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【第12話】夜の厨房の訪問者と、次なるバズの予感

第12話!新しい訪問者!?

【第12話】夜の厨房の訪問者と、次なるバズの予感

「あぁ、美味い……。スプーンですくうたびに、この白いスープ(クリームシチュー)が私の魂まで温めていくようだ……」

 シルフィは口元に真っ白なクリームのヒゲをつけたまま、うっとりと琥珀(こはく)色の瞳を細めていた。

 ハウス食品の『北海道シチュー』と明治の『北海道バター』、そして異世界のじゃがいも(ポポト)が起こした奇跡の守備バフ【全状態異常無効】の白いオーラが、彼女の身体を優しく包み込んでいる。



 ドワーフの料理長も、お裾分けしたシチューを髭(ひげ)にドロドロと付けながら「おいタカシ、このスープの素(ルー)を我が宿屋に卸す気はないか!?」と、鼻息を荒くして迫ってくる。

 そんな、濃厚で芳醇(ほうじゅん)なミルクとバターの香りが、夜の宿屋の厨房から換気口を通じて、静まり返った大通りへと漏れ出していた、その時だった。

 トントン、と厨房の裏口の木扉が控えめに叩かれた。

「……すまない、夜分遅くに。そこに、私を狂わせるような恐ろしい匂いの元(・)があるとお見受けするのだが……入ってもよいだろうか?」

 扉を開けると、そこに立っていたのは、仕立ての良い漆黒のローブを身にまとった一人の美しいエルフの女性だった。

 眼鏡の奥の知的な瞳を爛々(らんらん)と輝かせ、長い耳をピコピコと動かしている。彼女の手元には、ずっしりと重そうな『商人ギルド上級幹部』の刻印が入った革の鞄(かばん)が握られていた。

「なっ……!? お、お前は商人ギルドの若き大幹部、カトレイア……! なぜこんな中級宿屋の裏口に!?」

 シルフィがシチューのスプーンを咥(くわ)えたまま、驚きで椅子からひっくり返りそうになった。

 カトレイアと呼ばれたエルフの美女は、シルフィの驚愕を無視し、すたすたと俺の前に歩み寄ると、机の上の白いシチューをじっと見つめた。その喉が、ごくりと小さく、しかし確実に鳴る。

「街の結界の定期査定を終えてギルドへ戻る途中だったのです。ですが、この宿屋の近くを通った瞬間、私のエルフとしての鋭敏な嗅覚が、未知の『圧倒的な乳製品のコクとスパイスの香り』を捉えて離さず……気がつけば、吸い寄せられるようにここに立っていました。……そこの旅人さん、それを私にも一口、頂けないでしょうか? 報酬なら、この通り弾みます」

 カトレイアはそう言うと、鞄からジャラリと美しい金貨(1枚約50万円相当)を3枚も取り出し、調理台の上に事も無げに置いた。

「き、金貨3枚だと!? ただの芋スープにそんな大金を――」

「シルフィさん、シーッ! ……カトレイアさん、ちょうど今出来上がったばかりです。どうぞ、熱いうちに食べてみてください」

 俺は大急ぎで、ネットスーパーで10円の使い捨てお皿セットを追加注文(現在のレベルは【レベル3】、経験値は【55/100】のまま)し、純白のシチューをなみなみと注いで彼女に手渡した。

 カトレイアは気品ある仕草でスプーンを握り、ホロホロに溶けたポポト(じゃがいも)と一緒にシチューを口へと運ぶ――。

 ――ッ!!!

 エルフの美女の身体が、一瞬でカチコチに硬直した。

 眼鏡の奥の瞳がこれ以上ないほど見開かれ、綺麗な顔が歓喜のあまり真っ赤に染まっていく。

「な、なん……なんですか、この濃密な口当たりは……! 大地の恵みが、ミルクの優しさと合わさって、脳の神経を一本ずつとろけさせていくような至高の快楽……っ! 苦くて硬いだけのあのポポトが、なぜこんな真綿のように柔らかく甘くなっているのですか!? 旨い……旨すぎます……! このスープ、今すぐ我が商会で利権を買い取らせていただきます……!」

 カトレイアは普段の「冷徹な大幹部」の仮面をかなぐり捨て、耳を真っ赤に染めながら、猛烈な勢いでシチューをかき込み始めた。

 

 現代日本の大手食品メーカーの技術が、ついに異世界の経済を牛耳る大商人の胃袋まで、完全に撃ち抜いた瞬間だった。

(第13話へ続く)

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