【第13話】真夜中の緊急仕入れと、奇跡の袋麺
第13話!みんな大好きあの食べ物!
【第13話】真夜中の緊急仕入れと、奇跡の袋麺
「……はぁ、美味しかった。まさかこの私が、市場で誰も顧みない泥臭い芋のスープに、ここまで我を忘れて貪りついてしまうなんて……」
商人ギルドの大幹部であるエルフの美女・カトレイアは、空っぽになった木のお椀を名残惜しそうに見つめながら、深いため息を漏らした。
普段は冷静沈着、数百万枚の金貨を動かす彼女の耳が、今は興奮のあまり真っ赤に染まっている。
その隣では、シルフィが最後の一滴までスプーンでシチューを掬い取り、ツンとした顔で「ふん、言っただろうカトレイア。タカシの料理は、私たちの常識を遥かに超越しているのだ」と、なぜか自分が作ったかのように誇らしげに胸を張っていた。口元に白いクリームをべったりと付けたままだが。
「タカシさん。私は商人ギルドの査定官として、多くの最高級宮廷料理を口にしてきました。ですが、これほど濃密な乳製品のコクと、食材のポテンシャルを極限まで引き出す『調味料の合わせ技』は見たことがありません。……これは、ただの旅人の料理の域を超えています」
カトレイアは眼鏡の位置をクイと直すと、調理台の上に置かれた3枚の金貨を、細く綺麗な指先でトントンと叩いた。
「この金貨は、今のスープの対価です。そして――ここからが本題です。タカシさん、お前が召喚しているその『未知の調味料や白いスープの素』、我が商会と独占契約を結び、すべて私に卸す気はありませんか? 金ならお前が望むだけ用意しましょう」
ついにきた。大商人の利権交渉だ。
だが、俺のネットスーパーのアイテムをそのまま大量に卸すなんてことは不可能だ。そもそも、俺が安全にまったりスローライフを送るためのスキルなのだから、大国の商業ギルドの渦に巻き込まれて自由を奪われるわけにはいかない。
「すみません、カトレイアさん。これは俺の固有スキルで取り寄せてるものなので、大量生産も卸しもできないんですよ。俺の気が向いた時に、こうして身近な人に振る舞うのが限界なんです」
「……大量生産が、できない? 固有スキルによる限定召喚、ですか……。くっ、それならば仕方ありませんね。ですが、諦めきれません。……タカシさん、もし良ければ、今この場でもう一品、何か『お前の故郷の特別な食品』を見せてはいただけないでしょうか? 私はまだ、お前の世界の底を見ていない気がするのです」
カトレイアの知的な瞳に、怪しい商売の光が灯る。どうやら、俺のスキルの限界や種類を測ろうとしているらしい。
隣のシルフィは「な、何だと!? カトレイア、抜け駆けは許さんぞ! タカシ、私もまだお腹に少し余裕があるからな! 決して食べたいわけではないが、お前のスキルの証明のために、付き合ってあげなくもないぞ!」と、またしても分かりやすいツンデレを発動させていた。
(よし、ここらで一発、大商人の度肝を抜く『夜食』を出してやるか。それに、ちょうど今のネットスーパーのレベルは【レベル3】、経験値は【55/100】だ。ここで少し高めの商品や、これまで買ったことのないジャンルの食品を一気に買い込めば、レベル4へ上がれるかもしれない!)
