【第9話】木漏れ日のクックドゥ、麻婆ウルフの衝撃
第9話!あの大手企業さんのみんな大好きなあの...
【第9話】木漏れ日のクックドゥ、麻婆ウルフの衝撃
ウルフ討伐の翌日、俺とシルフィは街の喧騒を離れ、街道から少し外れた静かな丘の上の木陰にいた。
今日は依頼を受けず、のんびりと過ごす休日だ。頭上では広大な異世界の木々が葉を揺らし、木漏れ日が優しく芝生を斑に染めている。
「……タカシ、まだか? 太陽はもう、真上を通り過ぎてしまったぞ」
シルフィが、敷物代わりのブルーシートの上で、体育座りをしながらじっと俺の手元を凝視している。真面目な顔をして凛とした佇まいを維持しようとしているが、その琥珀色の瞳は期待で潤み、小さくゴクリと喉が鳴る音がこちらの耳にまで届いていた。
「お待たせしました。今日の昼飯は、昨日キープしておいた『フォレストウルフのロース肉』を使います。そして、レベル3で新しく追加された、俺の世界の『本格中華の食品』の出番です」
俺は半透明の画面を操作し、燦然と輝く赤いロゴマークをタップした。
* 味の素(AJINOMOTO) Cook Do 麻婆豆腐用(中辛):220円
* タカシの故郷の丸大豆豆腐(3個パック):150円
* サトウ食品 サトウのごはん(新潟県産コシヒカリ):150円
* 【合計:520円】
ピロン♪ とお馴染みの決済音が静かな丘に響き、頭上の空間からいつもの茶色い段ボール箱がポロンとブルーシートの上に落ちてきた。
箱を開けて取り出したのは、お馴染みの赤とゴールドを基調としたパッケージ――味の素の『Cook Do 麻婆豆腐用』。そして、冷んやりとみずみずしい白い『豆腐』のパックだ。
「タ、タカシ……。その、真っ赤な箱に描かれた、ドロリとした赤い汁に溺れる白い立方体の群れは一体……? それに、その冷たくて柔らかい白い塊(豆腐)は、触ると崩れてしまいそうだが」
「これはトーフといって、大豆から作った栄養満点の食材です。そしてこの箱は『クックドゥ』。これ一つで、俺の世界のプロの料理人が作ったような絶品の中華ソースが味わえる、魔法の合わせ調味料ですよ」
ソロキャンプ用のミニクッカーをカセットコンロにセットし、カチッと点火する。
まずは、フォレストウルフのロース肉を包丁で細かく叩き、贅沢な「自家製ひき肉」に仕上げていく。ウルフの肉は赤身が強く引き締まっているため、叩くほどに肉の弾力と濃厚な赤身の香りが引き立つ。
熱したクッカーにウルフのひき肉を投入。
ジ、ジュワァァァァーーーッ! と、肉の脂がアルミの肌で弾ける心地よい重低音が響き渡る。肉の色が完璧な褐色に変わったところで、いよいよ本番だ。
俺は味の素の『Cook Do 麻婆豆腐用』のレトルトパウチを破り、クッカーへ一気に絞り出した。
ドロリ……トポトポトポ。
その瞬間、丘の上の空気が一変した。
熟成された豆板醤の奥深い辛み、甜面醤の濃厚なコクと甘み、そして豆鼓の芳醇な発酵の香りが、熱せられてブワアアアッ!と爆発的に広がったのだ。
「くっ……!? な、何だこの、鼻の奥をツンと刺すような、それでいて猛烈に食欲をそそる芳しさは……! 昨日の塩コショウとはまた違う、まるで燃え盛る炎のような熱気を感じる匂いだ!」
シルフィがブルーシートの上で、思わず膝立ちになってクッカーを覗き込んでくる。琥珀色の瞳は完全にランランと輝き、お腹からは「グゥゥゥ」と、今日一番の大きな音が鳴り響いていた。
