【第7話】初めてのクエストと、味の素の奇跡
第7話です!あの伝説の調味料が...
【第7話】初めてのクエストと、味の素の奇跡
「ではタカシ、私たちの初仕事、Fランク依頼『キノコ採取とウルフの警戒任務』を開始する!」
シルフィは朝食の『極厚ハムカツサンド』による【移動速度+25%】のバフで、文字通り風のような軽やかさで街道を歩いていた。
今回受けたクエストは、街の近郊にある『始まりの森』での薬用キノコ採取。Fランクの定番だが、稀に狂暴な野生の犬型の魔物『フォレストウルフ』が出るため、Cランクのシルフィが護衛につくことで安全を確保する算段だ。
「よし、森に入った。タカシ、私の後ろから絶対に離れるなよ」
「了解です。……あ、シルフィさん。あそこに生えてる白くて大きいキノコって食べられますか?」
「お、お前は本当に食べ物のことばかりだな……。いや、あれは『ホーンマッシュ』といって、味は淡白でスカスカだが毒はない。ただ、誰も好んで食わんぞ?」
誰も好んで食わない。その言葉を聞いた瞬間、料理人としての俺の血が騒いだ。
スカスカで淡白ということは、逆に言えば「現代の旨味」を吸わせれば大化けするということだ。俺はシルフィにキノコをいくつか採取してもらいつつ、お昼休みの休憩地点となる見晴らしの良い岩場へと向かった。
気づけばもうお昼時。ハムカツサンドのバフが切れる頃、俺たちはお腹を空かせて岩場に腰掛けた。
「タカシ、お昼はまたあの白いパンか? それともショウユか?」
「今回は、ずっと使ってなかった俺の世界で誰もが知っている、あの『企業』の食品と調味料を使います」
俺はここで、軍資金(残高)をしっかり使ってネットスーパーのレベルを上げるべく、画面を開いた。
* 味の素(AJINOMOTO) ほんだし(小袋):200円
* 味の素(AJINOMOTO) うま味調味料『味の素』:200円
* サトウ食品 サトウのごはん:100円
* マルハニチロ(MARUHA NICHIRO) さばおんどり(さば水煮缶):250円
* 【合計:750円】
購入ボタンを押すと、空間が歪み、いつもの段ボール箱が届く。中から現れたのは、あの赤いパンダのマークで有名な『味の素』の小瓶と、和食の救世主『ほんだし』。そして大手食品メーカーの『マルハニチロのさば水煮缶』だ。
「タ、タカシ……その、赤い奇妙な獣が描かれたガラスの小瓶は一体何だ? 中に白い粉が入っているが……魔法の触媒か?」
「これは『うま味』を凝縮した、俺の世界の科学の結晶です。これと、さっき採ったキノコ、そしてこの『さば缶』を使います」
宿から持ってきた小さな鉄鍋に、ネットスーパーで買ったミネラルウォーターを注ぎ、マルハニチロのさば水煮缶を汁ごと贅沢にぶち込む。そこに、シルフィが採ってくれた異世界のキノコをちぎって投入。
味付けは、味の素の『ほんだし』をさらさらと振り、仕上げに『味の素』の白い粉をパッパッと3振り。
カセットコンロで一煮立ちさせれば、あっという間に『異世界キノコとさばの旨味スープ』の完成だ。
「はい、お待たせしました。まずはスープをどうぞ」
「……ただのスカスカのキノコと、お前の世界の魚の缶詰だろう? 正直、そこまで期待は――」
シルフィはツンとした態度で木のお椀を受け取り、スープを木のスプーンで一口すすった。
「――っ!!! ぬ、おおおおおっ……!?」
シルフィが衝撃のあまり、お椀を落としそうになりながら立ち上がった。その琥珀色の瞳は、信じられないものを見たかのように激しく揺れている。