俺は「分かりました。じゃあ、俺の世界の『真夜中の定番』をお見せします」と言って、半透明のネットスーパー画面を開いた。
検索欄に『夜食』と打ち込んでみる。すると、画面にパッと一つの検索結果が引っかかった。
【検索結果:1件】
* 日清食品(NISSIN) 日清ラ王 醤油 5食パック:550円
「おお……! 夜食で検索したら、やっぱりこれがあったか! 現代日本の技術が詰まった、生麺をそのまま乾燥させたような伝説の袋麺だ!」
これまではレトルトカレーやシチュールー、クックドゥなどの『料理のベース』になるものが中心だったが、ついに『麺類』のジャンルが本格的に解放されたらしい。俺はカトレイアを驚かせ、かつ自分のレベルアップの経験値を一気に稼ぐため、贅沢に複数のアイテムを同時にカートへぶち込んだ。
* 日清食品(NISSIN) 日清ラ王 醤油 5食パック:550円
* 味の素(AJINOMOTO) うま味調味料『味の素』アジパンダ瓶(おかわり用):200円
* キッコーマン(KIKKOMAN) いつでも新鮮 旨み広がる特選 丸大豆しょうゆ:300円
* 【合計:1,050円】
購入ボタンを力強くタップする。
――ピロン♪ ピロン♪ ピロン♪
静まり返った真夜中の厨房に、電子決済の音がこれでもかと贅沢に響き渡った。
次の瞬間、虚空の空間がこれまで以上に大きくぐにゃりと歪み、ずっしりと重たい、お馴染みの茶色い段ボール箱が調理台の上にドスンと落ちてきた。
「なっ……!? またあの光の歪み……! 魔力の残滓が一切ないのに、異空間から物質を完全な状態で転送している……! どんな大魔導師の転送魔法よりも精密だわ……」
カトレイアが眼鏡をガタガタと震わせながら段ボール箱を注視する。
俺は慣れた手つきで箱を開け、中から漆黒とゴールドの高級感あふれるパッケージ――日清食品の『日清ラ王 醤油』を取り出した。
「これが、俺の世界の麺料理、『ラーメン』の袋麺です」
そこからは、まさに時間との戦いだ。夜食のラーメンはスピードが命である。
ドワーフの料理長が火を護っていた大きな鉄鍋を借り、ミネラルウォーターをなみなみと注いで沸騰させる。グラグラと煮立つ湯の中に、ラ王の、まるで生麺をそのまま美しく乾燥させたようなノンフライ麺を滑り込ませた。
麺が茹で上がるまでの3分間、俺は器を用意し、付属の液体スープの袋を破って底に注ぐ。
その瞬間、鶏ガラをベースに、じっくりと熟成された醤油の深い香りと、ほんのり香る香味野菜の風味が、器の中からブワッと立ち上った。
「な、何この匂い……!? 昨日の生姜焼きのショウユとも、今日のシチューのミルクとも違う、濃厚なのにどこかすっきりとした、嗅ぐだけで胃袋がキュウッと鳴り響くような香ばしさは……!」
カトレイアが、エルフの長い耳をピンと直立させて器に顔を近づける。
茹で上がった麺を湯ごと器に注ぎ、手際よく箸で麺を整える。トッピングには、インベントリにキープしておいた、あの最高級鶏肉に似た『コカトリスの照り焼き肉』を厚切りにして乗せ、仕上げに市場の細ネギを散らす。
「完成です! 日清食品の『日清ラ王・特製コカトリス醤油ラーメン』です!」
「……これが、お前の世界の、夜食……。この、琥珀色の透き通ったスープに、美しく折り重なる黄色い麺の束……。いただきます!」
カトレイアは、俺がネットスーパーで取り寄せた割り箸を器用に使いこなし、ふーふーと湯気を吹き飛ばしながら、黄金色の麺を思い切りすすり上げた。
――ズズズズズズッッッッ!!!!
