ユキナさん!勝負の始まりですわっ!
ユキナと羽咲様、同じ想いを持つ少女たち。
「…………」
さっきとは、うって変わって、頬を真っ赤にして俯くユキナ。
「…… ねえ、マクナくん」
「どうした?」
「さっきは…… いきなりごめんね」
「ごめんって何が?」
「いや、その…… 私がマクナくんのこと好きだって、いきなり言って」
「いや、全然謝ることなんてないよ」
あくまで、マクナくんは至って変わった様子はない。
その平然さは、ユキナが望んだものである。しかし、
「やっぱり、私じゃ……」
わかってる。ここでマクナくんを困らせないためにも、これ以上わがまま言わない方がいい、と分かっている。 でも……
やっぱり、フラれたかもって思うと…… つらいよ……。
そう思うと、泣き出しそうになる。マクナくんに泣きつきたくなる。
でも、それはいけない。マクナくんには、素晴らしい先輩、そして、私の大切な友達がいるのだから。
「ちょっとよろしくて? ユキナさん?」
隣を歩いていた羽咲先輩が、声をかけてくれた。
「…… はい、何でしょう?」
「想いは伝えられましたかしら?」
「へっ⁉︎ 想いって、何のことでしょうっ!」
「ふふ、とぼけなくていいですわ。前から分かってましたわ」
「…… そうだったんですね」
と、ユキナは前置きして、
「本当にごめんなさい。羽咲先輩の気持ちを知っておきながら、先走ってしまい……」
ユキナは、どんな言葉も受け止めるつもりでいた。覚悟していた。
しかし……
「そんな悲しい顔をしないでくださいですわ、ふふっ? 私は怒っていませんよ」
「…… え?」
「確かに、わたくしもマクナくんに今までにない、淡い気持ちを抱いておりますわ」
ふふっ、羽咲先輩は笑って、
「でも、だからと言って、わたくしの大切な友達の気持ちを止めることなどできません。だから、堂々と胸を張っていいのですよ?」
そうですか…… ありがとう。本当にありがとう。
「こんな私をっ! 友達って言ってくれてっ! ありがとおおおおおおお!」
「きゃっ! 抱きつかないでくださいまし! でも、元気なら良かったですわ!」
幸せそうに目を細めて、羽咲様に抱きつくユキナ。
ここで、羽咲様はひとつ提案することにした。
「でも、わたくしたちの気持ちが重なっているのは事実です。
そして、わたくしたちは大切な友達であるのも事実です」
ですから、と先輩は一呼吸置いて、
「これからは、のんびり楽しく勝負しませんか?」
「えっ?」
「今日から、六日間、予定の方は空いていらして?」
「ええと、家族に連絡すれば、大丈夫だと思います!」
それは良かった。でも、勝負って……
「これから一周間、どちらがマクナくんに『鈍行列車の良さ』を伝えられるか、勝負ですわっ!」
「ええええ! 鈍行列車の良さ⁉︎」
はい、具体的には、と羽咲様が説明を始める。
六日後に、マクナくんに聞いてみるのです。
新幹線をひと席だけ取っておいて、
「もしこれから一緒に帰るなら、どっちがいい? と」
「ええ⁉︎ マクナくん優しいから、どっちもって答えるんじゃないですか⁉︎」
「はい、その可能性は十分にあり得ますわ。ですから、その場合はあなたの勝利といたしましょう」
先輩はにっこり微笑んだ。
「え…… それじゃあ、私に有利じゃないですか、」
「先輩からのハンデですわ、無い方がよろしくて? マクナくんとお付き合いしたくないと?」
「それは…… できるなら…… お付き合いして、あちこちを旅行して、いつか結婚して……」
「まあ、素敵ですわね。でも、わたくしも、できるならそうしたいですわ……」
でも、と羽咲様は区切って、
「もうわたくしはハンデを与えていますからね、ふふっ」
初日でなぜか足を引っ張りまくった羽咲様。
当然それを一部しか知らないユキナは、首を傾げたが、
「わたくしが負けましたら、その時は最大限ユキナさんを祝福しますわ!」と先輩が言ってくれたので、
「ありがとうございます。では、私も負けましたら盛大に祝います!」と返した。
「まあ、マクナくんが最終的には全部決めるんですわ。付き合う付き合わないも含めて」
そして、と先輩は最後にこう言った。
「勝負とはいっても、旅行は楽しんでこそ、ですわ! 目一杯楽しみましょう!」
「はい!」
こうして、鈍行ヒロインレースが幕を開けた。
前を歩くマクナは、何にも聞いていなかった。
ありがとうございました! マクナは何をしているんだ……!




