【第11話】黄昏(たそがれ)の市場と、新発見の『大地のスープ』
第11話です!寒い時に食べたくなるあの食べ物!
【第11話】黄昏の市場と、新発見の『大地のスープ』
「ふぅ……これでコカトリスの素材回収も完璧だな。タカシ、その『いんべんとり』というのは本当に便利すぎて、見ていて少し怖くなるぞ」
シルフィが驚きを通り越して呆れたように笑いながら、大剣を背中の鞘へと収めた。
丸焦げのコカトリス3羽を丸ごと光の粒子に変えて、俺のネットスーパーの無限倉庫へと格納。ついでにギルドの討伐証明になる魔石もしっかりカートへ投入し、現在の残高は【3,640円】まで増えていた。
「現在のタカシの魔法は、確か【レベル3】だったな?」
「ええ、画面のゲージは【35/100】です。レベル4になれば、また新しい調味料や食べ物が解放されると思うんですけど、じっくりお買い物をしていかないとすぐには上がらないみたいですね」
「ふ、ふん。焦る必要はない。今ある『ショウユ』や『マヨネーズ』だけでも、私の胃袋を支配するには十分すぎるほどの威力だからな(これ以上増えたら本当に私の理性がもたない……)」
後半の物凄い本音を小声でブツブツと呟くシルフィを連れて、俺たちは夕暮れ時の『城塞都市ロルム』の市場へと戻ってきた。
夕方の市場は、朝とはまた違う活気に満ちている。夜の食卓のために、主婦や宿屋の仕入れ係がひしめき合い、露店には松明や魔導具の灯りが灯り始めていた。
「よし、コカトリスの極上ロース肉はインベントリにあるから、これに合わせる異世界の食材を買い足そう。……ん? シルフィさん、あの露店の隅っこにある、泥だらけの黒い団子みたいなのって何ですか?」
「あ、あれか? あれは『ポポト』という、北方の貧しい村で主食にされている芋だな。硬くて、ボソボソしていて、泥臭い。おまけに毒(ソラニンに酷似)のある芽を取り除くのが面倒でな。安さだけが取り柄だから、この街の冒険者も誰も好んで買わないぞ」
誰も好んで買わない。――その言葉に、俺のアンテナが再びピキーンと反応した。
泥を払ってよく見てみれば、ゴツゴツとしたその形、薄い皮、芽の生え方……どう見ても地球の『じゃがいも(メークインや男爵芋)』そのものじゃないか!
(硬くてボソボソしてるのは、単にこっちの世界の奴らが『正しい茹で方』や『油を使った調理法』を知らないからだ。じゃがいもがあるなら、あの大手メーカーの調味料を使えば、最高に濃厚なスープが作れる!)
俺は露店のおじさんから、一袋にどっさりと詰まったポポト(じゃがいも)を、わずか銅貨2枚(約200円)という破格の安さで買い取った。
さらに、昨日のドワーフ料理長の宿『跳ね馬の蹄亭』の厨房へと戻り、夜ご飯の調理を開始する。
「よし、ネットスーパー、オープン!」
俺は画面を操作し、レベル3で解放された食品カテゴリの中から、日本の家庭用洋食の最高峰とも言えるあの企業の商品をタップした。
* ハウス食品(House Foods) 北海道シチュー<クリーム>:300円
* 明治(meiji) 明治北海道バター(200g):450円
* 【合計:750円】
ピロン♪ と響くお馴染みの電子音とともに、虚空からいつもの段ボール箱が落ちてくる。中から現れたのは、日本の冬の食卓を温め続けてきた『ハウス食品の北海道シチュー』のルー、そして芳醇な香りを放つ『明治のバター』だ。
「タカシ……また、お前の故郷の『箱』を召喚したな。その、雪景色と温かいスープが描かれた箱は一体……?」
「これは『クリームシチューのルー』です。これを使って、さっきの誰も買わない不味い芋を、シルフィさんが腰を抜かすほどの絶品スープに変えてみせます!」
俺の手際良いソロキャンプ仕込みの調理が始まった。
まず、ポポト(じゃがいも)の泥を丁寧に洗い流し、大剣の先端を借りて毒の芽を綺麗にくり抜く。皮を剥いて一口大に切ったら、コカトリスのジューシーなロース肉、そして昨日買ったキャベツ(コカブジ)の芯の近い部分と一緒に鍋に放り込む。
ここで、明治北海道バターをひとかけら、贅沢に鍋に投入した。
じゅわぁぁぁぁ……!
