第十章 技術対ルール
ミユキの提案に対し、WADA側から反論が来ます。財団のピンチです。
「ご説明ありがとうございました。抑制酵素については一度こちらでも調査させてもらいます。ほかの委員の方はどうお考えかわかりませんが、私からまず質問させてください。
第一に抑制酵素を使っていることを客観的に証明可能でしょうか。
第二に競技中は機能停止させても、練習中は機能しているとなるとこれも公平性の観点からみて疑義が出ます。いかがでしょうか?」
「我々は実験で効果を確認するために、明所で食事をとらずに放置した時に血糖値が低下するか、維持するかで判断してきました。しかしこれを人に適用することは著しい人権侵害になりますから使えないです。」
「ならば、無効偽装も可能になってしまうではないですか。」
「いえ、それには対策できる方法があります。GGSには、純正証明とトレーサビリティのために無害のマーカー物質をいくつか選んでフィンガープリントとして混入してあります。抑制酵素にもそれを適用すれば、マーカーの検出で証明が可能です。」
「フィンガープリント自体の偽装対策はありますか?」
別の委員が聞いてきた。
「使えるマーカー薬品は何種類かあります。組み合わせを変えれば何通りも作れます。定期的に、もしくは大きな大会の直前にWADAとの間でマーカーを決めてアスリート専用に提供すれば、フィンガープリントのコピーは極めて困難になります。それではいかがでしょうか?」
「なるほど、理にかなった方法だな。」
「練習時に使う件はどうなりますか?」
別の委員が聞いてきた。
「練習だけ使用して本番で使用しないと栄養不足で実力が出なくなります。競技継続中は抑制するでしょう。」
「ところで、フィンガープリントのマーカー薬剤はそのまま体内に残るのかね。」
「はい、残ります。」
「何度も抑制と活性を繰り返すとすべてのマーカーが体内に蓄積されませんか。」
「・・・・・・」
ミユキは回答に困った。
「確かに残ります。アスリート用の抑制酵素に入れるマーカー剤はもともとトレーサビリティ目的ですから消えないです。」
「それでは完璧なフィンガープリントにはならない。」
「でも大丈夫です。マーカー剤はもともとトレーサビリティ用に分解防止処理がされています。分解可能にするのは容易です。あとは保持期間の調整だけです。」
「オリンピックを考えると、最低でも30日の有効期間があればよい。」
「それなら半年あれば対応可能です。」
次にマーカー剤の検出方法について質問があり、血液検査に難色を示された。
「観血式は避けたい。尿では無理か?」
「分解排出しないので尿では検出できません。」
ミユキは窮地に追い込まれた。手札がなくなった。しかし、表情を変えることなく言った。
「非観血式のハンディな検出装置の開発を進めます。」
「どれくらいで可能なのか?」
「試作機に半年、一年後には提供できます。」
「可能なのか?」
「・・・・」
「やり遂げます。」
ミユキは決断を迫られました。この宿題を達成できないと。禁止薬物指定されてしまいます。
どうするのでしょうか?