「な、ななな……何だこの深みは!? 口に入れた瞬間、脳の奥の『美味しい』を司る部分が直接殴られたような衝撃が走ったぞ!? 魚の濃厚な出汁、そしてあの不味いキノコが、まるで極上の高級貝のような、とてつもない旨味の塊に化けている……! この白い粉(味の素)、一体どんな高度な古代魔法がかけられているんだ!?」
「魔法じゃなくて、アミノ酸(科学)の力ですよ」
日本の大手食品メーカーが100年以上かけて磨き上げた『うま味』の暴力が、異世界の女剣士の舌を完全に破壊した瞬間だった。シルフィは「信じられん、こんなの反則だ……っ!」と文句を言いながら、もの凄い勢いでスープを飲み干し、さばの身を貪っている。
その時、俺たちの前に、かつてないほど巨大な金色に輝くウィンドウが出現した。
【ログ:現代三大うま味成分×異世界未開拓食材の超限界シナジーが発動しました】
* メニュー:『異世界キノコとマルハニチロさば缶のうま味スープ(味の素仕立て)』
* 付与バフ:【全ステータス+50%(大向上)】【全属性魔法抵抗+30%】【限界突破(10分間のみ、技の威力が2倍)】
* 効果時間:3時間
「全ステータス+50%!? 限界突破!?」
驚く俺の目の前で、シルフィの全身から、昨日の生姜焼きを遥かに凌駕する、黄金色の猛烈な闘気のオーラが立ち上った。
「ガアアアアアッ!!!」
凄まじい旨味バフが発動した直後、最悪のタイミングで、茂みから5頭の『フォレストウルフ』が牙を剥いて飛び出してきた。普段ならCランク冒険者が一人で相手をするには少し骨が折れる相手だ。
「ひえっ! 魔物!」
「フン、安心しろタカシ。今の私は……いや、お前の『アジノモト』を喰らった今の私は、神をも屠れる気がするぞ……!!」
シルフィはツンと不敵に笑うと、地を蹴った。
ドンッ!! と岩場が衝撃で爆ぜる。全ステータス+50%と限界突破の力は凄まじかった。彼女の姿が一瞬で消えたかと思うと、
「ハァァァァッ! 『閃光一閃(バフにより威力2倍)』!!」
キィィィンッ! と鋭い金属音が森に響き渡り、目にも留まらぬ速さの縦一文字の斬撃が空を割った。
ズドォォォン!!!
一振り。ただ剣を一回振っただけで、襲いかかってきた5頭のフォレストウルフが一瞬で消し飛び、背後の巨木が3本同時に真っ二つになって倒れていった。
「……は?」
俺は呆然と口を開けた。
シルフィは剣をサヤに収め、ふいっと髪をかき上げながら、少し息を荒くしてこちらを振り返った。
「ふ、ふん。別にこれくらい、私にとっては朝飯前だ。……け、決して、お前のスープがあまりにも美味くて興奮しすぎたわけではないからな! 勘違いするなよ!」
顔を真っ赤にしながら言い張るシルフィだったが、その背後で倒れた魔物の山が、彼女の無双っぷりを何よりも物語っていた。
『ピロン♪ 累計チャージ額および『味の素』ブランドの初回購入ボーナスにより、経験値が【100/100】に到達しました』
『ネットスーパーのレベルが【3】に上昇します(ショップランク:アイアン)』
『【レベル3解放アイテム】:キユーピー(Kewpie)マヨネーズ、味の素(AJINOMOTO)クックドゥシリーズ、サントリー(SUNTORY)伊右衛門、そして家庭用調理器具『アルミホイル』が解放されました』
「やった……レベル3だ! しかもキユーピーマヨネーズとクックドゥが解放されたぞ!」
「マ、マヨネーズ……? クックドゥ……? タカシ、また私の脳を焼くつもりか……。私はもう、お前の料理なしでは生きていけない身体になっているというのに……!」
シルフィは恐れ慄くような表情をしながらも、次なる現代食品の名前に、ゴクリと期待の生唾を飲み込むのだった。
(第8話へ続く)
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