そこに、さいの目に切ったみずみずしい豆腐を投入。崩さないように優しく揺らしながら、赤褐色の麻婆ソースを豆腐の芯までじっくりと絡めていく。仕上げに、市場で買った異世界の細ネギを散らせば完成だ。
ホカホカに温めたサトウのごはんの上に、出来立ての麻婆豆腐をたっぷりと、地滑りのように豪快に盛り付ける。
「お待たせしました。味の素の技術の結晶、『麻婆ウルフ丼』です!」
「う、美しい……。この赤と白と緑のコントラスト……! いただきます!」
シルフィはスプーンを握りしめ、熱々の麻婆豆腐をご飯ごと豪快にすくい上げ、大きな口を開けてハグッ!と頬張った。
「ッハフ、ハフッ、……もぐ、……う、うぅんっ!? eyelids」
一口食べた瞬間、シルフィの身体がビクンと跳ね上がった。あまりの旨さと熱さに、綺麗な顔をこれでもかと歪ませ、涙目になりながらスプーンを口に運び続けている。
「ひ、火を噴くような辛さなのに……手が止まらない……っ! 噛んだ瞬間、ウルフの肉の力強い旨味と、この『トーフ』という絹のように滑らかな食材が口の中でとろけていく……! そして、この濃厚な赤褐色のソースのコクが、白いご飯の甘みを限界まで引き立てて……旨い、旨すぎるぞタカシ……っ!」
「クックドゥの麻婆は、本場の中華の調味料を絶妙なバランスで配合してるんです。異世界のワイルドな肉と合わせると、さらに深みが出るでしょう?」
「ああっ、辛い、しかし止まらん! 口の中が熱いのに、次の一口を身体が狂ったように求めてしまう……! 私はもう、お前の作るこの『くっくどぅ』のない昼下がりなど想像もしたくない……んぐっ、はふぅ……至高、まさに天上の味だ……!」
シルフィはツンデレなプライドを綺麗さっぱり忘れて、口元に赤い麻婆のタレをちょっぴりつけながら、一心不乱に丼をかき込み続けた。「別に私はお腹が減っていたわけではなく、これは冒険者としての……んぐ、うまい、うまいぃ……」と、必死に小さく呟くものの、手元のスプーンは神速の如き速さで動いていた。
その時、俺たちの前に、ひときわ鮮やかな深紅のウィンドウが出現した。
【ログ:現代極上中華ソース×異世界野生肉の烈火シナジーが発動しました】
* メニュー:『麻婆ウルフ丼(味の素 Cook Do仕立て)』
* 付与バフ:【火属性魔法攻撃力+50%】【熱耐性(大:火炎魔法をほぼ無効化)】【闘気覚醒(攻撃時に周囲の敵を怯ませる威圧を放つ)】
* 効果時間:4時間
「うわ、今度は火属性特化と、周囲を怯ませる闘気のバフだ!」
シルフィの身体から、まるでメラメラと燃え盛る炎のような、圧倒的な赤いオーラが立ち上る。クックドゥの本格的な辛みと旨味が、彼女の秘められた戦闘力を『烈火』の如く呼び覚ましたのだ。
「ふ、ふん……。今の私なら、火を吹く上位の竜が相手だろうと、その炎を涼しい顔で受け流し、一刀両断にして肉の塊にして見せよう。……すべては、この『あじのもと』のクックドゥという、恐るべき魔法の箱のおかげだな」
シルフィは真っ赤になった顔のまま、フハハと不敵に笑った。口元にタレがついているのが最高に締まらないが、放つオーラは魔王軍の幹部クラスだ。
俺も自分の分の麻婆丼を口に運ぶ。ガツンとくる本格派の辛さと豆腐のまろやかさ、そしてウルフ肉の旨味が完璧に絡み合い、木漏れ日の下、これ以上ない最高に贅沢で刺激的な昼飯の時間が過ぎてしていくのだった。
(第10話へ続く)
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