そう、それが。大切な後輩の願いなら……。わたくしはっ!
鈍行令嬢……
「やばいですわー」
「やばいねえ」
何かを見抜いた羽咲と、うずくまりから解放されたユキナ。
ついにピンチに気づく。
「あれ…… 今日、最終日で……」
「はい、旭川駅まで来まして、時刻表を見たら……」
「「電車がない〜!」」
ほれみろ…… 明日朝から大学、そして旭川で終電を迎えた。
だから間に合わないと思ったのだ。
「マクナくん! なんで帰れないって分かってて言いませんの!」
「そうだよ! 知ってたなら言ってよ!」
「いや、だから…… すみません」
鈍行法違反で意識を飛ばされたマクナ。本人は気づいていないが、マクナは話すこともできなかったのだ。
「あ…… でも、もしかして、マクナくん。こうやって無理矢理、」
「え! マクナくん! 私たちとのもう一泊作戦⁉︎」
「いや、違うから…… それより、明日の大学どうするよ?」
レポート提出をしなければ、成績下位で確実に北海道移住だ。
「そうですわ…… 首席のわたくしなら、もしかしたら先生を説得できるかもですわ」
「ただ、それだと先輩の三年間の努力に泥を塗ってしまいます。それに、減点はどのみち避けられません」
それはそうだ。もう大学生なんだから、欠席かつレポート未提出は当然減点対象である。
ただ、俺には秘策があった。
「でも、大丈夫です。俺には、アマミ先生を説得する、『秘策』があるので。任せて下さい」
「ひさく……? まあ、そこまで自信がありまして? それならいいですわ。わたくしの首席卒業は、マクナくんに託しますわ」
責任重大だ。でも、大丈夫。絶対大丈夫。
俺は、プロのパイロットを信じてるから。
そう、俺は飛行機に乗せる。否が応でもだ。先輩の首席は、新千歳発羽田便にかかっている。
絶対に先輩を乗せるんだ。絶対に。
もしかしたら、先輩は「そんな、首席なんていいですわ」
と言うかもしれない。でも、俺はそれを許さない。
だって、先輩は、カッコいいから。
どんなに俺が速達列車を使いたがっても、どんなに自分がキツくても、どんなに時間がかかっても、自分の信条を貫く羽咲先輩。
そんな、己の道を突き進む先輩を、俺は尊敬する。
そして、羽咲様の「己の道」は鈍行だけでは無い。
どんな時も、真面目に真摯に頑張ってきた。
貪欲に成績を重ねてきた。
そんな先輩も、俺は尊敬している。
俺がこれから行う行為は、鈍行信条に背く行為だ。
最後の最後で、飛行機に乗せるのは。
だから先輩は、最初は嫌がるかもしれない。
だってそうだろう、鈍行法まで定めるお嬢様だもの。
でも、俺はちゃんと説得してみせる。
「羽咲様は、三年間頑張ってきた。小さいころから頑張ってきた。だから、羽咲様の「首席」という肩書きは、単なるステータスではない。大学四年まで、二十二年間の、羽咲様の想いが詰まった集大成なのだ」と。
だから、羽咲様の首席卒業は、絶対に守るべきだと。
「…………はい、はいですわ……」
羽咲様が、いつのまにか俺を見つめている。
終電後の旭川駅前。ひんやりした空気の中、先輩は俺を見つめる。
「マクナくん…… ちゃんと、受け止めましたわ」
「え? な、何をですか?」
俺、まだ何にも話してないが。
先輩は、涙を流して。
「明日の九時までですわ」
にっこりと、微笑んだ。
ああ、地の文を読まれたか…… まあ、どっちみちセリフは同じだ。
「ありがとうございます。羽咲先輩。絶対、首席とって下さい」
「はい……、はい、はい、はいっっっっっ! ですわっ!」
先輩は、嬉し涙を流し続けた。
さあ行こう、新千歳へ。
ありがとうございました!