静かな真夜中の厨房に、異世界の住人が決して立てることのなかった「麺をすする快音」が響き渡る。
「――っ!?!?!? eyelids」
カトレイアの身体が、まるで落雷に打たれたかのように激しく震えた。
手にした箸がカタカタと震え、眼鏡の奥の瞳から、ポロポロと涙が溢れ出す。あまりの衝撃に、美しいエルフの顔が完全にトランス状態に陥っていた。
「な、なん……なんですかこれはぁぁぁっ!? この麺、乾燥していたはずなのに、まるで今さっき極上の小麦を練り上げて作ったかのような、信じられないほどのツルツルとした喉越しと、強い弾力がある……! そしてこのスープ、醤油のキレの奥に、鳥の骨を何十時間も煮込んだかのような底知れない旨味が隠されている……! 旨い、旨すぎる……! 私の150年の人生の中で、これほど完成された麺料理は存在しない……っ!」
「日清食品のラ王は、独自の『ノンフライ技術』で生麺の食感をそのまま再現してるんです。異世界のコカトリスの濃厚な出汁と合わさることで、スープの旨味が限界突破してるんですよ」
「ああ、お箸が、お箸が止まりません……! スープを飲むたびに、知性の奥底が快楽で塗り潰されていく……! タカシさん、お前は神ですか? それとも、大商人である私を胃袋から破滅させるために現れた悪魔なのですか……っ!」
カトレイアはツンとした大幹部のプライドを完全に粉砕され、耳まで真っ赤にしながら、ズズズ、ズズズと猛烈な勢いでラーメンをすすり、器を傾けてスープを最後の一滴まで飲み干してしまった。
その横では、シルフィも自分の分のラ王を「んぐ、ふはぁ……熱い、しかしこの麺の噛み応え、悪魔的だ……タカシ、おかわりはないのか!?」と、涙目になりながら夢中で貪っていた。
その時、俺たちの前に、これまでにないほど巨大な、虹色に輝くウィンドウが出現した。
【ログ:現代乾燥麺技術×異世界最上級鳥出汁の超次元シナジーが発動しました】
* メニュー:『日清ラ王・特製コカトリス醤油ラーメン(日清食品仕立て)』
* 付与バフ:【全魔力回路の完全活性化(魔力回復速度が10倍)】【夜間隠密(暗闇での気配が完全に消える)】【限界超越・知性(魔法の詠唱速度と演算能力が+100%)】
* 効果時間:8時間
「魔力回復速度が10倍!? 演算能力が2倍!?」
驚く俺の目の前で、カトレイアの身体から、澄み切った凄まじい純青の魔力のオーラがブワアアアッ!と噴き出した。彼女が軽く指を動かすだけで、厨房の空間の歪みが視覚的に捉えられるほどの、圧倒的な知性と魔力の高まりだ。
「す、すごい……! 体内の魔力回路が、まるで濁流のように激しく、しかし完璧に循環している……! 詠唱など必要ない、今なら国を滅ぼすレベルの極大禁忌魔法すら、瞬時に、ノータイムで発動できるわ……! タカシさん、お前のこの『らおう』という料理は、魔法使いにとって世界を揺るがす禁断の聖杯よ……!」
カトレイアは自分の手のひらを見つめ、驚愕と至福の表情で震えていた。
そしてその瞬間、俺の視界の端で、ネットスーパーの画面がこれまでにない大音量でピカピカと光を放った。
『ピロン♪ 累計購入額が規定値に達し、さらに『日清食品』ブランドの初回購入ボーナスが加算されました。経験値が【100/100】に到達しました!』
『ネットスーパーのレベルが【4】に上昇します(ショップランク:アイアン)』
『【レベル4解放アイテム】:日清食品(NISSIN)カップヌードルシリーズ各種、東洋水産赤いきつねと緑のたぬき、エスビー食品(S&B)ゴールデンカレー(カレールーの王様)、そして家庭用便利グッズ『サランラップ(旭化成)』が解放されました!』
「よっしゃぁぁぁーーー!! レベル4に上がったぞ!! カップヌードルとゴールデンカレー、サランラップが解放された!」
「かっぷぬーどる……? ごーるでんかれー……?」
シルフィとカトレイアが、赤いタレと白いクリームと醤油のスープを口元につけたまま、呆然と俺を見つめる。
現代日本の技術が詰まった『夜食』の暴力によって、異世界の最強剣士と大商人の脳を完全に焼き尽くし、俺のネットスーパーはさらなる進化を遂げたのだった。
(第14話へ続く)
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