チカラ
目の前に王宮の中でも特に歴史と格式を感じさせる扉が現れ、扉の向こうからは強力な七人分の系圧を感じ、レイアは周囲を警戒しながらエルフィスが導くままに扉を開けた。
部屋に入ると、一際煌びやかな衣装に身を包んだ女性を中心にして十人もの
系圧者達が傍に控えていた。
しかし、レイアの目を最も引いたのは
女王の最も近くに座っていた少女だった。
「ああぁぁぁ!!」
覚えのある絶叫を耳にしてレイアは確信した。
その姿は先程の物とは比べようもないほどの輝きを放っており、見た目だけでは、同じ人間だと分からなかったかもしれない。
「11か…」
レイアが無意識のうちにそう呟いた。
扉の外から感じた系圧は確かに七人だった。しかし、今、この部屋に居るのは自分とそのすぐ後ろにいるエルフィスを除いて11人…
レイアが感じる事が出来ないほどの微量の系圧しか有していない者が混ざっているのか…それとも、系圧を極限まで抑え、感じ取らせないようにしていたのだろうか。
「遅い。」
玉座に座る女性が怒鳴りつけた。
そして、その瞬間この女性の系圧はこの部屋の誰よりも圧倒的なものに膨れ上がった。
「申し訳ありません陛下。」
部屋の後方にいたエルフィスが膝をついた。
「私が彼と簡単なゲームをしておりまして…」
少し笑みをこぼしながら、弁解をしていた。
「お前のくだらんゲームで、私を待たせたという事か?」
「申し訳ありません。」
王であるが故の絶対的で、高圧的な態度でエルフィスを睨んだ。
そのような、やりとりが目の前で行なわれているというのに、レイアはこの部屋の人間…いや怪物達を一度に相手にしたら、自分は勝てるだろうかという事を真剣に考えていた。
「その様な考えは持たぬ方がよいぞ。」
レイアは心臓が凍ったかのような冷たさを感じた。
声の主を探すと、白い顎髭を胸の辺りまで伸ばし杖で体を支えていた老人が目に入った。
系圧は全くといっていい程感じない、おそらくレイアが見逃した人間のうちの一人であろう。
「へぇーそんな事考えてたんだ?」
女王が比較的柔らかな声を発した。
「いえ、……」
嘘をついた……
「うーん…エルフィス、そのゲームの続きやってもいいよ?」
「陛下のご命令とあらば仕方ありませんね。」
不気味な微笑みを浮かべながら髪の色と同じ美しい長剣を発生させレイアに向けて構えた。
「ホントは嬉しいくせに。」
女王が目をつぶったまま呟いた。
レイアもその場の流れを変えるすべをを持たなかったので、同じく手の平から短い刃物を発生させた。
「レイア・リンズベル、それは果物ナイフだと思うのですが?それで、私と戦えると思ってるのですか?私は強いですよ?」
「だからです。あなたがある程度強い事は知っています。
だから、上手く手加減出来ないかもしれない。これなら死ぬことはないでしょうし。」
やる気というものが全く感じられない声で淡々と答えた。
「クッ…行きますよ。」
そう言うと、先程よりも素早くレイアの後ろに周りこんだ。
レイアは振り向く事なく、エルフィスの斬撃を背中で受けた。
「…………」
赤色の血が地面にこぼれた…
一瞬の事だった。
「ふーやっぱり、ギリギリくんじゃ無理だったかな〜。」
「その呼び方はお辞め頂きたいのですが。」
白銀の髪を赤に染めながら言った。
「なんで二人もいるの?」
立ち並ぶ者の中で異彩を放つモナが口を開いた。
エルフィスの剣に腹を貫かれたレイア…そして、エルフィスの後ろから例の短剣でエルフィスの背中を刺しているもう一人のレイア…
その光景を理解する事は幼い少女にとっては困難な事だった。
レイアはエルフィスの背中に刺さった短剣と目の前で刺されている自分を消失させ、モナの方向に足を向けた。
「系圧は空気、気配、物質など、それに、時には人の心までも操る力です。
これらを、適切な系量、方向、種類を操る事で残像をもう一人の自分だと思わせる事も出来るんです。」
「じゃどうやって後ろに周りこんだの?」
「この人の横を通って移動しただけです。あなたも経験した事があると思いますよ。」
モナは自分の隣に立っている男を見た。
「クロフィス…」
モナがその男の名を呟いた.
「……貴様どこでそれを身につけた?」
クロフィスが鋭い目をレイアにぶつけた。
「さっき、あなたのを見ましたから。」
当たり前のように答える少年に女王が笑い声を上げた。
その声はなかなか収まる事なく、人々の視線を一手に集めていた。
「いやー面白いね君は、それはクロフィスが十年かけて会得した技だっていうのにさっき見ましたって
あゃひゃひゃひゃひゃうひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。」
「陛下、その様な下品な笑い方はお辞め下さい。」
モナとは反対側に控えていた女性が呆れたような声で忠告した。
「はいはい、ごめんね~下品な王で、それで、ギリギリくんは
いつまでそこにお寝んねしてるつもりかしら?」
目線を先程よりも勢いよく流れ出る血を面倒くさそうに抑えていた、エルフィスを見た。
傷が浅かった為にそれ程のダメージを負っている訳ではなかったが、目の前にいる自分よりも頭ひとつ小さい少年に圧倒的な差を目せつけられた事に苛立ちを感じていた。
「あの…」
エルフィスが震える声で言った。
「どうして、私はギリギリくんなんでしょうか?」
「自分の印を見てみたら分かるんじゃない?
あ、でもアンタは鏡使わないと見れないか。ナンバー、一桁ギリギリの九だからよ。」
「そう言う事でしたか、すぐに一まで辿りついて見せますよ。」
そう言うと、クロフィスの腕に刻まれている「一」の印を睨んだ。
エルフィスが治療の為に部屋を出て行ってからレイアは女王アリアス・ノルトールのすぐそばまで近づいて膝まずいて、昨日妹と練習をした、挨拶を述べようとした。
「女王陛下におかれましては……」
「そういうのいいからやんなくて。」
アリアスが面倒いと言わんがばかりの顔をしていた。
そして、アリアスが細長い指先をレイアに向けた瞬間、レイアの左腕に紫の印が発生し、「一」という文字が浮かびあがった。
「これは?」
レイアが当然の疑問を口にした。
「あなたにナンバーをあげる。まぁ一番が二人になっちゃったのはしょうがないって事で。
レイア・リンズベルお前を今から我の剣とする。」
そう、高々と宣言したアリアスは満足したかのように玉座を立ち部屋を出て行こうとした。
他の者も主に従う様に後を追った。
「あっ!」
「レイアちなみに一番は王家の、後継者、つまりその子の世話係でも、あるからね!」
アリアスはそう告げると部屋の外に出て行ってしまった。




