【第5話】現代調味料の『神バフ』と、異世界オークの生姜焼き
ルロムに到着したタカシたち、ギルド登録も終わり、最高の夜ご飯を食べることに...
【第5話】現代調味料の『神バフ』と、異世界オークの生姜焼き
二つのギルド登録を終えた俺たちは、商人ギルドから紹介された安全な中級宿屋『跳ね馬の蹄亭』にチェックインした。
シルフィが「ここの厨房の主は私の知り合いだ」と交渉してくれたおかげで、銀貨数枚(飯を少し分ける条件)で調理場を自由に使えることになった。
厨房の頑固そうなドワーフの料理長が腕組みをして見守る中、俺は市場で買った食材を並べる。
* オークのバラ肉(豚肉に酷似): 500グラム
* コカブジ(見た目も食感もキャベツ): 1玉
* ラディム(小ぶりの大根): 1本
「よし……それじゃあ、ネットスーパー、オープン!」
画面を操作し、レベル2で解放されたばかりの『醤油』、そして初期からある『岩塩』『黒胡椒』に加え、今回の大本命であるレベル2の隠し玉『s&b株式会社チューブ入りおろし生姜』を注文した。消費額は合わせて380円。
虚空からポロンと落ちてきた小さな段ボール箱から、緑色のチューブと、琥珀色に透き通った醤油のボトルを取り出す。
「ほう、それがお前の故郷の調味料か。見たこともない匂いだが、これがどう肉に化けるのかね?」
料理長が鼻を鳴らす。シルフィはすでにカウンター席に座り、スプーンとフォークを両手に持って「まだか、まだなのかタカシ」と目を爛々と輝かせて待っている。
「すぐできますよ。……まずは、オーク肉を薄切りにします」
異世界のオーク肉は、地球の豚肉よりも脂身の融点が低く、包丁を入れるだけで体温でじんわりと脂が溶け出してくる。非常に質が良い。
ボウルにオーク肉を入れ、そこに醤油をドボドボ、おろし生姜をたっぷり、そしてほんの少しの岩塩を揉み込んで下味をつける。
ジ、ジュワァァァ……!
醤油の焦げる香ばしい匂いと、生姜のツンとした爽やかな香りが混ざり合い、厨房全体に広がった。
「なっ、何だこの匂いは!?」と料理長が目を見張り、シルフィが「くぅぅ!」と小さく身悶えする。
熱したフライパンにオーク肉を投入し、強火で一気に炒める。肉から溢れ出た極上の脂が醤油と絡み合い、極上のツヤを帯びていく。仕上げに、シャキシャキのコカブジ(キャベツ)をドサッと投入し、タレを吸わせるようにさっと煽れば完成だ。
「お待たせしました! 異世界オーク肉の『本格・生姜焼き』です!」
ホカホカのサトウのごはん(これはネットスーパーで都度購入)の隣に、タレがダクダクに絡んだ生姜焼きを盛り付ける。シルフィの前に差し出すと、彼女は「いただきます!」と、どこで覚えたのか日本の挨拶を叫んで肉を口に放り込んだ。
「んんんんーーーーっ!!! 旨い、旨すぎるぞタカシ! なんだこの、お前の故郷の『ショウユ』と『ショウガ』の組み合わせは! 脂っこいオークの肉が、このタレのおかげで何枚でも食べられる魔法の食べ物に化けている!」
「ほほう、これは素晴らしいな。肉の臭みが完全に消えて、コクだけが残っとる。この黒い液体、我が厨房でも買い取りたいくらいだ」
ドワーフの料理長も一口食べて唸っている。
二人が大絶賛しながら夢中で食べている姿を見て、俺も嬉しくなり、自分の分の生姜焼きを口に運んだ。
――その時だった。
カチ、と頭の中で小さな音が響き、俺とシルフィの目の前に、突如として鮮やかな警告ウィンドウが出現した。
【ログ:現代調味料×異世界食材のシナジー効果が発動しました】
* メニュー:『オーク肉の生姜焼き(現代醤油・生姜仕立て)』
* 付与バフ:【筋力+30%】【疲労回復(大)】【精神安定】
* 効果時間:3時間
「……えっ?」
俺が呆然としていると、隣で生姜焼きを食べていたシルフィの身体から、ブワッ!と目に見えるほどの凄まじい青い魔力のオーラが吹き出した。
「な、なんだこれは……!? 身体の底から、信じられないほどの力が湧き上がってくる……! 3日間の強行軍の疲れが、一瞬で完全に消え去ったぞ!? それどころか、今ならAランクの魔物でも一刀両断できる気がする……!」
シルフィは自分の白く細い両手を見つめ、驚愕に震えている。
料理長もひっくり返りそうな声を出した。
「ば、馬鹿な……! 高級な『怪力秘薬』や『最高級ポーション』を同時に一気飲みした以上のバフ効果が、ただの肉炒めから出ているだと……!?」
俺は慌ててネットスーパーの画面の仕様書を確認した。
そこには、小さくこう書かれていた。
* 【補足仕様】現代の徹底管理された調味料・食品と、魔力を内包する異世界のモンスター食材が合わさることで、一時的に強力な『ステータス上昇効果』が付与されます。
「なるほど……。現代のご飯(調味料)をこっちの肉と合わせると、チート級のバフ飯になるんだ……」
戦闘能力ゼロの俺だが、この生姜焼きを食べれば、一時的にそこらの新米戦士以上の腕力を得られる。そして何より、これをシルフィや他の冒険者に食べさせれば、彼らを文字通りの『無敵の超人』にドーピングできるということだ。
「タカシ……お前、やっぱりただの商人じゃないな? この料理を戦争前に兵士に配れば、一国を滅ぼすことすら容易だぞ……」
シルフィはごくりと唾を飲み込み、真剣な目で俺を見つめた。しかし、その手はしっかりと、最後の一切れの生姜焼きをサッと確保して口に運んでいる。ツンデレというか、食い意地が勝っている。
「いや、俺は世界を滅ぼす気なんてないですよ。ただ、シルフィさんに安全に護衛をしてもらって、毎日美味いものが食えればそれでいいんです」
「そ、そうか……。お前がそう言うなら、私はお前を全力で守るだけだ。……だがな、タカシ。この『バフ飯』の秘密は、絶対に他の奴らに知られてはならないぞ。お前が誘拐されてしまうからな。……だから、これから毎日、私の前だけで作るように!」
後半、ただ「毎日食べたいだけ」の本音が完全に漏れていたが、彼女の言う通りだ。このスキルの価値は、飯の旨さだけではなく、「冒険者を最強にするロジティクスチート」へと進化してしまった。
こうして、異世界の肉と現代の調味料が起こす『奇跡のバフ効果』に気づいた俺。
ネットスーパーのレベルを上げれば、さらにどんな恐ろしい(美味しい)バフが解放されるのか、楽しみと恐怖が同時に押し寄せていた。
(第6話へ続く)
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