第十一章 組織の力
ミユキが断定したことは勝算があってなのか?
会議が終わって、ミユキは何を話すのか。
このあとも、供給体制の確認や財団の財務状況について聞かれ、2時間ほどの会合が終わった。最後に作業部会の委員長が締めた。
「本日はご説明ありがとうございました。GGSに対する疑義については我々も再検討いたします。WADAサイドで抑制について安全性や機序の確認が必要です。フィンガープリントを施したサンプルを提供いただけますか?」
「はい、それはいつでもご用意できます。」
「分解性のフィンガープリント搭載の抑制剤と、検出器の試作機は検証結果を添付の上、半年後に納入願います。」
「わかりました。」
「最後に一つお願いがあります。」
ミユキが付け加えた。
「最終判断が出るまでの間、新規にアスリートへの提供は控えます。しかし、すでにGGSを適用しているアスリートが104名います。彼らに不利益がないようにご配慮願います。」
「わかりました。今の段階ではまだ禁止物質とは決定しておりません。大丈夫です。」
会合は、条件付きながらミユキたちの成功に終わったようにみえた。
帰りの車の中で、薫はミユキに聞いた。
「先生、すごいですね。ちゃんと計算して抑制剤まで作っていたんですね。GGSキットの中にあるのは知っていましたがこんな使い方をするとは思ってもいなかったです。」
「違いますよ。私は何もしていないです。フィンガープリントをつけただけ。抑制剤はあなたの叔父さんである史郎さんが最初から作っておいてくれたものです。すごい先見の明ですよ。」
でも、ミユキの顔は浮かない。
「先生、どうしたんですか?」
「宿題がね。マーカー剤の分解排出はともかく、検出器なんて全く検討してないの。」
「えーっ。どうするんですか?」
「明日から考えますか。」
ミユキはニコッと笑って言った。
その夜、薫と藤田は久しぶりに件の焼鳥屋で一緒に酒を飲んでいた。
「今日はお疲れさまでした。」
薫が言うと藤田はニヤニヤしながら、
「俺は何もしてないぞ。」
と言った。
「局長になっていたんだ。すごい出世じゃない。」
「局長なんて、大臣や副大臣のカバン持ちだよ。今日もついていっただけ。お前こそ事務局長で財団理事じゃないか。」
藤田は、焼き鳥を食べながら言った。
「藤田さん、隅っこで怖い顔してにらんでいるんだから。」
「何も言うことのできない立場だからな。今日は酔いつぶれるなよ。」
「大丈夫ですよ。」
久々の二人だけの時間が過ぎていった。
翌日、ミユキは財団の開発陣を集めて、昨日の経緯を説明した。
木下副理事長は、
「大変なことを約束しましたね。しかし、やるしかない。」
「ごめんなさい。あの場ではそう言うしかなかったの。」
ミユキは謝るしかなかった。
「マーカー剤を30日経ったら分解させるのは何とかなるでしょう。江崎主任、君のところでやってもらえないか?安定剤の濃度を変えて試験すれば結果は出ると思う。」
「問題は検出器だが、原理は今の血液検査と同じことをプレパラートではなく皮膚でやるだけだが、・・・・
一週間だけ考えさせてくれ。」
木下はそう言って、部屋から出ていった。
「彼に任せるしかないですね。」
ミユキは、心配顔で木下を見送った。
最後は木下の技術力だよりです。彼ならなんとかしてくれるのでしょう。
次回をご期待ください。




