうか、将又なかったのだろうか。それとも状況に飲まれ、気付く余地すら無かったのだろうか。それは神のみぞ知ることであった。
真っ黒な床、真っ黒な青天井、無機質な空間である。直方体と骸骨を除くと、一切の物質が無く、開放的な暗闇がだだっ広げであった。
僕は「する事」が無く、「すべき事」も無く、状況を把握する術すら持ち合わせていないので、取り敢えずその建物に近づくことにした。
足が重い。一歩歩く毎に右へ左へふらっとふらつく。数時間落下し続けた人間の足はこうなるらしい。
建物まで七、八歩のところまで近づいた。見れば見るほどその建物は奇妙であった。
まず、建物自体が真っ黒だった。暗さのためにそう見えるのかと思っていたが、そうではなかったのだ。そして、その建物にはドアが無かった。縦二メートル、横一メートルほどの又もや数学の教科書からやってきた様な長方形の穴が開いていた。
建物の中に入った。真っ暗であったが、突然パチッ、と明かりがついた。その建物は一部屋しかなく、窓は一つも無く、僕の入ってきた長方形の入り口だけがぽっかりと空しく開いていた。部屋の大きさはと言うと、幅五メートル、奥行き十メートル、高さは三メートル程であった。そして、その天井の中央に、小さな白い電球が優しい光で瞬いていた。
久々に明るい光を見た僕は、軽く立ち眩みしながら部屋の中央へと向かった。
部屋の中央には、一メートル四方の角張った台座があった。僕は思わず二度見した。その台座に掛かっていたのは、紛れもなく一丁の拳銃であった。
テレビや映画の中でしか見たことのない「銃」が電球に照らされ、黒光りしていた。その圧倒的な存在は威圧感を放っていた。僕は思わず立ち竦み、腰を抜かしそうになった。
深く深呼吸し、気分を落ち着かせると暫しの好奇心と恐怖心の拮抗の末、僅かに勝った好奇心が僕を拳銃へと歩ませた。
改めて近くでよく見てみると、立派な拳銃であった。詳しくないので、とても種類の識別はできないが、片手サイズのその銃が穴の開いた円柱状の弾倉を備えていることから、リボルバー式の銃であるということは容易に推測できた。
僕はもう銃を目前に控えているが、これといってどうしようとも思わなかった。既に非日常の連続であるが、この非日常的な「凶器」に手を伸ばそうとは思えなかったのだ。
張り裂けんばかりの爆発音と、唸る様な地響きが、突然僕の聴覚を襲った。爆風の余波は「建物」の中にまで到達したらしく、僕は衝撃のあまり仰け反り尻もちをついた。
外でいったい何が起こっているのだろう。相変わらず、雷鳴の如き爆音が外で断続的に轟き、そして少し遅れて体をもっていかれるほどの地響きが体を襲ってくる。
思考回路が儘ならぬまま、意識を漂わせていると——ドォォンと先程までとは比べ物にならない、一際大きな爆音が僕の鼓膜を破らんとばかりに鳴り響いた。どうやら「建物」に砲弾か何かが被弾したらしい。心なしか「建物」全体がミシミシと今にも崩れそうな音を立てている。
本能的に——ここにいては危ない。そう感じた。
と、正にその時、再び大きな爆発音が響いた。今度は「建物」が半壊した。殆ど同時に、僕の体はその瓦礫の反対側へと投げ出された。
無数の擦り傷が疼く中、僕は意識を確かにし、立ち上がった。このまま「建物」の瓦礫の下敷きになる訳にはいかない。僕は突発的に——殆ど無意識に——拳銃を台座から掴み取り、空然と開いた長方形から外へと飛び出した。




