マクナくんっ! 私は、私は!
ユキナさん…… がんばれ!
ごおおおおおおおおおおおお。
「ねえ、急にどうしたのー? 先輩?」
ユキナが、羽咲様をからかう。
「うう…… わたくしは何も知りませんわ……」
羽咲様が、アイマスクをして、寝たふりをする。
「あー、先輩、逃げちゃった」
「に、にげてなどっ!」
「あ、やっぱり起きてる」
ユキナは絶好調だ。
「まー、マクナくんにあれだけお願いされたら、私たちも折れちゃうますねー」
「はい…… マクナくん、わたくしのことをそんなに……」
そう、マクナくんは、羽咲先輩の首席を守るために全力で飛行機を提案した。
結局、私たちは熱意に折れたのだが、ただでは妥協しなかった。
「ファーストクラスは認めませんわっ!」
「そうだよっ! エコノミーいのちっ!」
とても社長令嬢には似つかない発言をした二人に、マクナは妥協した。
「寝れないじゃん……」
と言っていたマクナは、まだ離陸前なのに寝てしまった。
「まあ、わたくしたちが動き回りましたから、」
「そうですね、疲れるのは必然でしょう」
七日間頑張ったマクナを褒め称えたのであった。
「さあ、東京ですわー」
「東京だねえ」
ふう、なんとかだな…… 正門前まで来た。
なんとか大学に間に合ったが……
「ユキナ、ユキナはここまでかな?」
そう。ユキナは俺たちとは別の大学だ。だから、どうしても一回解散となる。
「うん…… そうだね。ありがとう!」
ユキナは微笑んで、
「七日間、本当に楽しかった!」
「そうか、それならよかった」
「よかったですわー」
それじゃあな、と言おうとした次の瞬間。
ぎゅ、っと俺はユキナに抱きしめられた。
「ありがとね…… マクナくん。ありがとう……」
そう言うと、ユキナは離れて、先輩を見つめる。
先輩は笑って。
「いいですわよ。わたくしの幸せは、大切な友達の幸せですわ! 頑張りなさい!」
うん…… とユキナは頷く。そして、こちらを見る。
「マクナくん…… その…… 私が、中学の頃、忘れ物をしたのを覚えてる?」
なんだろう、あったようななかったような。
「その時、私はすっごく怖かったの。提出ノートを忘れて、先生に怒られたり、みんなに笑われるのが。私、すっごく真面目だったから」
でも、とユキナは笑って。
「その時、マクナくんが、見つけてくれたんだ。私のノート。『俺の机にあったよ』って」
ユキナは、俺に近づいて、大きな瞳で見つめる。
「その時、私は…… すっごく安心したの。すっごく嬉しかったの。そして、」
ユキナは、俺から目を逸らさない。しっかりと、俺の目を見て。
「その時から、マクナくんのことが、大好きになっちゃった!」
ユキナの瞳から、涙が流れた。
「うそ…… 私、なんで……、でも、ずっと伝えたかったの。中学も、高校も、それからも」
「……」
「マクナくんに嫌われたくない、って思って、ずっと伝えられなかったよ。羽咲先輩のような優しい子がいるから、私じゃ無理、とも思った。でもね、でもね」
ユキナは、涙を拭って。
「やっぱり、ちゃんと伝えないと、マクナくんは気づかない」
「……」
「いい? ちゃんと聞いててね? 空耳はナシだよ?」
そしてユキナは。
「私は、マクナくんが大好きです。糸静幕那くん。わたし、諏訪結姫奈と、お付き合いしてくださいっ!」
「……」
社長令嬢として、真摯にお願いした。
深くお辞儀をするユキナ。俺のことを、「大好き」と言ったユキナ。
「そうか…… ごめんな」
「……⁉︎」
固まったユキナ。そして、
「そう、そう…… そうなの……」
寂しそうに、頭を上げたユキナ。
「やっぱり、私じゃあ、そうだよね。ごめんなさい…… うう……」
泣きそうなユキナ。でも、頑張って泣かないユキナ。
あくまで、私の、私なんかの、お願いだから。
マクナくんに、強要しちゃ、ダメだから。
「良いの。伝えられただけで十分。私は、それでも幸せ。でもね?」
ユキナは区切って、
「また一緒に旅行行こうね! 大切な友達、マクナくんっ!」
「…… はい」
マクナは、ユキナに、応えてあげたかった。
だってそうだろう。俺の大切な人が、こんなに勇気を出して、気持ちを伝えてくれたから。
俺は、本気で…… 本気で、ユキナが好きだ。
でも、俺は、抱きしめてあげることはできない。
俺だって、できるなら、告白したい。
大好きな、大切な、ユキナちゃん。優しくて、明るくて、真面目なユキナちゃんに、告白したい。
でも、できない。俺では、ユキナは…… ユキナは、幸せにはなれない。
「なんでですのっ! マクナくん!」
「⁉︎」
羽咲先輩が、俺の手を取って。
「マクナくん! どうして…… どうして! 好きな子の告白を!」
「…… 何故それを…… あ、もしかして……」
「地の文でバレバレですわっ! なんで自分の気持ちに嘘つくんですの!」
だって…… 俺は、朴念仁だから。
自分でも分かってるから。
それが理由で、人を悲しませたこともあるから。
人の気持ちを、気づいてあげられないから。
だから、僕には、
「できますわっ!」
羽咲先輩は、必死に話す。
「マクナくんが、出来ないはずないんですっ! あんなに優しいマクナくんなら、普段なら、出来るんですっ!」
でも、と先輩は区切って、
「今のマクナくんはっ! 何にも考えていませんわっ!」
先輩は悲しそうに俺を見つめる。
「俺じゃ無理…… って諦めた途端、ユキナさんは悲しむんですよ! マクナくんもですよ! わたくしもですわ! そんなバッドエンドを迎えたいのですかっ!」
「……」
すると、ユキナは微笑んで。
「そう、そうだったんだ。マクナくんは、優しいね。でもね、マクナくん」
ユキナは涙をこぼして。
「私だって、怖かったんだよ? 私みたいな明るい子が、一人が好きだったマクナくんに近づいたら、嫌だろうからって。ずーっと、告白するのが怖かった。でもね、私はちゃんと宣言する。約束する」
「私は、どんなマクナくんも好きだから。今みたいに、付き合うのが怖くてもいい。無理に付き合わなくてもいい。でも、悲しんだり、自分を責めるのはだめ」
ユキナは俺の手を優しく握って。
「マクナくんが、堂々と付き合えるようになるまで、私は待ってるね!」
満面の笑みで見つめるユキナ。
「ゆっくりでいい。焦らなくてもいい。嫌、と言われない限りは、私の隣の席、空けておくから。だから、」
「ずっと幸せでいて下さい。私の大好きな、大好きな、マクナくん」
マクナは、泣きそうだった。
「ユキナ……」
ユキナは、俺のことが好き。
ユキナはそれを伝えた。頑張って伝えた。なら。
「ありがとう、好きだよ。ユキナ」
「⁉︎ 」
ユキナは悶えて、うずくまる。
そして俺は、時計を確認し、全速力で大学正門へ向かっていった。




