各駅停車の刑ですわ?
大垣〜京都です。 ちょっと短めです!
「関ヶ原ですわー」
羽咲様一行を乗せた電車は、関ヶ原を横切っていた。
「島津家みたいだな」
「あら、もしやマクナくんは。鹿児島まで行きたいようで?」
「いえいえ、鹿児島には行きたいですが、」
「行きたいですが?」
「鹿児島には、日本が誇る『文明の利器』という、なんとも素晴らしい機械が」
「うるさいですわっ?」
マジか……手強いな。
米原からは、姫路、あるいは播州赤穂あたりまで新快速が出ている。
もちろん、俺はそれに乗って早く有馬に行きたいのだが……
「鈍行はゆっくりすぎですわー もっと早く行きたいですわー」
この羽咲お嬢様が、こんなことを言いつつも速達列車を拒否するため、なかなか進まないのだ。
「マクナくん? さっきから何をコソコソと。まさか、米原で裏切ろうとしてません?」
「しっ⁉︎ してませんが何か⁉︎」
「ふふふっ? それならよかったですわあ」
ダークな目でにっこり笑う美少女はいつ見ても怖いものだ。
そんなこんなで米原に着いたのだが、俺はある「作戦」に出る。
「羽咲様、『あくまで鈍行』の範囲で提案がございます」
「何かしら?」
そうして、俺は「作戦」を話し始めたのであった。
十分後、羽咲様一行が乗っていたのは、なんと。
「ご乗車ありがとうございます。この電車は、『新快速』姫路行きです」
普通であれば、この鈍行の申し子が許すはずでない新快速。
俺はクロスシートに身を委ねて勝利のジュースを飲んでいた。
「見てくださる? 『近江線』の駅が見えますわよ!」
「はいはいすごいですねー、駅すごいですねー」
「ふふっ、」
微笑む少女を騙している俺は少し心が痛んだが、そうでないと俺のお尻が持たない。すでに、お尻は悲鳴をあげているのだ。
十分前、俺はこう言った。
「新快速、とは言っても、実は『各駅停車』なのですよ」
「各駅停車? 新快速ではなくて?」
「はい。ほら、見てください。電光掲示板にも『次は彦根』と書いてあります。さらに、駅看板にも隣は彦根と表示されています」
「それはつまり?」
「通過する駅がない、『実質的な各駅停車』なわけです」
「そうだったのですねっ!」
「さらにもう一つ。そこから先も、実は『並走区間』と言うものがあるます」
「へいそうくかん?」
ここで俺は、少し嘘情報を混ぜたのだ。
「はい、隣には、『近江線』という電車が走っているのです」
「おうみせん?」
「はい、近江線の駅には各駅停車でも、今いる『琵琶湖、すなわち東海道線』の電車は止まりません。だから、通過しても、ご心配なく」
「そうだったのですねっ! わたくし、早く有馬につけるのですねっ!」
「おっしゃる通りです」
えへへ、と笑顔の羽咲様。
そうして、実際琵琶湖線の駅を通過しても、「近江線」の駅を通過したと勘違いさせることで、新快速に乗っているわけだ。
電車は、そうこうしているうちに、京都に着く。
「京都ですわー ご先祖さまがいますわー」
「ご先祖さま?」
「はい、わたくし神栖川家は、昔は貴族だったのでございますわ、」
「そうですか、貴族様でしたか……」
ところで、と羽咲お嬢様は一拍置いて、
「ずいぶんと、ずいぶんと、お早い到着のこと? マクナくん?」
「うっ」
「山科で気づきましたわ♪ 『わたくしは騙された、』って」
「うう、」
どうしてそんなことをしたのかしらあ、と目から閃光を放つ羽咲様。
「お尻が限界で、やってしまいました。すみません……」
白状するしかなかった。
「…… まあいいです。お尻が痛いなら仕方ありません。でもっ⁉︎ 今後は一切やらないこと! 良いですね?」
「はい……」
これにて、悪魔の契約が成立してしまったのであった。
「さて、行きますわよ? っと、あれ? おかしいですわ?」
「どうかしましたか?」
「ああ! 米原駅にカバンを置きっぱなしですわ!」
「マジか、じゃあ……しんかん」
「それはダメですわ」
ここでもダメか、どんだけ新幹線ダメなんだ……
「ああ、わたくしはもう脚が痺れて動けませんわ、取ってきてくださる?」
「マジですか……」
「場所は写真送りますわ。それと、わかっていますよね? ふふっ?」
「……存じ上げております」
「よろしいですわ」
こうして、京都から米原まで各駅停車(往復)の刑を受けてしまった俺だった。




