一般人の能力は1桁台
改めてミライザを【鑑定】してみると『運40』となっていた。
高い。
街に入ってからあちこちに【鑑定】をしているけれど、ほとんどの能力値が一桁台だった。
非力そうな女性で『力2』とかだった。
さっきまで会っていた衛兵で『力7』とかだったので、二桁に突入するだけでもけっこう優秀なんだということがわかる。
で、話題の運だ。
運はやはり鍛えられないのか、ほとんどの人が3〜7ぐらいの間だった。
身なりの良さそうな人物が『運10』で、【鑑定】した中では最高だった。
そんな中、『運40』だって?
これはもう運だけで生きていけるんじゃないだろうか?
「さて、次は住む場所と仕事か。いいのが見つかるかなぁ?」
ミライザは俺を抱えて呑気に呟いている。
俺もそろそろ疲れたから【幽体離脱】を解除して寝るかな。
んん?
あ、ゾルがこっちを見つけて追いかけてきているな。
寝る前に、あいつを追っ払って……あ、誰かに腕を掴まれた。
顔付きの怖い屈強そうな男だ。
ゾルの顔色が一気に悪くなり、そして連れ去られていく。
これもミライザの運の良さか?
我が身に起こったことを思えば運に身を任せるなんてできるわけもないんだが、この世界では『運』って重要なのかもしれないと思わせられるな。
これからでも『運』の上昇を狙うか?
どういう努力をすれば『運』が上がるのか。
『魔』に人生賭けてしまっているんだから、諦めるしかないかな?
とりあえず、ミライザに守られている間は運の良さがついて回るかもしれないとでも思っておこう。
そうなら、ミライザの住環境が良くなるように俺も手伝うべきだろうが……。
「うわっ」
そんなことを半分眠りながら考えていると、ミライザがそんな声を上げたのを聞いた。
ミライザが誰かを見ている?
その視線を追いかけてみると、なるほど。
すごい美人が前から歩いてきていた。
豊かな金髪の美人だ。
美しさに関する能力値はないが、マイナス要因を示すスキルが存在するようにプラス要因を示すスキルも存在する。
まず間違いなく『容姿(最高)』とか持っているに違いない。
そう思って【鑑定】をしてみると、【容姿(最高)】に加えて【傾国】まであった。
『ルーシア(ゼノヴィア):18歳。酒場『モールの宴』で働く歌姫。もちろん大人気』
思わず【鑑定】したんだが、なんで名前に()が付いているんだ?
偽名ってことか?
そして能力値が高い。
いや、高いな。
力10体15速28魔06運05
『魔』と『運』以外は優秀レベル。
特に『速』は超優秀だ。
「すっごい美人。さすが都会。あんな人もいるんだ〜」
ミライザがすっかり感心してそんなことを呟いている。
その美女ルーシアは、周りからの視線や挨拶を軽く交わしながらこちらに近づいて……。
視線が右を見た状態で一瞬止まった。
その時に、目付きもおかしかった。
眠いんだけどなぁと思いつつも、気になったもんだから【幽体離脱】で視界を確保し、ルーシアが見た方向を確認する。
あ、なんか変な男がいる。
周りのルーシアを見る目とは明らかに違う陰気な雰囲気。
腹に当てるようにしている手にはナイフが握られている。
そして、ルーシアに向かって歩き出した。
ああ、これは命を狙っているな。
明らかな美人だし、酒場の歌姫だって出ているし、厄介ファンって奴かな?
目の前で刃傷沙汰なんてごめんなので、【腐傷】でナイフを持っている手を切り落とす。
突然の絶叫で周りが騒々しくなった。
「え? なになに?」
驚いたミライザが立ち止まって周囲を見回す。
「あなた、こっちよ」
「え?」
「ほら、早く」
ルーシアがミライザに話しかけて、移動を促す。
まさか話しかけてくるとは思わなかったので、俺も驚いた。
が、疲れていたので【幽体離脱】はすぐに解除して、流れに身を任せてみる。
『運40』もあるんだから大丈夫だろう。
「ごめんね、いきなり。でも、騒ぎが起きたらしい場所に赤ちゃん連れをそのままにはしておけないし、なんだかお上りさんみたいに見えたし」
「あ、ええと、えへへ……」
少し歩いたところで、ルーシアがそう説明した。
「まぁ、本当にここに来たばかりで」
「……よかったら、お話を聞かせてもらえる?」
「ええと……」
ルーシアに案内されてカフェに入ったミライザは、ベラベラと喋った。
都会のお洒落なティーには油でも入っていたのだろうか?
俺も知らなかったから、ミライザの身の上話が聞けるのはありがたかったのだけれど。
聞けば、ミライザの住んでいた村が密かに邪教集団に支配されてしまったらしい。
そして、ミライザが成人になったところで、生贄か孕み袋かのどちらかにされる予定だったのだそうだ。
そうなる前に、前から村に来ていた行商人の跡を継いだゾルを利用して、村から逃げ出したのだそうだ。
ゾルは前の行商人の息子だと名乗っていたけれど、娘しかいないと言っていたことを覚えていたミライザは、信用しないけど逃げ出すのには使えそうと話を持ちかけたら、乗ってくれたらしい。
「危ない橋を渡ったわね」
とルーシアが呆れていた。
「最近、違法な奴隷商人が増えたって話だから、もしかしたら売られていたかもしれないわよ」
「かもしれないけど、邪教の食い物にされるよりはマシだって思ったから」
ミライザは平気な顔だ。
そして俺にカフェでもらったヤギミルクを飲ませている。
母乳代わりだそうだ。
美味い……かなぁ?
味覚がはっきりしていない気がする。
まぁでも牛乳とそう違いはない?
というか、もしかしなくてもこれが異世界初の経口摂取だな。
というか、ミライザがそんな状況だったとは。
【鑑定】ではそんな情報は出なかったな。
あそこに出てくる内容は全部じゃないんだっていうことは気にしておかないといけないかもしれない。
「それもそうね。ああ、ということは、今日寝るところもなかったりするの?」
「えへへ」
「そっか。それじゃあ……うちで住み込みする? 酒場だけど」
「え? いいの⁉︎」
「ここまで話を聞いて、それではいさよならは、ちょっとできないかなぁ」
「やった! ありがとう!」
いきなり出会った超絶美人に住居の世話をしてもらえる。
これもまた『運40』ならではか?
そう思いつつ、俺は寝ることにした。
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