第九章 新たな試練
順調に進みそうだった、人間用GGSに新たな問題が出てきました。ドーピング対象になるということです。
薫たちはどのように対処するのでしょうか?
理事長あてにWADA(世界アンチ・ドーピング機構)から通知が来た。
内容は、WADAはGGSを禁止薬剤と指定するように進めている。その前に、GGSの説明と財団側からの弁明を聞きたいので訪問したいとのことであった。
薫は驚いて、
「既に適用してしまっているアスリートの方もいます。今さら言われても・・・
だからFDAもEFSAも認可しないのかな。」
と言ってミユキに詰め寄った。
しかし、ミユキは余裕があるように見えた。
「先方がいらっしゃるなら、お話を聞こうじゃありませんか。」
会合の場は、文部科学省が設定した。WADAからは常任理事の細川文部科学副大臣をはじめ規制薬物選定作業部会の委員たち総勢10名が、JADAからは会長の鈴木氏、参考人として厚生労働省からは、伊達副大臣、医薬局長の藤田が同席していた。
WADA側から、GGSに対する疑義について説明があった。
「GGSは全く新しい取り組みの薬品であり、飢餓救済という観点では素晴らしいものだと伺っております。しかし、スポーツ界にこれを適用するとなると、人間の基礎的な能力、特に持久力の元となるエネルギーを無限に供給できることになり、GGSを用いないアスリートとの間に著しい不公平を招きます。したがって、WADAとしてはGGSを禁止薬物に指定せざるを得ないと判断いたしました。」
それを聞いた薫は、指摘事項はもっともで、言い逃れはないなと思ったが、ミユキがどうこれを返すのか興味があった。
「おっしゃられることは分かりました。私のほうからGGSについて説明いたします。
GGSはご存じの通りクロロフィルを基材にした薬品で、これを皮下に注射し展開することで光合成をおこなう下地を作ります。この機材は一度作りますと消すことはできません。あえてと申せば、皮膚組織を真皮まで交換すれば除去可能かもしれませんが、現実的ではありません。
しかし、この基材だけでは光合成で得た糖を体内に吸収できないのです。活性酵素を加えることで糖の吸収が始まります。
活性酵素は一度吸収を開始すれば、追加の必要ありません。
おそらく、WADAの皆様が懸念されているのはこの機能のことだと思います。」
「はい、確かにそうです。一度使うと使わない状態に戻れない。これでは公平性が保てない。治療目的の特例でもない。」
と委員の一人が発言した。ミユキは続けた。
「まだ、あまり知られてはいないのですが、我々にはこれとは別に抑制酵素があります。これを注射すれば活性酵素の働きが止まり、糖の吸収が行われない基材のみの状態に戻ります。
これは、病気の治療などで栄養過多になってしまう場合などを想定して、GGSを止める必要が出たときに使う用意がされていたものです。競技開始の一定期間前にこれを使って機能停止すれば公平性は保てるのではないでしょうか?」
薫はミユキの発言を聞いて、そこまで考えてあったんだと感心したが、WADAはそんなに甘くはなかった。
すでに、ミユキの中では対策方法はできていたのですね。これで一安心でしょうか?
WADAとの会合はまだ終わっていません。




