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赤ちゃんから始める来世改善計画  作者: ぎあまん


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弟子と師匠と掴まり立ち



 ジリウンド帝国とベルンハルト王国の間に横たわる大森林。

 国を分ける緩衝地帯であり、近辺にいる魔物たちの巣窟でもある。


「ふうむ」


 大森林の空を舞う鷹の目を借りて、その人物はそれを見ていた。

 帝国側の国境監視砦から、王国側の浅い層を彷徨う【死骨兵】の姿を。

 当たり前のように【鑑定】は弾かれる。


「ほっほ、見事じゃの。儂の【鑑定】も通じんぞ」

「そんな!」


 隣で驚愕の声を上げたのは、以前にスケイルウルフを差し向けた魔法使いだ。


「帝国魔導師団三席の御師様でも【鑑定】できないなんて……」

「弟子よ。だからお前は修行が足りんのじゃ。常日頃から言うておるぞ、自分より優れている者などおって当然と考えよと。そして、物差しは常に複数持っておけと」


 師匠と呼ばれた老人……帝国魔導師団第三席ベローズは、使い魔である鷹の目に掛けた【借視】の魔法に【魔力可視化】を重ねた。

【死骨兵】を覆う魔力に色が付く。

 ベローズの目には魔力が淡い緑の光となって【死骨兵】を覆っている様子が映し出された。


「ふうむ、二重じゃな」

「あの死骨兵の中に【腐肉スライム】が隠れています」

「ほほう。そちらも大層なもののようじゃな。ふむ……『魔70』は超えているの」

「70⁉︎」

「だが、技量は練れておらんようじゃな。あるいはわざとか? だとしたら意図が読めんの。余裕か? ふむう」

「御師様」

「……やめじゃ」

「は?」

「王国への作戦はしばし中止じゃ。この化け物の存在や意図が判明せん限り、やらん方がいい。まさしくこの道は行き止まり……じゃな」

「そんな! それでは……」

「養殖ゴブリンの計画は無駄にならん。陛下が進みたい道はまだそこら中にあるのじゃからな」

「しかし、この計画は御師様の……それに私の!」

「責任者じゃからこそ、止める決断もできるというもの。お前は現場の者として正しい判断をした。陛下の評価は変わらぬよ」

「しかし……」

「とにかく、中止じゃ。触らぬ化け物に祟りなしじゃぞ」


 そう声をかけると、ベローズは弟子に背を向けた。

 帝国魔導師団第三席に位置するベローズは忙しい。

 今回のこれは、帝国の広大な国境の一方面に張り付くほどの事態ではないと判断した。


 だが、弟子にはまた別の事情がある。

 弟子は、帝国魔導師団の中ではまだ下位の地位でしかない。

 今回の計画が中止することで責任を問われることはないかもしれないが、出世への歩みは遅れることになる。

 そうなれば、師団の同期たちが先に出世してしまうかもしれない。

 特に同じベローズの弟子たちとの間で地位に差が付くなど……あってはならない。


「そんなこと……あの【死骨兵】どもさえいなくなれば」


 そうだ。

 能力は化け物だが、熟練が足りないとも言っていたではないか。

 付け入る隙はあるはずだ。






「うわぁ、立ってる!」


 起きたミライザが俺を見て驚いている。

 立ったと言っても掴まり立ちだけどな。

 手足の感覚がしっかりしてくると暇だと感じることも多くなったので、寝返りとか色々動き回っていたら、できるようになった。

 領都エイゴラに来て三ヶ月くらいか?

 普通の赤ん坊と比べるとどれくらいなのかわからないが……まぁたぶん早い方だと思う。


 この辺りは【成長加速】が関係していると思う。

 能力値やスキルなどの成長に補正をかける【成長加速】だが、もしかして肉体の成長も加速をかけたりする?

 いや、その場合は老衰までの時間まで短時間化していたり?


 ……そんなことないのは転生前のキャラメイク時に確認している。

 来世改善のために今世は長生きしないといけないというのに、タイムリミットをさらに縮めるような真似はしない。


 能力値の数字的には変化がない。

 けれど、赤ちゃんが立った程度で数字が変化するのであれば、大人の時の数字が一桁になるはずがないよな。

 こんなものは小数点以下の成長でしかないということだ。

 成人でも『力3』とかの人がいたりするからな。


「はい、クリス、ここまで来てみて」


 寝起きでもハイテンションのミライザは少し離れたところで両腕を広げている。

 いきなり歩けとは無茶を言う。

 とはいえ、そんなんできるかと無視するのは赤ん坊としてあまりにも可愛げがない。

 その挑戦、受けてたとう。


 むう。


 やあ。


 とう。


「うわぁ、歩けた! すごいよクリス!」


 辿り着いたところで抱き上げられて振り回される。

 目が回る。

 赤ん坊を振り回すでない。


「ああ、クリス可愛すぎ! あんたに出会えてよかった!」


 出会えてよかった、か。

 そう言われるのは嬉しい。

 嬉しいけれど、複雑でもある。

 かつての両親の、あの絶望した表情を思い出す。

 決して悪い両親ではなかった。

 普通の善良さを宿した人たちだった。

 だが、不幸の前では普通の善良さは簡単に覆る。

 誰だって我が身が可愛い。

 絶望の果ての冷静な計算……俺を切り捨てる方法を求めたあの目を、俺は忘れられない。


 だから……ミライザにはそんな目をさせないようにしなければ。


 そんなことを考えていたら……【死骨兵】から指示を求める反応が届いた。

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