宿命
重そうな扉が閉まる音が部屋中に響き渡りその空間を支配していた。
今まで莫大や量の系圧が一箇所に集中していた為に気づかなかったが、その圧倒的な存在が消えた事でこの部屋の大きさだけが際立ち、その巨大な空間に2人だけが取り残された。
「王族でいらっしゃったのですねモナ様」
「敬語はなしにしませんか?お互い。あと私、名前ホントはモナじゃなくてクレア・ノルトールです。嘘ついてごめんなさい」
レイアは街で少女に何気なく名前を聞いた時の事を思い出した。
あの時、クレアはレイアからの問いに
一瞬考えるという行為をしたのだ。
よく考えれば、自分の名を考えて答えるとはおかしいと気づいてもいいはずなのだが、レイアはその時その場の空気を変える事に必死だった為に微妙な違和感を感じ取れなかったのである。
「そうだったんだ……」
王族に対してため口で話す事への躊躇いを押し殺し次期国王の命にしたがった。
クレアは満足げに腕を組んで久しぶりに接する同世代の人間とのやり取りを楽しんでいる様だった。
レイアはクレアに深々と頭を下げてから巨大空間からの脱出を試みようとした。しかし、当然のように上手くはいかなかった。
「え、どこいくの?」
「用事は済んだようですし、あまり遅くなっては妹が心配しますから」
「そっか、しょうがないね…」
クレアの落胆の表情を隠そうと必死に笑顔を保とうとしている様だった。
「ちょっとお待ち頂けますかな?レイア・リンズベル殿」
声の主は先ほど部屋を出て行ったはずの老人だった。
(その様な考えは持たぬ方がよいぞ)
レイアは完璧に自身の心の動きを捉えたその言葉を思い出した。
「爺、どうかしたの?」
「ちと、そこの彼に用がありましてな、それにしてもクレア様がそれ程楽しくお話になっている所を久しく見ておりませなんだ。良い事でございます」
ゆったりと2人に近づき、そしてレイアの前まで移動して腕に刻まれた印を目を細めながら観察していた。
「リンズベル殿、呪印者……今はナンバーなどと呼ばれておりますがそれの
扱いについて説明せねばなりません。
しかし、あなたの印は他の者達のそれとは違うのです。」
難しそうな表情で話しを続ける老人を
真剣に見つめているレイアとは対象的につまらなそうな態度をあからさまに表していた。
呪印者…
それは、この国が始まって以来の存在。認められた力を持つものだけが刻まれる印を受けたものである。
その印の数字は単純に呪印者の力量を数字化したものであり、通常はそれぞれの数字に1人の系圧者なのだが、ごく稀に2人になる事もある。
「1」の印はその国の最高戦力である事を意味しており、他のどの印よりも大きな力を呪印者に与える。
「1」を与えられた呪印者同士が戦えば一国が滅びるとされている。
「その歳にして印それも、「1」を与えられたと言う事の意味を理解してくださいましたかな?」
胸元からかすかに見える「6」の文字が見え隠れしていた。
「そして、もう一つ……呪印者は圧倒的な力を与えられる変わりに王家に忠誠を違う事と……」
「…………………………………………
…………………………………………」
「家族との関わりを断つこと」
レイアは目の前の物体から発せれた言葉を言葉として受け取ることが出来ず、単なる音の波が体中を通り抜けていくような感覚に襲われ、視界を失った。
ゆっくりと目を開けると豪華と言う言葉では形容しきれない程の色とりどりの飾り付けがされている天井があった。
「大丈夫?」
聞き慣れない声だったが、その顔には確かな覚えがあった。
「大丈夫。」
また、嘘をついてしまった。
しかし、先に起きた出来事に比べればレイアにとって大抵の事はどうでもよかった。
「家族との関わりを断つこと……」
死刑宣告の様に感じられた言葉を小さく呟やき、その目からは栄気が失せていた。
「呪印者は圧倒的なチカラを持つが故に弱みを持ってはいけない。
それが昔からの決まりらしいの……」
「ならば、辞退します」
「ごめんなさい……あなたのその左腕の印は二度と消える事はないの…ごめんなさい……」
ボロボロと涙を流し続けるクレアの顔はただの幼い少女なのだと言う事を表していた。
「おそらく、もうすでにあなたの家族は記憶を消されて何も覚えてはいないわ……そして、印を刻まれた者は二度と家族とは近づけない様になっているの……」
「…………」
「失礼します」
そう言うと、レイアは近くに置いてあったコートを羽織り部屋から姿を消した。
広い、ただ広く何もない部屋の奥に一つだけぽつりと置かれている椅子に腰掛けているアリアスは眠る様に目を閉じていた。
「陛下、お話があります。よろしいでしょうか?」
「妹さんの事かしら、残念だけどもうおわったわよ」
「はい……私はここにはいられません
この国を出て行くことをお許し下さい。そうしないと、陛下を殺してしまいそうだ……」
「好きにしなさい。もうお前は私の物、必ず私の元に帰って来ることになるわ」