ミルクの甘みとコクが凝縮された、圧倒的に芳醇で罪深いバターの香りが厨房にブワッと爆発する。ドワーフの料理長が「おいおい、なんだその天国のミルクのような素晴らしい香りは!?」と身を乗り出し、カウンターのシルフィはすでにフォークを握りしめて目が完全にトランス状態になっている。
バターでポポトとコカトリス肉をじっくりと炒め、表面に旨味の油膜を張る。そこにミネラルウォーターを注いで一煮立ちさせ、ポポトが芯までホロホロになるまでじっくり弱火で煮込む。
仕上げに、火を止めてハウス食品の北海道シチュー<クリーム>のルーをパキパキと割り入れる。
トロリ……。
真っ白で濃厚な、北海道の豊かな恵みが溶け込んだクリームシチューが鍋の中で完成した。
「お待たせしました。異世界ポポトとコカトリス肉の『本格・北海道クリームシチュー』です!」
「……真っ白なスープ。これが、あの不味い芋の料理だというのか……? いただきます!」
シルフィはスプーンを震わせながら、純白のシチューをポポトごとすくい上げ、ふーふーと息を吹きかけてから口へと運んだ。
「ハグッ、……もぐ、……っ!?!? eyelids」
一口食べた瞬間、シルフィの身体がこれまでにないほど激しくビクンと震えた。琥珀色の瞳から、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちる。あまりの美味さと温かさに、胸がいっぱいになって言葉が出ないようだ。
「な、ななな……何だこの、優しくて、濃厚で、身体の芯から凍えた心を溶かしていくような美味さは……! この芋、本当にあの硬くてボソボソしたものなのか!? 口の中で、まるで上質な粉雪のようにホロホロと、甘みを残してとろけていくぞ……! そしてこの白いスープ、濃厚なミルクのコクと肉の旨味が完璧に溶け込んでいて……旨い、旨すぎるぞタカシ……っ!」
「ハウス食品のシチューは、日本の濃縮された乳製品の技術が詰まってるんです。じっくり炒めて煮込めば、異世界の不味い芋だって一瞬で極上の食材に化けるんですよ」
「ああっ、身体が芯からポカポカしてくる……。私は、お前がこの『しちゅー』を誰か他の奴に作ったら、嫉妬でその女を斬ってしまうかもしれない……んぐっ、うぅ、幸せだ……っ!」
シルフィはツンデレの『ツン』の字すら忘れ去り、涙目になりながら夢中で白いシチューを頬張り続けた。口の周りに真っ白なクリームのヒゲをつけながら、幸せそうに頬を緩める姿は、完全にタカシの胃袋の奴隷そのものだった。
その時、俺たちの前に、どこか温かみのある純白のウィンドウが出現した。
【ログ:現代濃縮乳技術×異世界不人気食材の完全再生シナジーが発動しました】
* メニュー:『ポポトとコカトリス肉のクリームシチュー(ハウス食品 北海道シチュー仕立て)』
* 付与バフ:【最大体力+50%】【全状態異常無効(毒・麻痺・呪いを完全シャットアウト)】【純白の加護(1回だけ致命傷を受けてもHP1で耐える)】
* 効果時間:6時間
「全状態異常無効に、致命傷を1回耐える加護……!? 守備特化として最強のバフじゃないか!」
シルフィの身体から、まるで聖女のような優しく清らかな白いオーラが立ち上る。誰もが顧みなかった異世界の泥臭い芋と、日本の最高峰のシチュールーが合わさることで、彼女に『絶対の守護』をもたらしたのだ。
「ふ、ふん……。今の私なら、凶悪な暗殺者の毒刃を受けようが、即死級の呪いを受けようが、そよ風のように笑い飛ばしてみせよう。……すべては、この『はうすしょくひん』のおかげだな」
シルフィは口元に白いクリームをつけたまま、キリッとカッコつけて不敵に笑った。
食後にステータスを確認すると、ハウス食品と明治の贅沢な買い物をしたおかげで、ネットスーパーの経験値が【55/100】まで一気に上昇していた。
「よし、レベル4の背中が見えてきたぞ。シルフィさん、明日もこの調子で美味しいものを食べて、どんどん強くなっていきましょう!」
「うむ! お前がその魔法を使い続ける限り、私はどこまでも同行しよう。……だから、明日の朝飯も、私の脳を焼くような最高の一品を期待しているぞ、タカシ!」
夜の厨房に、二人の笑い声と、シチューの優しい香りがいつまでも残っていた。
(第12話へ続く)
最後まで読んでいただきありがとうございます!感想といいねお願いします!




